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第8話 侵入。そして戦闘


「お前ら、覚悟は出来てんだろうなぁ……?」


煙が晴れるとそこに『赤き光』の第9ナンバー。

九ノ枝史郎がいてテロリストは息を詰まらせた。


「ナッ……、嘘だろ……!?」


突如現れた真の実力者に皆、頭が追いついていなかった。

そしてなぜ、史郎は晴嵐高校に侵入できたのか。

時間は少し前に遡る。


◆◆◆


「ぼががががががががががっ……」


侵入、数分前。


「あばばばばばばばばばばばばば……」


史郎は溺れていた。


「ちょっと史郎!! やめて死んじゃう!! だ、誰か止めて!!」


突如、第十三ビルに設えられていた熱帯魚が泳ぐ水槽に顔を突っ込むという奇行に走る史郎にナナは目を丸くしていた。


「早まっちゃダメよ史郎ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」


親愛なるパートナーの自殺を止めるべくナナは必死に史郎の体を水槽から引き離そうとしていた。

だが史郎は万力のような力で水槽を掴み、意地でも離さない。

史郎にも事情があるのだ。


第十三ビルに駆け付けた史郎。

史郎は即座にその場にいた新平和組織の実力者に自分の策――木嶋のテレポートで体育館内部に侵入する策を披露していた。


「なるほど。面白い作戦だ」

「ありなんじゃないですかね」


実際にこの作戦の方が明らかに敵の意表をつける。

史郎の作戦はほどなくして隊員に受け入れられた。

だがそうなると当然


「どうするんだ、木嶋との連絡は」


という問題が残る。

それに対する史郎の回答が


「大丈夫です。あそこには『海の声(シーボイス)』という能力者がいます」


そう、晴嵐高校を始め無差別能力覚醒犯で覚醒した生徒たちはおかしな能力を持つことが多い。

そして晴嵐高校には『水中で発した声を拾い取る』という超広範囲テレパス能力者が在籍している。

何それどこで使うの?という感じの能力者だが今まさにそれが使用できるわけだ。

だから史郎は今現在水槽に顔面を突っ込み半分溺れているわけで、その能力内容についても話済みだ。

だというのにナナが必死に史郎を止めにかかっているのは当然ナナがアホだからである。目の前で繰り広げられるパートナーの死の危機という特大のピンチに頭が真っ白になり慌てて止めにかかるナナ。


「ダメよ史郎死んじゃ! 希望をもってぇぇぇぇぇ!!」


一方史郎は(え? なんでコイツ邪魔してくるの!? 敵なの!?敵なの!??)と混乱しつつも水中で信号を飛ばし続ける。


そして史郎が謎のナナの抵抗にあいながら



『|あぼがっががががっががががが《おい聞こえるか水戸川!俺だ九ノ枝だ!》』


このように水中でもがくこと数秒


=え、九ノ枝くん……?=


相手方から反応があった。

海の声(シーボイス)』の能力者、水戸川アンナに信号が届いたのである。


◆◆◆


「……うそ」


一方そのころ晴嵐高校の体育館でアンナはふと脳内に響いてきた言葉に耳を疑っていた。


=おい聞こえるか水戸川!俺だ九ノ枝だ!=


そんな言葉が脳内に響いてきたのである。

間違いなく自分の『海の声(シーボイス)』が起動している。

なぜ九ノ枝くんが自分の能力を知っているの!? 

