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第8話 東京【裏】中央資料館


「ないな……」


メイ達とプールに行った翌日。

埃の舞う大量の蔵書が並ぶ空間で史郎は本を捲っていた。

ここは東京某所の資料館である。

能力社会の人口はとても少ない。

書籍出版というビジネスモデルは難しくここに蔵書されているのは販売ではなく記録のために某かが作成したものが殆どである。

電子化も進んでいないため、『新平和組織』の資料室で見つけられなかった資料を求めてここへ訪れるしかなかった。

東京【裏】中央資料館。通称『裏館』。

史郎が探しているのは、各思想組織の資料だった。


「これにも、一応記載はあるが……目新しい情報は無し、と」


黄ばんだ冊子を本棚に戻し、隣の書籍に手を伸ばす。

事の発端は昨日の夜だ。

メイたちがいなくなると一ノ瀬は語り始めた。


「お前が言っていた話、無効化能力の話だが、鷲崎に伝えた。鷲崎も青い顔をしていたよ。本来なら自然消失するはずだった能力。どころか強化されていることを考えれば、十分その可能性はある」

「で、今鷲崎さんは?」

「自分のつてで調べ始めている。俺もこれから動く。でだ、史郎お前にはこいつについて調べ直してほしい」


そう言って渡されたのが鈴木康彦(すずきやすひこ)の写真だった。

その際立った特徴のない写真を受け取り怪訝そうに眉を顰める史郎。

なぜこの男を? と史郎が問い返そうとすると、一ノ瀬は大きく息を吐き出し告げた。


「無差別能力覚醒犯を放ったのはこの男かもしれない」


「え?」


『無差別能力覚醒犯』

それを聞き、全身の毛が総毛だった。

その犯人の行方は今も史郎が気がかりにしているものだった。

あろうことかその人物の名前が突然転がり出てきたのだ。


「ど、どういう意味だそれは!?」


「簡単な話だ。我々が長らく能力無効化の可能性に気が付かなかったのは国境が『能力はいずれ消える』と説明していたからだ。いずれ消える弱能力ならば、まさかそれを利用する気はあるまいと思っていた。だが消えないどころか増大するなら話が別だ。強力な無効化能力が発生する可能性もある。そしてこの『能力のたちぎえ』と『彼らへの不干渉』を唱えた男が鈴木康彦、そいつだって話だ」


