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第3話 嘘の重圧


能力世界にはいくつかの『脅威』が存在している。

『脅威』。悪用されれば今ある世界の均衡を崩すだろうと言われている代物である。

日本に突如生み出された大量の新能力者も『脅威』の一つなのだが、日本は他にもいくつかの『脅威』を保有していた。

その一つが『悪意をさえずる小鳥』

個別能力・『不死』を有する正真正銘、不死身能力者である。

そしてなによりの問題は、その者の性格が歪んでいることである。

有するテレキネシスも肉体強化もそれほど強力ではない。

だがただただ不死。

死なない『悪意』

人類に未来永劫付きまとい続ける『悪意』

それこそが『悪意をさえずる小鳥』の孕む危険。

その少女は今、薬物が投与され昏睡状態で軟禁されている。

彼女が今どこにいるか知る者は殆どいない。


◆◆◆



舞台は変わり学校である。



「ねぇ、今日のお昼一緒に食べない」

「あ、いや俺は雛櫛達と一緒に食べるから」


このようにここ最近史郎は今まで以上に女子から声をかけられる。


そこでそれらに対する『メイの反応』を紹介しておきたい……。

例えば上記のような会話の後である。


「じゃあお昼にしましょう?」


対応は完全にフラットである!

メイは史郎が席の前に来ると余裕の笑みを見せて弁当を取り出す。

正直史郎はパートナーシップを受け入れてくれたあたり、え、もしかして、俺意外と良い所いるのか?? などと期待していたのだが


「お、おう……」


逆に史郎が戸惑ってしまうほどのフラットさである。

なんなら史郎の方が嫉妬しているまである。


「なぁ、雛櫛。今度一緒に飯食いに行かねぇ?」


メイは絶世の美少女だ。

今でこそ史郎の方が衆目の的で多くの異性に声をかけられるが、それに負けずとも劣らない程、異性から声をかけられる。

廊下でそんな言葉をメイにかけていたのは運動神経が良いことで有名な夏目少年だ。

メイは


「いえ、遠慮しておくわ」


と、にべもなく夏目の誘いを両断していた。

だが夏目の悲劇はそこで終わらず、メイの後を追うように『覇気』を発散させる史郎が登場。

ゴゴゴゴゴゴッという効果音でも出そうなほど絶大な覇気を発散させる史郎に


「うおおお! なんかやべぇぇぇぇ!!」


史郎のただならぬ圧に夏目は慌てて逃げだした。


「フン……」


そして史郎は廊下の先へと消えてった夏目を見届け一人嘆息し


――やはり、俺の片思いなのか――


と今も人知れず絶望していた。

これだけ多くの異性に声をかけられるのだ。

史郎の事を好いている訳ないのかもしれない。

だが史郎はすぐに気を取り戻す。

なぜならここまでとんとん拍子でメイを仲良くなれたことが奇跡的なのだ。

『期末能力試験大会』で一気に距離が狭まり、『谷戸組』の一件でパートナーにまで成れた。

順風満帆にもほどがあるというものだ。

だからこそ史郎は諦めない。

なんとしてもメイと恋仲になってやる、と。


◆◆◆


一方でメイはトイレの中で顔を赤くし胸を押さえつけていた。

胸の高鳴りを押さえつけるので必死だった。

なぜならメイ。

自身が男子に声をかけられた背後で史郎が絶大な圧を放っていたことに気が付いていたからだ。


(九ノ枝くんが、怒ってくれている……)


その事実を思うだけで顔が真っ赤になり、息がまともに出来なくなる。


(もしかしたら九ノ枝くんは、本当に……!)


『期末能力試験大会』でのあの台詞、そして史郎からパートナーシップを依頼してくれた。

それら事実がメイにとある内容を想起させる。

つまりは――


(九ノ枝くんは、もしかしたら本当に私の事を好いてくれているのかもしれない……!)


カンナから何度も指摘された内容だった。

しかしそのどれもをメイはハナから信じていなかった。

そんなわけがない。

自分が好きな史郎が自分の事を好いているなんて夢のようなことがあるわけがない、と。

だがこの前の下着の一件や、その他様々な学園での出来事が、史郎がメイの事を好いていることを示している。

メイはもしかしたら史郎が自分の事を好いているのかもしれない。

そう思うからこそ、史郎が女子に話かけられていて面白くないが

『嫌われないために』必死に自分を押さえつけているのだ。


史郎の事をもっと良く知りたい。

勇気を振り絞って史郎に積極的に話しかけだした結果、メイもまた日常の様々なシーンで顔を赤く染めており、その積極性が結果的に史郎の積極性も引き出すに至っていた。



◆◆◆


だが史郎はそんな裏の事情は知らない。

メイもまた史郎のことを好いているとは確信を得られていない史郎は少しでもメイに良い所を見せようと努力していた。

そして史郎。

能力こそ半端ではないレベルなのだが、恋愛頭脳に関しては高校生レベル。

いや中学生レベル、もしくは小学校高学年レベルの知恵しか有していない。

加えてこんなことを相談できるのが幼卒系能力者ナナしかいないのが痛手だった。

つまり――


「ひ、雛櫛、それ持つよ」

「え? あ。あぁそう。ありがとう……」


史郎はメイが日直でプリントの束を持っているのを見つけると史郎はすっ飛んでいきその代わりを提案する。

その余りに分かり易い態度にメイは戸惑い、

史郎は若干引き気味のメイの反応に


(ああああああああああミスったのかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!)


