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第5話 能力世界探訪

能力には一般的に2つの種類が存在すると言われている。


「出ろ! 『パイロロッド』!」


 校庭の端。

 体育着を来た男子生徒が唱えるとその右手に赤色の槍が現出した。

 くるくる回転させると軌跡に赤い炎が踊る。


 武器を現出させて、その武器に特異な能力を保有させる


武器ウェポン型』


 そしてもう一つが


 少年と対峙した相手がパチンと手をたたく。

 するとその両手の間に炎が滾る。

 

「槍周辺にしか炎を出せない奴が俺に敵うとでも?」


 特定の武器を発生させず、例えば『炎を操る』という『能力』だけを得る


能力アビリティ型』である。


 一般的に応用が利くが一発の出力が低いのが『能力型』で、

 応用は利かないが出力だけは高いのが『武器型』と言われている。


 どちらも一長一短でどちらが優れているという訳ではない。


 史郎は校庭の端で炎をまき散らし互いのバッジを破壊しようとしている二人の生徒を眺めながら総菜パンをかじっていた。


 昼休み。

 人目に入りにくい渡り廊下の下の日陰。

 そこが友人のいない史郎のここ最近の住処だった。


 校庭が見えるので何とはなしに校庭を眺めていた。


 3月の麗らかな日差し。

 暖かな校庭ではつい先日から多くの生徒が模擬戦闘を行っていた。

 

 ついこの間までは昼休みに校庭を走り回る奴などいなかったというのにだ。


「ふう」


 その原因がこれだ。

 史郎はガサリとそれを取り出した。


 ポケットに畳んで入れておいた用紙。


「『期末能力試験大会』、ねぇ……」


 一週間ほど前、突如メールで告知された大会。


 その詳細だった。


 曰く、全校生徒参加型のイベントとのことだ。

 3年生8クラス総勢320名

 2年生8クラス総勢320名

 1年生8クラス総勢320名

 これら960名の数十組に分けて校内を舞台にサバイバルをさせ生き残った生徒を集め再度サバイバルをし……

 という具合に生徒を絞っていき、優勝者を決めるそうだ。


 その間、他の生徒たちは体育館で待機。


 体育館の壇上の壁には校内の至る所で行われている戦闘映像が流れるらしい。


 確かにいくつかの能力を併用すればそういった現地のリアルタイム映像を入手することはできるが……。


 ちなみに能力を使用しバッジを奪い合うのだそうだ。


 ルールは皆それぞれ自身の個別能力を使用することのようだ。


「恐らく優秀な能力者を見つけるために義務付けたんだろうが……」


 ナンセンスだ。史郎はため息をついた。


 自身の個別能力を洗いざらい知られるのは致命的な弱点になりかねない。


 そのため誰もが見られる環境での能力使用の義務付けなど本来ならば溜まったものではないのだが……


「ヘッヘ、俺のこの火炎の出力には皆驚くはずだぜぇ!」


 校庭の男子の血気盛んな声が耳に届く。

 

 史郎は嘆息した。


◆◆◆


ここで一応能力の発現条件を解説しておきたい。

っといっても死ぬほど簡単な方法だ。


まず第一に


多くの人が自分自身の『ジンクス』というものがあるのではないだろうか。



 例えば、自分はよく口にした言葉が現実になる。


 自分は人に見られているとよく気が付く。


 など。


その中のどれかは能力の萌芽なのである。


『能力』に昇華可能な『ジンクス』を保有する人間が、それを『能力』に昇華させることで、人間は『能力者』になるのだ。


 ならばどのように『昇華』するのか。


 単純。


 自身の危機的状況でそのジンクスに『頼る』のだ。


 自分はどのような高所から落ちてもなぜか怪我をしないジンクスがある。

 火災でビルの中階に取り残され、生き残るためにその『ジンクス』を信じてビルから飛び降りる。


 言葉にした内容が決まって現実化する。

 不良に追われる中『警察が現れますように』と唱え続け、その『ジンクス』にだけ頼る。


 など。


 それらを通して身を救うと『ジンクス』は『能力』に昇華する。


 そして科学では証明できない『ジンクス』に頼り、危機をしのぎ切った人間は常識の範疇を超えた存在、『能力者』になるのだ。


これが一般人から能力者になる方法である。


 そしてジンクスを昇華さえ能力者になった瞬間、皆、自身が特異な存在だと『自覚』する。


『能力』というものを自覚し、そして自身が常識の範疇外の存在になってしまったことを知り孤独感に苛まれる。


それが能力者誰しもが通る道なのだ。


史郎もそうだ。


もともと友人の多い方ではなかったが、自身が『能力者』になったと自覚すると言葉数がめっきりと減った。

 周囲の人と自分の間に見えない膜が張られたようだった。

 いつしか友人も史郎の周囲から去っていった。


 孤独感。


 それが能力に目覚めた人間に決まって訪れる心境変化の一つだった。


 孤独を紛らすには群れるしかない。

 だからこそ能力者は昔から能力者同士で繫がりグループを作っていた。

 それは今も変わらない。


 世界中には今も様々な能力組織がある。


 忽然と姿を消した『無差別能力覚醒犯』だが、


 今現在、能力者の間では能力開放サイドの差し金だったのではないかという考えが一般的だ。


通常の能力発動機構を無視し、不可思議な方法でおびただしい数の能力者を生み出していった『覚醒犯』


 能力隠蔽がより一層困難になるのは想像に難くなく、現行の能力世界と一般世界との均衡を破壊する存在のためその検討は妥当である。


 事実、都立晴嵐高校を初めとする能力覚醒した学園の隠蔽はなかなか骨が折れたという。


 徹底したかん口令が敷かれ、能力発現した生徒たちには人の世で無暗に能力を使用しないよう発現その日に『隠蔽』を担当する関係者が厳しく指導していた。


 また本件で覚醒した能力者は通常能力者にポテンシャルが劣る可能性が高く能力社会で生きていくのは厳しいと判断され、一般世界で能力を忘れ生きていくことを強く勧められている。