頭が混乱しかけるが、現状が現状だ。

すぐに頭を切り替えアンナは信号を送り返す。


『え、九ノ枝くん……?』


返事はすぐにあった。


=あぁ繋がった良かった!=


すぐにアンナも自身が置かれている状況を伝えようとした。


『聞いて九ノ枝くん!? 私たち今ッ』


=テロリストが占拠してるんだろ!? 今から助けに行くから安心しろ! それで聞きたいんだが木嶋は今どうしている!?=


『助けに来る』

欲しかったその言葉に思わず目頭が熱くなる。

だが今はそれどころではない。

アンナはすぐに『木嶋君は今テロリスト達と戦っているわ!』と伝えると


=まじか!!=


史郎の焦った声が返って来た。


◆◆◆


アンナの返事を聞き史郎はすかさず史郎は水槽から顔を上げた。


「木嶋は現在戦闘中のようです!! 時間がありません! 早く現場に向かいましょう!!」


史郎の提案に即座に隊員たちは頷いた。

そしてアンナの友人には『視線を送った相手にワンセンテンスだけ言葉を脳内に直接送り込む』能力者がいる。

史郎はその後、再度アンナと交信を図り作戦を伝えると、即座に現場に急行。

そのわずかな合間に

『俺、実はオリジナル能力者だったんだ』

とメイに事実を伝え、

『無差別能力覚醒犯』が姿を消したポイントで再度アンナと交信し作戦を実行。

木嶋の脳内に


『あの日あの時あの場所と、同じように』


というフレーズが浮かび上がり、史郎が『転移』。


「到着」


史郎は現場に駆けつけていた。


そんなバカみたいな方法で侵入した史郎だが



「お前ら覚悟は出来てんだろうなぁ……?」



怒りは本物である。

深い怒りを称え史郎の瞳が怪しく輝いていた。


「え――ッ」

「うそでしょ――ッ」


一方で生徒は突如現れた史郎の姿に息をするのを忘れるほど驚いていた。

誰もが助けを求めていて、そこに史郎が駆けつけたからだ。



そして数十名のテロリストだが――

史郎が現れた瞬間、彼らの中にはわずかな空白が生まれた。

だが彼らは戦闘員。


「おおおおおおおおおおおおおやっちまえお前らぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


数瞬のスタンが解けると一人の男の叫びを皮切りに


「「「「「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」」」」」」


一斉に史郎に襲い掛かった。

男達の能力により、

巨大な火炎。雷。そして周囲のパイプ、瓦礫、その他もろもろが豪速で放たれる。

生徒に怪我をさせない、そんな前提すら無視した攻撃の嵐が史郎に向かい、直撃。

爆音が轟いた。


ドォン!という鼓膜を打つ爆音と共に火の手が直上に上がる。

あの攻撃の群れはさすがの史郎でも避け切れない。


「ハハッ、これならいくらなんでも九ノ枝でも……」


確かな手ごたえを感じ周囲のテロリストはニヤリと白い歯を覗かせる。


しかし直後現れた光景に男達の表情が凍り付く。


「ナッ……!?」


なぜなら、彼らが操ったパイプなどの瓦礫は史郎の直前でその進行を止め、その先に傷一つつけず怪しく俯く史郎が立っていたからだ。

そしてこのような現象が起こせる理由は一つしかない。


「ジャ……ッ」


男は叫んだ。


「ジャックだとぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉおおおおお!!??」


『ジャック』


それは『圧倒的格上能力者』が、格下能力者が操舵する物体の操作権を力づくで奪い取る大技である。

それを行ったからこそ、史郎の手前で瓦礫などは停止しているのだ。

そしてこの『ジャック』、『圧倒的な実力差』が無いと実現不可能だ。

それを――


(まさか自身に向かう攻撃全てにかけた、のか……!?)


だとしたら、自身に向けられた攻撃のジャックしきったのだとしたら、その実力は……


(……俺達より遥か上ッ)


