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第5話 奈落


能力社会に入り初めに言われたことは


『一般社会に手を出すな』


であった。

理由を聞いたところ、能力社会は一般社会に数の上では敵わないから、とのことだった。


確かにこの能力社会を生きるにつれ、一般社会の強大さは自然と分かっていった。

確かに、数の上では強大だ。

科学兵器も強力だ。

しかし……


やってみなければ分からないではないか


何せ能力者は、一般人を遥かに超える破壊力を有しているのだから。

『選ばれた人間』という言い方は好きではない。

ただただ、実力が上なのだ。


だからこそ……、『ぶっ潰す』

それにはまず、自分達には優秀な指導者が必要だった。

そして指導して欲しいのは

何百年という長い年月、人類に対する悪意を抱いた女。

『悪意をさえずる小鳥』


死なない彼女(あくい)に自分たちはご教授願いたい。


そしてここ最近、能力社会には大きな変化があった。

多くの子供たちが人為的に能力者になったというではないか。

仮にも能力者。彼らは自分たちの仲間だ。

だがしかし彼らは所詮『まがい物』

噂を聞く限り、彼らは自分たちを仲間だと思っているようだが、思い違いも甚だしい。

彼らと自分たちは全く違うものだ。

だからこそ……


犠牲になるのも仕方あるまい……


「お、来たな」

「そりゃ来るさ、任務だからな」


晴嵐高校の付近にある十三階建てのマンション。

その最上階の一室に入るとすぐに仲間に迎えられた。

同じ『新平和組織』の一員だ。


マンションの一室には複数のモニターが設置されており今も晴嵐高校の周囲の映像を流し続けている。

ここは晴嵐高校を監視する屯所の一つだ。

晴嵐高校の周囲にはこのような屯所が複数設けられていて、常に複数の能力者が駐屯している。

今もこの第七屯所には自分を含めて4名の能力者がいた。

能力世界は弱肉強食、自衛が基本の世界。

しかし新たに生まれた子供達はまだまだ庇護が必要だ。

能力社会が初めて有した庇護対象。

加えて一般社会の政府もいくら彼らが能力社会の住人になったとしても、経緯が経緯なのでその生存には注意を払っている。

だが子供たちの安全の責任を負っているのは能力社会。

より正確に言うのなら、政府と能力社会の折り合いをつける『基幹組織』や『評議会』だ。

だからこそ日本の『基幹組織』である『新平和組織』は学園の周囲に複数の屯所を置き、常に彼らの安全に気を配っていた。

つまりこのことからも、彼らの命は能力社会に対し交渉材料として利用できる。

学園を占拠すれば、政府も穏便に事を済ませるよう能力社会に圧力をかけるだろう。

彼らは能力社会の構造を深いこと知らないのだ。

だからこそ能力社会も万全の態勢で臨んでいる。


ただ唯一の穴があるとすれば、晴嵐高校は『九ノ枝史郎』という規格外の能力者が在籍しており、ここ晴嵐高校の警備に回される能力者は、他の学園に比べ、多少、ほんの少しだが、『弱い』ということ。

そしてその極微小な弱さが重要なことと、史郎が不在の際の追加警備の能力者の中に


『自分』という彼らよりも遥かに強い能力者が配備されたという事だ。


「今日は『赤き光』の九ノ枝がいない。しっかり頼むぜ。染谷(そめや)

「まかせておけ。何かあった時は自分が出よう」

「ま、何もありっこねーけどな!」

「違いない。ハハハ」


染谷が答えると周囲の仲間は緊張感無く笑った。

染谷は表情一つ変えず内心でほくそ笑んだ。



◆◆◆



そしてそれは届いた。


=用意、出来たぞ……!=


遠距離通信(ハイテレパス)


仲間の有する能力だ。


待っていた……ッ!


