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第10話 世界とは壊すもの



「フッ」


青木をオーラ刀でわき腹から肩に抜けるように切り飛ばす。

が、その最中、史郎に閃くものがあった。


(……ッ)


そしてその閃きに従い史郎は青木の切り飛ばす途中、オーラ刀を消し去った。

結果


「カハッ……」


血だらけの青木が資料館に転がった。


「手心を……、加えたのかい……ッ?」


身体の半分近くを切られ夥しい血を流し続ける青木。

青木は苦悶に顔をゆがめながら呟いた。


「その甘さが、命取りになるよ史郎君……?」

「甘い?ちげーよ。情報を吐き出させるためだ。だから吐け、全てを。そうしたらもうしばらく生かしといてやってもいい」

「は、そういうわけかい……」


確かに史郎は青木を仕留めるのを控えた。

だがそれは尋問のためである。

テロの首謀者である青木は重要情報を保有している可能性が高い。

そして――史郎の目算によると――このタイミングでなら青木はそれを吐き出す可能性があった。

そして――


「教えろ。お前が、先のテロで『悪意をさえずる小鳥』を解放しようとした理由はなぜだ? 『鈴木康彦』と何か関係があるのか……?」


史郎が出し抜けに『鈴木康彦』の名前を出すと青木の瞳が開かれた。


「何か、関係があるんだな……?」

「ふ、そこまで既に掴んでいるのかい。だが生憎だったね……。僕と鈴木は今は無関係だよ……」

「今は?」


青木の台詞に引っ掛かりを覚え史郎が繰り返すと、地面に転がる青木はチラリと自身の傷を見た。

今もドクドクと流れ出る自分の血。

自分の死期が近いことを悟ったのか観念したような笑みを浮かべるとゆっくりと語りだした。

史郎の目算では、青木はこのタイミングでなら秘密を暴露する可能性がある。

――それは正解だった。


「最期に、昔話をするのも、悪くないね……。僕はかつて鈴木がボスを務める『第二世界侵攻』に所属していた……」


『第二世界侵攻』。

初耳の言葉に史郎の瞳が開かれた。


「組織の目的は、一般人を能力者が統治する社会秩序の構築……」


◆◆◆


「よくある能力至上主義の組織さ……。だが他とは違う特徴があった……」

「特徴?」

「あぁ、『第二世界侵攻』には有力な能力者が集まっていた……。彼らとならば、と思ってしまう程、ね……。だがある時、僕は彼らに『捨てられて』しまった……」


青木はそこで言葉を区切るとその日を思い出すかのように遠くを見た。


「悔しかったね……。だから僕は日本に『青い日』という組織を作り、その裏で優秀な能力者を育て始めた……。もし彼らが活動を開始したら僕に一目置かせてやろうと思ってね……」

「それで、テロを仕掛けたっていうのか? 彼らが欲しがるであろう『小鳥』を仲間に引き入れるべく」

「まぁ、そんなところだね……。彼らの悲願の一つにそれはあった。それに、そろそろ彼らが『動き出す』であろうことは分かったからね……。だから僕も動いたんだ……」

「なぜ動き出すのが分かっ……。……そうか。『無差別能力覚醒犯』か……」


史郎が顎に手を置き思考を巡らせると青木が感心したように微笑んだ。


「そこまでも把握済みか……。凄いね史郎君……。そうだ、『無差別能力覚醒犯』、あれが号令だ。おそらく彼女は、鈴木が放った。恐らく目的は――」

「分かっているよ、『無効化能力の取得』だろう」


考えたくもないが、新しい能力者を作る。

その目的はそれ以外もはや考えられなかった。

史郎が先手を取って呟くと、青木はお手上げだとでも言うように笑った。


「素晴らしい、賢い子だ……。組織にはいくつかの悲願があった……。うち一つが『無効化能力の取得』。そして『無差別能力覚醒犯』にはその可能性があった……。そしてその疑念が最近確信に変わった……。だからテロを起こした」

「なぜ確信に変わったんだ?」

「フ……、彼らに対抗できる能力組織を作るにあたって、僕が最も重視した能力者がいるんだよ……。それは記憶保管の能力者……。絶対記憶の力を有する能力者さ。その理由は、ここまでもう把握しているんだ、史郎君ならもう分かるんじゃないか……」


