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第1話 予兆



千代田区某所、高層ビルが立ち並ぶ一角にその巨大なビルはある。

通称『平和ビル』

今現在日本の能力世界における最大勢力、『新平和組織』の本拠地である。

その最上階で長身の若者は白髪の混じる男性と対峙していた。


「ここ最近、若者の手綱を引くのに手間取っているそうじゃないですか?」


ネックレスをかけ髪を明るく染めた今時の若者の方は『赤き光』隊長、一ノ瀬海(いちのせかい)である。

一ノ瀬はこの男に呼ばれこのような日本能力社会の最奥にいた。

そして一ノ瀬を呼びつけた男こそが


「仕方がないだろう。仮にも6000人も新しく新能力者が生まれたんだ。しかも今年から1000人近くが学園から放たれた。この程度の事件数で済んでいるのなら上出来だろう」


『新平和組織』会長、鷲崎。

現日本の能力世界の長の一人である。

鷲崎のデスクにはいくつかのファイルが散らばっていた。

どれもこの一か月で起きた新能力者による事件である。


「我々ですら『一般社会』に手を出すのは恐怖するというのに良くやりますよね」

「無知ゆえの愚行さ。能力を得た自分たちの方が優秀だと思っておるのだろう。全く逆であろうに」

「数には敵わないし、なにより『国』というのはとてつもなく強大ですからね」

「そういうことさ。だが能力覚醒したほぼ全ての子供たちが大学進学を希望し、多くの一般人に囲まれて生活しているというのにこの犯罪率の低さは驚くべきことだろう。まぁ、いずれにしても再度招集して道徳を叩き込まねばいけないがね」


そこで会話を区切ると鷲崎は眼鏡を押し上げ鋭い眼光で尋ねた。


「ところで一ノ瀬、お前の所の九ノ枝が上げた報告、あれは本当かね」


そう、鷲崎がわざわざ一ノ瀬を呼びつけた理由は直接確認するためであった。

当然、一ノ瀬も相手の意図は知るところですぐさまコクリと頷いた。


「えぇ、本当のようですね。彼ら、つまりは『無差別能力覚醒犯』により覚醒した子供らですが、彼らの能力は――『拡大』している」

「ふん……。『国境なき騎士団』はいずれ能力は『消失』するとしていたが、それどころか逆に『増強』する、か。何もかもが状況が違うな」


鷲崎は嘆息するとブラインドカーテンに隙間を開け眼下を見やった。

今日も数え切れない数の車がせわしなく行きかっている。

いつもと変わらない一般社会。

そして今ある平穏を脅かしかねない新しい子供達。


「彼らの能力は一体どうなっているんだ……」


◆◆◆


一方でこちらは晴嵐学園。

放課後。その屋上である。

屋上には史郎にメイ。そしてナナとカンナがいてせっせと学校の課題を処理していた。


「ここは、こうして……」「なるほど」「するとこうなるの」「ほう」


史郎はしっかり勉強の出来るメイの的確な指導の下課題を処理していた。

そんな折だ


「にしても意外と九ノ枝って俗っぽいのな」

「え?」


二人の脇にいたポニーテールの少女、カンナがだしぬけに何か言い出していた。


「俗っぽいってどういうことだよ」


身に覚えのない指摘に思わず史郎は眉を顰める。

自分はただメイと宿題をしていただけで何もやましいことなどない。


「どういうことカンナ?」


メイも同様意味を測りかねるらしく不思議そうに聞き返していた。


「あぁ~いや、九ノ枝ってあまり喋らないじゃん? だからメイとパートナーになる前から不思議な奴だとは思ってたのよ。でもこうして見るとどうにもなぁ……」


言いにくそうに眉を下げたカンナ。

しかしそれは演技で次の瞬間、ニヤリと『意地の悪い笑み』をした。


「九ノ枝お前、今メイのパンちら狙ってたろ?」

「へぇ!?」


思わず変な声が出た。

同時に思う。


(なぜそれを!?)と。


確かに史郎とメイは地べた座り対面している。

そして地べたに教科書を置くものだから、メイが女の子座りを崩すと確かにメイをスカートの先の物が見えそうになっていた。

史郎はその事実に気が付くと、見えないかなぁっと視線は確かにメイのすらりとした素足の間をウロウロしていたのだが、


(まさか、それを見破られるとは……ッ!?)