 能力社会は力社会だ。

 ルールよりもどのような能力を有するかが重要でとてもではないが彼らには不適だった。

 そして能力社会特有の『力があれば何をしても良い』という理不尽。

 それを理解させるためにも『能力社会』は学園に対する『不干渉』を貫いており、それにより晴嵐高校を初めとする能力覚醒した高校は独自の生態系を発生させており、『権力会』などというものはその最たるものだった。


 そのうえで非常事態が発生しないようネット上で『監視』を行っていたのだが、そんな中『期末能力試験大会』の話は入ってきた。


「いいですね、これ」


生徒のメールの案件を一読し、『監視』の男がにやりと笑う。


「あぁ、なまじ外から手を出すなと言われていたから何も出来なかったが、これは好都合だ。これを利用すれば『覚醒犯』を招き入れた『内通者』が割り出せる」



 場面は切り替わり暗い部屋で二人の男が囁き合う。

 晴嵐高校を初め能力覚醒をした学園を監視する者達だ。


「最後のターゲットとなった晴嵐高校。その周囲には手練れの能力者が張っていました。しかし目標が高校の『外』で突然姿を消し、『内』に現れた。監視カメラの映像からも明らか」


「間違いなく手引きした能力者がいる。この晴嵐高校の中に」


「『覚醒犯』と繋がっていると思いますか?」


「有り得る話だ。結果的に覚醒犯は成功したんだからな」


「となるとこれを放置すると『開放派』がうるさいですかね」


「だろうな。能力使用の徹底などをルールがある以上『内通者』露見可能性が高まるからな。だが、大丈夫だろう。何せ彼らが『勝手に』能力使用のルールをつけたんだからな」





「結局『開放派』もそこまで抵抗しなかったようよ」


「意外だなそれは」


場面は切り替わり『赤き光』のナナと史郎は飯を食べていた。

夜七時。任務の帰り道である。


ナナから詳しい話を聞いたところ


『権力会』の元にはもともと多くの男子生徒から能力を使用した大会の開催の要望が入っていたようだ。

そこに来年度の人材募集や、『権力会』メンバーの個人的事情も相まって開催が決まったらしい。

優秀な人材を集めるために『能力使用』のルールが加えられているとのことだ。


「んで、もともと学園の生徒のアンタが内通者を探し出しなさいって言われているってわけ」


「それなら『開放派』も口出しできないか」


 史郎は前に置かれたラザニアをほおばった。


「といっても難しいぞ? 内通者割り出すの」


内通者発見を再度促された史郎は額にしわを寄せていた。


晴嵐高校の生徒は総勢960名。


内、史郎の功績により能力が割れている者が644名。

未だ316名の能力者の能力は割れていない。


その中に内通者はいるのだろうが・・・


「そもそも能力使用の義務だって口約束だしな」


「だからもっと先を見据えているんでしょ。アンタは半年かけて644名の能力を調べ上げた。つまり一日4名くらい? でもそれがこの一日で一気に100名も調べられれば儲けもんじゃない? 一気に索敵が進まるわ」


向かいのナナは目の前のラザニアを頬張り話し続けていた。

ドリンクバーを取りに行く若者がナナを目にしホゥと感嘆の息を漏らす。

話が変わるがそれほどナナの外見は素晴らしい。

性格が良ければ最高なのだ。


ナナは男の視線も無視し話し続けていた。


「だから史郎、アンタは気合入れて『肉体強化能力者』と『テレキネシス能力者』を見つけるのよ! そいつが内通者だからね!」


「はいはい分かってるよ」


史郎は適当に返しながらレモンスカッシュをすすった。


実際に史郎はここ半年、密かに生徒の能力を探り続けている。


本来ならばもっと早く手が打てたはずだったのだ。


しかし横槍が入り、その作業は遅々として進んでいなかった。


つまり、覚醒犯に能力覚醒された子供達に対する不干渉の原則が邪魔をしているのだ。

本当なら無理やりにでも能力発動させ、内通者を割り出せた。

しかしそれが出来ない。

おかげで内気だったり平和的だったりする者は自分から能力を使用せずどのような能力を保有しているか分からないのだ。


その遅々として進んでいなかった作業を一気に進める。

それが今回の任務の醍醐味だった。


「史郎、頼んだわよ」


ナナは続けて運ばれてきたハンバーグにかぶりつき満面の笑みを作っていた。


(どんだけ食うんだコイツは……)


史郎はため息をついた。


そしてそれから数日の時間が流れ……





「ではこれより期末能力試験大会を開催いたします!!!!」


試験当日になっていた。


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