と心の中で絶叫する。

だが史郎がズーンと落ち込む傍らで、メイが顔を真っ赤にし俯いていることに気が付かないことが史郎の至らない点である。

そしてそんな両者の関係を多くの観衆が妬まし気に見ていることに二人とも気が付かないところが二人の至らない点である。

男子はメイと仲睦まじげな史郎に、女子は無敵の能力者である史郎といい感じのメイに嫉妬していた。


その後も史郎は見え透いた手を打ち続けた。


メイが重いものを持っているとなれば大概持ちに行く。

完全に史郎はメイの重い荷物を持つ係と化しており、そのたびにメイは顔をほのかに赤く染めていた。


そう、恋愛経験値の低すぎる史郎は『重いものを持ってあげる』くらいしか良い所の見せ方を知らなかったのである……ッ!


◆◆◆


史郎がメイとの距離を詰めようと必死になる一方で木嶋が復学してすでに数日が経過していた。


「あ、見て」

「あぁ、『根暗転移』ね」


木嶋の校内での立ち位置も確立しつつある。

廊下に現れた木嶋を指さし声を潜める少女たちを史郎は横目に見る。

つまりは何を考えているか良く分からない謎な奴。

覚醒した生徒たちはいまだその重大性を理解しきれていないため、木嶋への怒りはそれほどでもなかった。

それよりも学園の中に潜んでいたオリジナル能力者という点が注目され、ある種好奇の視線を集めていた。

そしてついたあだ名が『根暗転移』。

可哀そうすぎる。

強さで言ったら彼らの百倍は下らなく、まして彼程の長距離テレポートは能力社会においても稀有な物だというのに……。

外見と醸し出される雰囲気から『根暗転移』というあだ名とは……。

また今回は偶然史郎が近くにいたこともあり、木嶋はこんなことも言われていた。


「てゆうか、木嶋って自分で能力覚醒させといて、それで生まれた史郎君負けちゃうとか弱すぎっしょ?」


と。


当然、木嶋と史郎、両者にその言葉は聞こえており

(というより史郎に向けて放たれた言葉だったのだ)

両者の間に気まずい沈黙が落ちる。


「「……ッ!」」


史郎は勘違いをしたままの無垢の少女の顔を見て黙り込んでいた。

そう、『谷戸組』討伐の際、あれだけ大暴れした史郎だが、

未だに『無差別能力覚醒犯』により覚醒した能力者の一人として数えられている。

『テレキネシスバースト』などという口から出まかせを彼女彼らはいまだ信じているのである。

そして木嶋のあだ名『根暗転移』


もし史郎がオリジナル能力者だとばれたら一体どうなってしまうのだろう。


「ねー、ホントよねー。まさか自分が生み出した能力者に負けちゃうなんてねー」

「ホントホント。悲しー」


史郎は木嶋を悪し様に言う少女たちに史郎は冷や汗を流す。

もしばれたら『ほら吹きクソ野郎』とか呼ばれてしまうんじゃないだろうか。

史郎が苦しい笑みを浮かべている一方、木嶋は木嶋で驚愕の視線を史郎に向けていた。


『お前まだバラしてないのかよ?』と。


視線で訴える木嶋に史郎も視線で返す。


『お、おう。そうだよ?』

と。

『まじか……!』

すぐに視線で答えは返ってきた。

謎の視線会話を行う史郎と木嶋。

一方で史郎の周囲にいた女生徒は


「ね? そうよね? 史郎君??」


と同意を求めて来る。

それに対して史郎が下した決断は――


「だよな☆」


木嶋を犠牲にすることでした。

キッと木嶋が史郎を睨んだ気がしたが、そこは『黙れ……!』と威嚇の視線を飛ばし黙らせる。

現状、この状態で上手く行っているのだ。

それをわざわざ破壊されては溜まったものではない。

歩く関係で木嶋と離れる史郎。


史郎は木嶋を見捨てながらも心のどこかで木嶋の立ち位置を羨んでいる自分がいることも自覚していた。

『根暗転移』というあだ名こそ付けられてはいるが、彼の真摯な態度に彼を受け入れた生徒もいるようですでに彼もパートナーシップ制度でパートナーを持っている。


どういう形であれ、自分が元から能力者であることを明かし、それを認められた。


そんな彼の姿がとても眩しいものに見えるのだ。


そして史郎には一つの懸念もあるのだ。

メイが自分の立場に気が付くのではないかという懸念である。

『期末能力試験大会』の時と言い『谷戸組』の一件といい、あれだけ史郎の深層を理解している少女だ。

そんな少女が史郎がその場でとりあえずついた『テレキネシスバースト』だなんだの嘘を信じるだろうか。

ましてナナと史郎の関係は『中学時代の知合い』という事になっているが、このことにメイは疑問を持っていないのだろうか。


もしメイにナナのことを尋ねられたとして、史郎は嘘を突き通せるだろうか。

そんな自信は欠片もなく、恐らく自分は相当情けないことになる。

木嶋が生徒に受け入れられたことで、自分の素性を偽る事実が史郎に重くのしかかりつつあった。


そんな一抹の不安を抱えながら月日は過ぎ

6月16日。

パートナーシップマラソン開催日になっていた。


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