染谷はニヤリと笑った。

そしてすぐさま『テレキネシス』を『部屋全体』にかけた。


部屋中に破砕音が満ちた。

壁に亀裂が入り、周囲一帯の家具という家具が部屋の中を乱舞する。

食器が舞い、椅子が舞い、それらが壁やモニターに突き刺さった。


「な、なんだ!?」


だが隊員も優秀で致命傷を与えようとした攻撃を辛くも避け切っており


「そ、染谷お前……!?」


この現象の原因が今日イレギュラーで入った男であると即座に判断する。

そして事の次第を悟り、目を剥く隊員に向かい


「死んどけ」

「うお!?」


ナイフを閃かせる。

通常のナイフでは傷をつけられないが肉体強化と同様、『力』を送り込めば普通に凶器になる。

狙われた隊員はとっさに身を捻り直撃を回避。

だが頬に浅い切り傷が走る。

いきなりの攻撃を受けて男はしりもちを着き、突如襲い掛かった染谷を驚愕と共に見上げた。倒れた男だけではない。

周囲にいた二人も突然のテレキネシスを受けボールペンを足に突き刺したり、額から血を流したりしつつも無事で、驚きながらも臨戦態勢をとっていた。

そして彼らの表情を見て染谷の顔が狂喜に染まる。


作戦通りだからだ。


「お前ら、『恐怖』したな……」


そう、染谷が有する個別能力の名前は『恐怖こそが我が力テラーイズマイフォース


『周囲の恐怖の感情を自らの力に変換する能力』


そしてこのように一度でも彼らを恐怖させれば、自分の出力は彼らのそれを優に超え始める。


自身の纏う力がグングン増強されるのを感じた。

押し始めたら止まらない。

坂道を転げ落ちる雪玉のように染谷の力は際限なしに強化される。

それこそが染谷の有する能力で――


まさにその力にエンジンがかかり始めたのだ。


「一気に行くぞ……!」


染谷から爆発的な圧が放たれた。


「なにッ!?」


一気に圧を上げた染谷に周囲の男達は瞠目した。

明らかに染谷の情報にあった出力を遥かに超えているからだ。


「フハハ……」


そして、恐怖(それ)がまた、彼の力に変わる。

彼の纏う圧がまた一段上がった。



◆◆◆



パートナーシップマラソンを終えた翌日。

学園は平和だった。

谷戸組の支配が終わり学園は平和を謳歌している。


「昨日のマラソンでさぁ」

「えーそれホント―――?」

「そう、私のパートナーがね」


校庭の片隅のベンチでは女子生徒たちが弁当を広げ噂話で盛り上がり



「行くぜーー」

「おい能力は無しだぞーーー!!」

「分かってるってーー!」


校庭では男子たちがサッカーを楽しんでいた。



そんな校内の中には『谷戸組』の姿もある。

谷戸組の構成員だった生徒は少しでも生徒に受け入れてもらえるよう校内で掃除などのボランティア活動をしていた。

だが彼らの道のりは長く、谷戸が今日も校庭脇の通路の缶ゴミなどを拾っている時だ


ドォン! と鼓膜を突き破るような爆発音が校外から響いてきた。


「なんだぁ!?」


空気が震え、バタバタと鳥が飛び去って行く。

谷戸だけではない。


「なに……?」

「どうしたの??」


校内にいた生徒ほぼ全てがその異音に顔を上げる。

しかも異音はそれだけではなかった。


校舎周囲から立て続けに爆音が轟く。

辺りは一気に騒然としだした。

そして――


谷戸の目の前に、シュタッと、遥か天上から一人の男が降ってきた。

長身でセミロング。中性的な顔立ちをした男だった。

だが異形なのはその男が血に塗れていたことと――


「お前たちの命、利用させてもらおう」


そんなおかしなことを言い出したことだった。


「な、なにを……」


谷戸が問い返すと、実演するのが早いとでも言うように男はフンッと鼻で嘲った。

そして男がパチンと指を鳴らす。

すると校庭のそばにある物全てが『巻き上げられた』。

周囲一帯に植えられていた木々が地面に土を振らしながら空に吸い上げられ、その他椅子・ベンチ・街灯が根こそぎ天空に持ち上げられる。

そしてそれらはまるで谷戸たちを狙う砲台のように、天空で一列に並んだ。


「はぁ!?」


その出力を見て谷戸は瞠目する。

谷戸だけではない。


「なになに!? 急にどういう事!?」

「あいつ誰なの!?」


その様子を見ていた全ての生徒がパニックに陥っていた。


そんな中、唯一、史郎と直接やり合ったことのある谷戸は驚愕の事実を知る。


(これじゃまるで……九ノ枝と……ッ)


そして男は正確に谷戸の内心を察知しており


「お前達、九ノ枝という男を知っているな。ならこれがどういう意味か分かるだろう」


そう、この男の異形な点。

それは、史郎と同様、完全に自分達より格上な点。

その男が告げる。


「今からこの学園を占拠する。お前たちは黙って従え」


それは史郎不在のこの学園が敵の手に落ちた瞬間だった。



そして――


◆◆◆


(九ノ枝くんはどういった話をしてくれるのかしら……)


昨日の史郎との会話から、いずれ伝えられる史郎の秘密を考えているメイの耳にもドォン!という爆発音は届き


「何の音……?」


教室にいるメイもまた、その異音に顔を上げていた。



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