記憶保管。絶対的な記憶を保管する能力者がいる。

そして、もしそのような記憶能力者が必要になるのだとしたら、それは――


木嶋は期末能力試験大会の際、言っていた。


『……忘れた』


木嶋は自分をそそのかした男の顔を思い出せないと言っていた。

『無差別能力覚醒犯』を招き入れる算段をした男を覚えていないと言っていた。

それはつまり――


「いるのかやはり。『第二世界侵攻』に忘却操作の能力者が……!」


青木はコクリと頷いた。


「あぁ、いる……。そして能力覚醒に当たって唯一『予告状』が突きつけられた都立晴嵐高校……。方式が違うという事は……そこには何かあるに違いない……。だから僕は予め絶対記憶の能力者に学生の名前を全て覚えさせた……。そして最近、彼女がおかしなことを言い出した……『      』とね」


青木はそこで絶対記憶の能力者が放った台詞を告げた。

そしてそれは、史郎が最も懸念していたものだった。


「く……」


思わず史郎は奥歯を食いしばった。

史郎の懸念は正鵠を射ていたのだ。

悔しさで顔を曇らせる史郎に青木は話し続けた。


「それが答えさ……。ようやく『準備』が終わったのだろう……。だから忘却出力が弱まり、僕の記憶能力者が『思い出せた』……。だから僕は動いた」


青木の告げたその台詞は衝撃的過ぎて何も考えられなくなるほどだった。

だが、歯を食いしばる。

もう『起きてしまった』ことは仕方がない。

史郎はグッと絶望を飲み込み、言葉を吐き出した。


「で、お前は知っているのか……。なぜ予告状を突き出されたのか……」


なぜ晴嵐高校だけ予告状を突きつけられたのか、それは未だに謎であり、今も話し合われている議題だった。

明確な答えは、当然まだ出ていない。

だからこそ青木が知っているのならば知りたいと思ったのだ。


「ハッ、知っているさ……。知っているともさ……。あの女が何の能力者なのかも、なぜ『固定』のハイルトンの刻印が彼らの手に刻まれるのかも、ましてなぜ晴嵐高校だけ方式が違ったのか、予測は出来ているさ……」

「なら吐け直ちに……ッ!」

「何を言っているんだい史郎君……!? 君はあの場にいたんだろう……? 『無差別能力覚醒犯』が彼らを覚醒する様を目撃したんだろう……!? ヒントを上げよう。その光景に『答え』がある……」

「ヒントじゃない。さっさと答えを言え……」


史郎の額の血管が浮き立つ。

だが青木は笑うばかりで途端に真実を吐かなくなり、全く別の事を話し始めた。

語り始めたのは


「ところで史郎君……。僕の能力を知っているかい……」


青木の能力についてである。


「もうだいたい把握したさ。爆破能力だろ?」

「正確には、『酸素に起爆性を付加する』能力さ……。多少の気体操作も出来る。先ほどの自動防御は起爆性を付加した酸素を自身の周囲2メートルに膜状に展開させ『絶対能力使役アブソリュートオーダー』で物体の侵入を感知し次第、爆撃する指令を送ったものだった……。テロリストの心臓の起爆は、僕が起爆性を付加した酸素が彼らの肺を通り心臓付近で赤血球から解離。集まった起爆性の酸素に予め『絶対能力使役アブソリュートオーダー』によって『秘密を明かそうとしたら』起爆するように指示していたわけだ……。でだ、史郎君、なぜこのタイミングで僕が能力を明かしたか分かるかい?」