そう、実は史郎は『俗っぽいな』との指摘で若干変な汗が出ていたのだが、いやまさかメイの前で直接指摘してくるわけあるまいとタカをくくっていたのだ。

だが史郎の目算を外れて指摘は飛び、

『メイを目の前にして』の指摘である。

カァーッと顔に血が上るのを感じた。

恥ずかしさでメイの顔を見ることが出来ない。


「てゆうか九ノ枝お前、前傾姿勢になりすぎだって! そんな体勢じゃ誰でも分かるわ」


そんな俺前傾姿勢だったかと顧みる史郎。

確かにメイのパンツが見たいがために前傾していた気もする。

メイの下着。

それは史郎にとって食虫植物が放つ甘い香りと同様でヤバいと思っても体が動いてしまう魅惑の代物であった。


「てゆうかメイも気がついてたろ」


史郎が自省しているとカンナはさらに背筋がひやりとするようなことを言っていた。

ゾクリとした寒気が全身を駆け抜けていく。

そ、そんなわけがない。と史郎は一縷の望みを賭けメイをハッと見上げるが


「確かに、気が付いていたけど……」


メイはもじもじと体をくねらせ顔を朱に染めていた。

どうやらメイにもバレていたらしい。


(ぐおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!)


史郎は自らの失態を悔い歯を食いしばる。

まるで身を焼かれるような恥ずかしさだった。

そして偶然、メイと視線がぶつかり


「「ウ……ッ!!」」


まるで恒星の爆発のような煌めきだった。

恥ずかしくて速攻で目を逸らす。

そんな二人を見てカンナはカカカッと豪快に笑い、ナナは不思議そうに小首をかしげしばらくするとポツリと言った。


「あれ、でも史郎ってそういうの興味あるっけ? 私の見ても無反応だよね?」

「まぁねぇ!?」


また要らんことを言うナナには冷徹に接する。

一秒でもナナの下着に興味があると周囲に認知されるのが屈辱的なので返答までゼロコンマ1秒を軽く切った。

そして案の定要らんことを言ったナナにメイとカンナは思い思いの反応を示した。

カンナはニヤリとますます意地の悪い顔になりメイはムッと眉を吊り上げた。


「へぇ、メイ。これはまた面白い話を聞いたな。九ノ枝はナナちゃんやその他大勢の女の下着には興味ないがメイの下着には興味があるらしいぞ」

「ッ……!」


一瞬眉を吊り上げたメイ。

しかしカンナの言葉にすぐに顔を真っ赤にし黙りこくった。

その顔の赤さからして史郎が自分の下着に興味があることが相当恥ずかしいようだ。

そりゃそうだよねと史郎は思う。

だって俺がメイのパートナーなんだもん、と。

今後一年一緒にパートナーシップをする男子が自分の下着に欲情する男だと知ったらそれはもう恥ずかしいに違いない。

つまりこれは

『大失態』、である。

メイとパートナーシップを始めて数日、早くも今後の協力に微妙は亀裂が生じそうな議題が浮上してしまったのだ。


(アカン……!)


史郎はとっさにそう判断する。

そしてどのような言葉が窮地を脱するキーワードになるが脳を速攻で回転させ始める。

が、それよりも早くメイが


「も、もうこの話は終わり!! いい!? カンナ! もう駄目だからね!」


顔をむくれさせながら思いのほか強い語気で話をたたんだので、この話題はそこで立ち消えになった。



(助かった、のか……)


史郎は胸を撫で下ろした。

だがここ最近の史郎の学園生活を振り返るに、このような恥ずかしさなど日常茶飯事なのだ。

(これじゃ心臓が持たないな……)