確かにそれが事実ならば十分その可能性もある。

史郎は今まで知りもしなかった自分達への指示の出どころを知り呆然としていた。

そしてしばらくして衝撃を受け入れると、ごくりと生唾を飲み込んだ。


「で、俺は何をすればいいんだ?再捜査ってことはコイツがどういう思想を持っていたかとかを調べなおせばいいのか」

「違う。こいつがどういう人物かはすでに知っている。で、こいつがどういう人物か。それが問題でな。この男、根っからの能力至上主義者だ」


能力至上主義。

それは『能力者は一般人より上位の存在』

その差別意識を根幹に保有する思想形態の総称で――

能力至上主義者が『覚醒犯』を放った。

それは確かに嫌な予感のするものだった。

そして史郎がじっとりと脂汗を掻いていると、一ノ瀬は決定的な言葉を放った


「でだ、もし鈴木が犯人だとすると『国境』本部地下には『アレ』があるだろ?」

「ア――」


そうだ、史郎は一ノ瀬が言わんとしていることを理解し驚愕した。


『国境なき騎士団』

その地下には能力社会におけるとある『リスク』がある。


人に対する悪意を抱く不死能力者

死なない悪意、『悪意をさえずる小鳥』や晴嵐高校を始めとする『覚醒した子供たち』

その他様々ある、今ある世界の均衡を崩しかねない『リスク』

そしてその一つが『国境なき騎士団』の地下にも安置されている。

その名は――




「なかなかいい資料が見当たらねーな」


史郎は愚痴をこぼしながら資料を本棚に戻していた。

ほこりっぽいこの東京【裏】中央資料館、現状史郎しかいない。

このような場所に用のある人物は能力社会にそうそういないのだ。


『鈴木の資料は既に揃っている。だが見落としがあるかもしれん。過去の資料で鈴木が所属していた組織に関する情報を再度洗い出してほしいんだ』


現在、この情報を持っているのは、史郎と一ノ瀬と鷲崎のみ。

今後増えるかもしれないが、現状知っているのは3人だけなので史郎にはまず彼の経歴を再調査して欲しい。


そう言って史郎はかつて鈴木が所属していた組織の名称が記載されている経歴書を手渡され


「うーんむ……」


ここ数十年の思想組織の目的・思想などその他もろもろが記載された資料を漁り、経歴書以外の記載がないかどうか調べているのである。

そうすることで、彼が今後何をしようとしているのか。

どういった目的の元動いているか、調べ直すのが目的だ。


しかし、一向に新しい資料などは見つからない。

余りの徒労感に挫けそうにもなるが、やらない訳にもいかない。


史郎は今もじりじりとした焦燥感にかられていた。


実はこの件ではさらに気になっている事もあるのだ。

それは木嶋の言っていた、自分をそそのかした人物の顔が『思い出せない』という発言である。


記憶操作の能力者は非常に希少だ。

その希少存在が相手方にいる可能性があるのだ。

しかも……、史郎は考え込む。

もしこの『忘却』の記憶操作、『本気』を出したのならどうなるのだろう。


火炎能力者はいつだって同じ出力の炎を吐くわけではない。

時と場合によって使い分け、ほんの少しの、ジャブのような炎を放つこともあれば、自身の生命エネルギーを殆ど使い果たすような超強力な大火炎を放つことも出来る。


ならば、木嶋から自身の個人情報を消して見せた『忘却』能力者がもし全力全霊の『忘却操作』をしたら一体どういった効力になるのだろう。


木嶋に施した記憶操作が相手の火炎能力者で言ういわゆる『弱火』だとしたら、もし本気、強火の『忘却操作』は一体どのような出力を発揮するのだろうか。

それは非常に恐ろしい可能性を示唆していて――


「お?」


そうしながら史郎が新しい本を手に取り目を通していた時だ、今までとは違う内容が記載されているのを発見した。

それは鈴木がかつて所属していた『能力至上』という組織の『行動指針』の欄である。


『基幹組織への成り替わり』

『政権陣営の虐殺』

『自衛隊補給基地の破壊』

その他もろもろの行動目標の中に

『『悪意をさえずる小鳥』の歓待』、という文言を発見したのだ。

これ自体は別におかしなものではない。

一般人を下に見る彼らと、『死なない悪意』は同じ思想を根に持っている。

能力至上主義者が彼女を仲間に引き入れようと思うこと自体に不思議はない。

しかし

つい先日、染谷達が起こしたテロ。

もしかすると()()()()()()()()()()()()()()()()『覚醒した子供達』を人質にとることで()()()()()()()()()()()()()()()『悪意をさえずる小鳥』の開放を目指したあのテロ。


これらは連動しているのだろうか。


と、史郎が眉間にしわを寄せた時だ


「こんなところで奇遇だねぇ史郎君。調べ物かい?」

「あ、青木さん」


能力組織『青の日』リーダーの青木敏弘(あおきとしひろ)が横にいた。

『赤き光』と仲の良い能力組織のリーダーである。

無精ひげを生やした痩身の男性だ。

史郎やナナに良くしてくれる、史郎からすると頼れるお兄さん的な人物である。


「えぇ、実は調べたい物があって」


史郎が相好を崩すと青木は眼鏡をクイッと持ち上げ口の端を吊り上げた。


「勉強熱心だねぇ、私の隊の者にも見習わせたいよ。で、何を調べているんだい史郎君?『能力プロパガンダ概略』?また渋いものを読むねぇ」


「ま、まあ色々あって……」


この任務を他人にばらすわけにはいかない。

史郎は曖昧な笑みで返すと、青木はその様子にフッと笑った。


「なるほど任務というわけか。なら聞くわけにはいかないな。僕ら『青い日』では考えられないような重要任務かもしれない」

「いやいやそんな……。でもありがとうございます……」


察しの良い青木に思わずぺこりと頭を下げた。

そして


「ところで青木さんこそ何しに来たんですか?」


と史郎が尋ね


「あ、ま、まあ少し僕も調べ物があってね……」


と歯切れの悪い返事をする青木を史郎が不思議に思っている時だ。

ブブブッと史郎のスマホが唸った。


「なんだ?」


見ると『周防』と表示されている。

その表示を見て


(ア――)


史郎は今更ながら思い出した。

無効化能力や鈴木康彦の話ですっかり忘れていたが、つい先日史郎はバー『ラコティス』で防犯カメラ映像を盗み出し、その解析を丸々周防に放り投げたのである。

つまりこの電話は――


『じゃ、犯人が分かったら教えてな~』


「あ、すいません。ちょっと友人からで、出ます!」


自分の言った言葉を思い出しながら即座に史郎は携帯に出た。

無効化能力だなんだでゴタついていたが、このテロリストの裏に潜む人物、非常に重要である。

しかもこの裏で潜む人物は、たった今史郎が見つけた資料により、鈴木康彦と繋がっている可能性すら浮上したのだ。

急ぐなという方が無理だというものだろう。

そして史郎が電話に出て口を開こうとした時だ、間髪入れず電話の向こう側で周防は叫んだ。



「史郎! 誰が浅野と接触していたか分かったぞ」



そしてそれは告げられた。



「青木だ! 『青い日』のリーダー青木敏弘(あおきとしひろ)が浅野と接触していた!!」

「えッ!?」


その報を聞いて、心臓が止まるかと思った。

突如、耳鳴りが鳴り始める。

頭がガンガンする。

めまいがして、視界がぐらつく。

そして史郎が周防の言った言葉の意味をようやく理解して、

喉をカラカラにしながら青木と距離を取ろうとした瞬間だ。


「ハハハハ」


横にはいまだかつてないほどの殺意を発し青木がいて、

青木の瞳に猟奇的な光が宿った。


「……聞こえたよ」


瞬間、史郎に爆炎が襲い掛かった。




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