史郎の実力を推し量り男の瞳が驚愕に染まる。

そしてその時、こんな言葉が聞こえてきた。


「じゃぁ俺からも行くぞぉ?」


それはまるで死神からの言葉のようだった。


直後、史郎の直前で停滞していた瓦礫の山が目にも止まらぬ速度で射出された。


「「「ぐああああああああああああああああああああああああああ!!!!」」」


鉄材、木片、パイプ椅子。史郎に向けて放たれたそれが丸ごと自分達に返り、周囲の仲間を、吹っ飛ばし、薙ぎ払い、すり潰していく。

男達の断末魔の叫びと共に体育館に次々に血の花が咲き誇る。


「グア!」


ある者は壁に激突しずるずると力なく崩れ落ちた。


「いってぇッ!」


またある者は瓦礫の直撃を受け腕を折っていた。


そのようなことが体育館の至る所で起きていた。

だが男達は止まらない。


「ざけんなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」


運よく攻撃を避けられた者、当たり所が良かった者。

幸運な者達は今度は史郎に拳で挑もうとしていた。


「ウオオオオオオオオオオオオッ!!!!」


辛くも攻撃を避け切った前園は先陣を切り史郎に襲い掛かっていた。

しかし――


「なに!?」


史郎が受け身も取らずその拳を受け切る。

ガードするでもなくただ突っ立ているだけで前園の拳を受け切ったのだ。

前園に殴らせるままに顔面でその拳を受け止めながら史郎は前園を睨みつけた。


「なぁ、知っているか……。同じ能力者でも肉体強化には『雲泥の差』がある……」

「嘘だろッ!?」


前園の全身が泡立つ。

そう、それはつまり、前園が木嶋の攻撃を自前の肉体強化だけで防ぎ切ったのと同様、史郎と前園の『それだけの間がある』ということである。


「こいつッ……化けも」


言い切る暇もなかった。

史郎は前園の腕をつかむと無造作にその場に叩き伏せた。


「ガッ……」


前園が叩きつけられ床が陥没し、前園は気絶した。

それからも突如現れたエネミーを力づくで排除しようと複数の男達が襲い掛かる。

しかしそのどの攻撃も史郎は避け切り、耐えきり、代わる代わる現れる男達に蹴りを拳を叩き込んでいく。


史郎に回転蹴りを見舞う男。

しかし史郎は身を僅か下げることでそれを避け切り、お返しとばかり体を回転させ蹴りを加える。

「くあ!?」

蹴りを受けた男はピンボールのように勢いよく吹っ飛び体育館にその身をめり込ませた。


そして回転する史郎の死角から二人の男が迫る。

だがその攻撃を読み切り史郎は男達の拳を受け止め、都合体が回転していたのでそのまま遠心力で男達を薙ぎ払う。

「「うわあああああああ!!!」」

二人が壁に叩きつけられ轟音が轟く。


そして最後には、男がやはり死角から史郎の後頭部に拳を振るう。

だがやはり史郎にその攻撃を感知され受け止められる。

そして背負うようにその身を持たれると、そのまま投げ飛ばされる。

『背負い投げ』である。

だが能力強化され放たれる背負い投げは普通のそれとは少し違う。

ふっ飛ばされた男は空中で何十回転もしながらきりもみに舞い、体育館の中段。

床より遥か高い場所に盛大にその身を打ち付けた。


「チィッ! これじゃ持たねぇ逃げろ!!」


史郎の並外れた戦闘力に恐怖しテロリストの男達が散り散りに体育館から逃げ出していく。

しかしそれも計画の内であった。

挟み撃ちにすることが今回の計画である。

史郎は逃げ出す男達を行かせるままにし、一方で生徒たちは史郎の戦闘性能に目を丸くしていた。


この学園の生徒は史郎の強さをよく知っていた。

しかし改めてのその桁外れの実力を見せつけられ、生徒たちは言葉を失っていた。

だが今回はそれだけではない。


続々と史郎に続いて大人が『転移』してきて


「じゃぁ生徒たちの安全を確保するぞ!」

「にしても相変わらずめちゃくちゃだな九ノ枝……! まさか転移したらもう戦闘が終わっているとは思わなかったぞ……!」

「すっげぇなこれ……」


史郎に話しかけるのである。

しかも彼らは学校にも何度か訪れたことのある『新平和組織』の隊服に身を包んでおり、明らかに能力世界の住人だ。

そのような彼らに


「何てことないさ。こんなの」


などと会話する史郎は一体何者なのだろう。

しかし彼らがそれを問う暇はなかった。


「じゃぁ行くぞ!!」

「あぁ残党狩りだ」


複数現れた男のうち十数人が逃げ出したテロリストの追走するべく凄まじい速度で駆けだし


「ふ~、ようやく到着ぅぅ~~~!!」


青色の髪の少女。七姫ナナまで赤い靄より転移。


「「「「――――ッ!?!?」」」」


想像だにしない人物の登場に学園が混乱に包まれ


「じゃぁ俺達も行くぞナナ」

「は~い」


あろうことか史郎がナナを引き連れテロリストの掃討に向かいだしたからだ。


ただの一般人であるはずの史郎がなぜテロリストの掃討までするのだろう。

学園のほぼすべての生徒が意味不明な事態についていけていなかった。

しかし史郎とナナはそんな彼らを置き去りにし、凄まじい速度で体育館を後にした。


静まり返る会場。

わずか数分前まではテロリストが占拠し重苦しい空気が横たわっていたというのに、戦いの中でカーテンが開け放たれ、今や体育館には暖かい日の光が差し込んでいる。


誰もが混乱しているところに、今回の掃討作戦の隊長を務める男の呟きが届いた。


「もう安心して良い。君たちは助かった。九ノ枝の作戦がこれ以上ない程上手く行った」

「……ッ」


『助かった』

それはこの場にいる全員が欲しかった言葉だった。

緊張の糸が途切れた生徒たちは暖かい木漏れ日の落ちる体育館で静かに涙を流していた。

そして男の言葉からして、史郎はこの作戦にどうやら関わっていたようである。

どころか計画の発案が史郎のようでもある。

あの時、


『お前ら覚悟は出来てんだろうなぁ……』


と怒りを迸らせながら駆け付けた史郎が自分達を救ったのだ。

生徒の全員が史郎へ感謝の念を抱いていた。

そして誰もが史郎という存在に疑問を持ったが、今この場でそれについて尋ねるような者はいなかった。

誰もが助かった喜びを噛みしめていた。

そしてしばらくした頃、誰かが声を上げた。


「ちょっと『戦闘万華鏡』で見てみようぜ!?」


と。

それはまるでスポーツ中継のTVを点けるような軽いノリだった。

少年の提案が皮切りに「そうだ点けようぜ!!」と生徒から声が上がり(主に男子からだ)大衆に促されるように『戦闘万華鏡』発動に必要な人材が壇上に集まり始める。


「ど、どうなってるんだこのガキどもは……」

「最近の子供たちは~って奴っすかねぇ……」


先ほどまで命の危険があったというのに切り替え多くの新平和組織の隊員が顔を引きつらせていた。

そして多くの隊員がドン引きする中、ボロボロになった体育館に『戦闘万華鏡』は展開し――





史郎達の戦いがそこに映し出された。




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