そして史郎が答える前に、青木は告げた。

青木の瞳が猟奇的な光を宿す。


「君が今ここで死ぬからさ……! ――死んでくれ史郎君!」


瞬間、史郎の心臓付近で爆発が起こった。


◆◆◆


史郎は戦いの最中、思っていた。

なぜ自分は心臓起爆に晒されないのか。

考察した結果、発動条件がまだ揃っていないからだという結論に達していた。

そして青木を切り飛ばす最中、史郎は閃いていた。

自分が死の危機に瀕していて、かつ心臓爆破で史郎を殺すために『時間を稼ごうとしている』時ならば、青木も真実を話すのではないかと。

そしてそれは見事に的中し青木は真実を語り、準備が整った今史郎を殺しにかかった。

つまり、青木の反撃は予想の範囲内で

爆破から数秒後、史郎は語り始めた。


「おい青木ぃ……、こんな攻撃で俺が死ぬとでも思ってんのか?」

「なッ」



膝立ちだった史郎の喉から呟きが漏れ、青木の顔が驚愕で染まった。


「う、嘘だろ……ッ!?」


信じられない光景に青木が息を詰まらせる。

だがそんな青木を追い詰めるように、『あろうことか』史郎はゆっくりと立ち上がる。

心臓を起爆されたというのに。


「何が、どうなっている……ッ!?」

「ハッ、その理由をなぜ明かす必要がある……?」


そうして青木を圧倒しながらようやく意識が『完全に回復した』史郎は言葉をひねり出した。


起きたことは至極単純だ。


絶対能力使役アブソリュートオーダー』である。


史郎は予め起爆された際、自身にテレキネシスをかけ、立ち上がり、そして声帯を操作し言葉をひねり出すよ『テレキネシス』自体に命じていた。

それにより青木に『史郎が無事である』と思い込ませたタイミングで『絶対能力使役アブソリュートオーダー』で『悪霊(ゴースト)』を自動発動。

悪霊(ゴースト)』により無理やり回復したのである。

爆撃を受けた当初は正直意識が混濁したが、今はすっかりクリアだ。


実はテロリストの裏に潜む人物を捜索する際、史郎は一ノ瀬に言われていた。


『この任務、史郎にしか頼めない』

『なぜ?』

『なぜなら史郎以外だと『赤き光』の隊員でも死ぬ可能性があるからだ。適材適所、史郎、頼んだぞ』


史郎はテレキネシスにより血流の操作などに精通している。

体内の強化もお手の物だ。

それにより爆撃のダメージを最小限に止め、『悪霊』により回復出来る。

そう踏んでの依頼であり、史郎はずっとこの攻撃を警戒しながら戦っていたのだ。


そして青木が奥の手を使用した以上、これ以上有益な情報は吐き出さないと踏んだ史郎は


「ちょお前やめてくれ史郎k」

「黙れ」


命乞いをする青木を両断した。

頭を真っ二つにされた青木は物言わぬ死体と化した。


「クソ野郎が……」


史郎は誰もいなくなった資料館で一人吐き捨てると、一ノ瀬に連絡を入れるべく携帯を取り出した。


今ほど得られた情報の価値は非常に大きい。


そして一ノ瀬に電話が通じる。


すると『たった今得た情報が吹き飛ぶ程』、重要な情報が飛び込んできたのだ。


電話が通じると史郎を制するように一ノ瀬は叫んだのだ。


「史郎、見ろ。テレビを!!」


と。

そして散らかりきった東京【裏】中央資料館の中を歩き

唯一生き残っていたTVの電源を付けた時だ


『ただいま現場の模様を放送しています。現場からも今も黒煙が立ち込めています』


テレビに打ちされたのは欧州のとある建造物だった。

一般社会の人間には馴染みのないものだろう。

しかし能力世界に身を置くものならば誰しもが知るものだった。

それは『国境なき騎士団』の本部だった。

『国境なき騎士団』本部から黒煙が上がっていた。

それが意味するものは――


◆◆◆



報道から数日後、能力社会にいくつかの情報が広がった。


能力社会を纏めていた『国境なき騎士団』と彼らが保有していた最強組織『聖剣霊奧隊アルティメットフォース』が『壊滅』したこと。

彼らを壊滅させたのは『鈴木康彦』であり、彼の下には一人の少女がいたこと。

その少女の腕には固定のハイルトンが有する『固定』の紋章があり、つまり、彼女は無差別能力覚醒犯により覚醒した生徒の一人であり、


半年以上前から都立晴嵐高校から一人の少女が消えていることが判明した。



忘却能力者が本気を出したらどのような結果を起こすのだろうか。

それは史郎が懸念していた思索であった。

そして青木は死に際に言っていた。

鈴木が有する『第二世界侵攻』、そこにいる『忘却能力者』に対抗するべく、『絶対記憶』の能力者を手に入れたという青木は


『だから僕は予め絶対記憶の能力者に学生の名前を全て覚えさせた……。そして最近、彼女がおかしなことを言い出した……『一人、足りない』とね……』


そう、忘却操作の最大出力は『この世にいる全ての者から対象の記憶を消し去る』というレベルのものであり、役目を終えたその男は、彼女にかけていた忘却の能力を解いたのだ。



消えた少女の名前は『姫川アイ』。






これにて第4章終了です。

ここまで読んで頂きありがとうございました。

次章はしばらくしたらまた書き始める予定です。

今後とも、楽しんで書いていけたらと思っています。

もし良かったら今後ともよろしくお願いいたします。



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