史郎はここ最近の学園生活を振り返った。

そう、史郎のここ数日の学園生活はトキメキに満ちている。

その理由はパートナーシップ制度。

加えてなによりメイが目に涙を溜めながら言っていた。


『沢山おしゃべりしようね……? 九ノ枝くん……』


その言葉が掛値のない本音だったからだ。


あの日から史郎とメイはそれまで殆ど話したことが無かったことが嘘のように言葉を交わしていた。

メイのその積極性はまるで二人の間で失われていた時間を取り返そうとするような、そんな真剣味のあるものだった。


「九ノ枝くん、おはよう」

「お、おはよう……」


朝教室ではふとした折にメイが史郎の席のそばを通り挨拶をしてくれる。

史郎は毎回どもってしまうのだが、おかげでメイに挨拶されたいがために若干学園に来る時間が早くなった。



「九ノ枝くん、今日の提出課題、ちゃんとやってきた? 前は忘れてたみたいだけど」

「あぁぁぁぁやべぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」


史郎は『赤き光』の任務が入ると提出課題を忘れることが往々にしてあった。

それを叱られることもままある事なのだが、それを今回メイはあらかじめ気にしてくれたようだった。

狼狽える史郎。しかし


「じゃぁ今回は写すしかないね。今回は特別だよ?」

「あ、ありがてぇ……!」


史郎はメイの可愛い文字でかかれたプリントを必死に模写していった。


また史郎は深夜遅くまで任務があったりすると、授業中に船を漕いでいることもままある。

そして今日も史郎が授業中うつらうつらとしていると


「じゃぁ、ここの問題。答えは、九ノ枝?」


と、当てられた。


(やばい)


半睡眠状態にあった史郎は慌てて立ち上がる。

しかし完全に寝落ちしており質問に答えられるわけがない。史郎が狼狽えていると


(ルート5だよ……)


離れた席に座るメイが教師に見えないように口元を覆いながら口パクで史郎に答えをくれる。


「ルート5です」

「フン」


史郎はメイのおかげで恥をかかずに済んだわけだ。

しかし底意地の悪い数学の教師が


「全く優秀なパートナーを持つと助かるな、九ノ枝? えぇ? 雛櫛もパートナーとはいえ過度な協力はしないように」


となどと愚痴を言ったことで、密やかな笑いが教室に満ち


「「……ッ!」」


二人そろって顔を赤く染めて机につっぷすることになった。

ちなみに同じく任務に当たったナナは机に身を投げ出し爆睡している。

お気楽な奴なのだ。



それだけではない。

昼休みにメイは


「九ノ枝くん? 私と一緒にお弁当食べない?」

「え?」


いつもと同じようにナナと屋上に行こうとしていた史郎とメイは呼び止めたのである。

案の定、固まる史郎。一瞬でのどがカラカラになった。


「いいの?」

「うん。あと、九ノ枝くんいつも買ったものでしょ? 今日は私が作ってきたから……」


そう言ってメイはカバンから可愛いナプキンにくるまれた弁当箱を二つ取り出す。

瞬間、教室の男全員が静かに怒りに飲まれた気がした。

そんな中、史郎はただただ目の前の少女を眺めていた。

余りの嬉しさに次第に目じりに涙が溜まった。

そして


「あ、ありがとう……」


顔を真っ赤にしながらその弁当箱を受け取る。

だがその光景を見て黙っていなかったのがナナだ。


「え!? 私も食べるぅぅぅ!!!」

「やらん! やらんやらんやらん!!! ステイステイステイ!!」


今にも弁当を強奪しそうな気配すらするナナの顔面を押さえつけ必死に弁当を死守した。


そしてこのような日常を過ごしたから史郎の欲情をはある一つの形に完全に再結集していた。


「はぁ……、なりてぇ……」


時は変わり深夜。史郎の自室である。

寝間着の史郎はここ最近の今までとはうってからってトキメキに満ちた学園生活を振り返り、呟いていた。


「雛櫛と、恋人になりてぇ……」


そう、つまりは『メイと恋仲になりたい』という圧倒的欲望である。

そしてそういった関係を目指すに当たって、最高の催しがある。

深夜、史郎は自室でカレンダーに大きく赤く丸を書いた。

五月末日

『パートナーシップマラソン』の開催日である。


史郎の瞳が任務ですら見せない程、欲望でぎらつく。


ここで良い所を見せてやる。

史郎という欲望の野獣が、密かに爪をとぎだしていた。


◆◆◆◆◆


一方で、ここは暗闇。


一人の男がほくそ笑み何もない虚空に話しかけていた。


「あぁ、ようやく選ばれたぞ」


そして男は相手方と話し最後に告げた。


「あぁ、この学園を人質にとって『悪意をさえずる小鳥』を解放しよう」


そう、この時はまさかこれから一か月もしないうちに

学園にテロリスト能力者が入り込むとは誰も夢にも思っていなかった。



これからもよろしくお願いします!

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