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第10話 貫徹の罪

中学時代、問題を起こした生徒を晴嵐高校に纏めて入学させる。

そしてその伸びきった鼻をあらかじめ折ることが今回の史郎の任務で


『赤き光』隊長の一ノ瀬海が史郎に要求したのは


『敵が史郎を倒すべく張った策にギリギリまで嵌った上で勝つこと』


史郎を倒すために十二分の準備をしたにも負けるという事実が彼らの自信を削ぐはずだとの判断で、その見極めを行うのが、『ナナ』だ。


そして――


『二年F組。九ノ枝史郎。至急、校庭に来い。来なければ誰かが犠牲になることになる』


遂にそれは来た。

史郎に唯一懸念があるとすれば、

――ナナがその見極めを行うことと

――この学園の生徒は変わった能力を持つこと

だが、史郎は立ち上がる。

史郎が座席を引き立ち上がるとサッと周囲の視線が史郎に向いた。

多くが史郎を心配そうに眺めていた。

当然である。

いくら『権力総会』の際、史郎が圧倒的な『脅威度』を示したとはいえ、それは一時的な物。

すぐに元の数値に戻り、まして聖野達、今学園を支配している『新学園運営部』はアレは誤作動だと宣言しているからだ。

多くの生徒が今学園を支配する彼らの言葉を信じかけ始めていた。

そのうえ、相手の『谷戸組』はすでに規模を百三十名近くまで膨れさせている。


1対130。


圧倒的な戦力差に多くの生徒が心配していた。


「行っちゃダメよ!」


これまでは史郎に事態の打開を託していた。

しかしいざ事が起きると話が変わる。

史郎が教室から出ようとすると一人の女の子が声を張り上げた。


「ずっと校庭にカーテンかかってたじゃない! きっと罠よ九ノ枝くん!」

「そうだぜ九ノ枝! 別に相手の話に乗る必要はねーんじゃねーのか? 人質の話だってどこまでホントだか分かんねーし」


多くが最後の希望である史郎が敵地に飛び込むのを拒んでいた。

だがそんな同級生達に史郎は教室の出口で振り返り告げる。


「きっと大丈夫だ。それにさ――」


彼らに償いをするために。


「――まさか俺もこんな事態になるとは夢にも思っていなかったんだ。だから色々すまんかった。今まで見逃していて。だけどもう大丈夫だ」


史郎ははにかんだ。


「――俺が今から倒してくるから、皆は安心して待っていてくれ……!」

「――お前……!」

「九ノ枝くん……!」


史郎の力強く、そして優しい笑みに数人の生徒が感極まったような声を出した。

そして史郎が去ると


「「「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」」」


地鳴りのような叫び声が上がった。

史郎に対する声援である。

それは学園中に伝播し、スタジアムのようになる。


そんな中、一人廊下を歩きながら史郎は全く別の事を考えていた。


(あいつら許さない……!)


史郎は以前から彼らの事をぶん殴りたいとは思っていた。

だが、史郎は任務の関係上、それが出来なかった。


だからこそ彼らの傍若無人なさまを放置する史郎の評価が若干『下がった』のだ。

史郎は周囲から時々向けられる冷めた視線に涙を流していた。

そんな時は常に思うのだ。


いやこれは違うんだ。任務の関係なんだ、と。


だからこそここまで状況を悪化させた彼らを


(絶対に許さん!!)


史郎は彼らに対し極めて利己的な事情でも怒っていた――




そして舞台は移り




『ようやく来たか。来ないかと思ったぞ?』


史郎は校庭で聖野と対峙していた。


校庭には史郎と聖野以外、人っ子一人いない。

乾燥した校庭に聖野と史郎が対峙する。

先日まで校庭を覆っていた幕は取り外され、緩い風が吹き、砂埃が上がる。

校庭の中心で対峙する二人を校舎からほぼ全員の生徒が見守っていた。


「で、何の用だ。要件があるんだろ? 途中を省いてさっさと言え」


さっさと事は済ませるに限る。

史郎がつけどんに尋ねると聖野は好都合だと笑みをこぼした。


聖野の声は胸元につけられたマイクで拡大している。

聖野の声は学園に響き渡った。




『九ノ枝史郎。お前を学園反乱の罪で、今ここで処刑する――』




それがきっかけだった。

校庭の中心に佇む史郎。

その史郎を中心に十メートル。

円周上の大地が一気に『取り払われた』。

そのただの校庭だと思われた大地は、ビニールをはり、その上に砂を敷き詰めたトラップ。

そして取り払われた地面の下には深さ1メートル50センチほどの深さの『塹壕』。

それと


「ハハッかかったな九ノ枝ぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」

「この防音し、かつ中にひそめる塹壕をずと作ってたのよぉぉぉぉぉぉぉ!!」


そこで能力を発動させて待機する30名以上の遠距離能力者だった。

以前から溜めていたからこそ彼らが携える炎も光の玉もそれなりの規模になっている。

史郎を中心に極限まで能力をためた生徒が史郎を取り囲んでいた。


そして――


「よっしゃー!! 待ってたぜーーー!!!」

「「「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」」」


校庭の周囲に潜んでいた『谷戸組』の残りの隊員が校庭になだれ込んでくる。


あっとういう間に校庭は史郎を中心に敵が陣を張る構造になった。


史郎の周囲ではすでにだいぶ巨大になっている遠距離攻撃部隊が攻撃を構え

その周囲ではその他様々な能力者がいたるところで武器を構える。


1対130。


それがまさに現実化していた。


「嘘でしょ!?」

「さすがに酷いでしょこんなの!?」


それを見た校舎の生徒から次々と異論が沸く。

しかしそれを


『黙れ!!』


聖野の怒声が押し黙らせた。


『この男は校内の秩序を乱す異分子だ!! そして我々新学園運営部は早々にその芽を摘まねばならない。だからこそこれは必要な処置なのだ!!』


聖野は顔を白くしながら叫んでいた。


『だからこそ僕らは今ここで九ノ枝史郎を処刑する!!』


そして彼らの言論を封じるように、聖野は掲げた手を振り下ろし

宣言した。


『死ね、九ノ枝ぇ!!!』


それが合図だった。

一斉に史郎に遠距離攻撃を構えた生徒から攻撃が射出された。


大きな炎、雷、水流。

ビーム、爆炎。


攻撃の雨が史郎に飛来した。


「――――――――――――ッ!!」


最後の希望に攻撃が殺到する。

その光景に眺めていた多くの生徒が息を呑むのが聞こえてきた。

多くの生徒が校庭で起きる処刑風景に顔面を蒼白にさせていた。



一方で史郎。


(まじかよ……!)


史郎は自身に殺到する攻撃の海を見て、喉を干上がらせていた。

なぜなら一向にナナからの指示が無線で来ないからである。

ナナが見極めを行う。ナナが「良いよ」と言ったら反撃開始していいのである。

そのナナの指示が来ないのである。

史郎は攻撃が飛来する刹那の間に思考を凝らしていた。




史郎に攻撃が飛来するまであと、『5メートル』。


確かに今からでも史郎のテレキネシスは間に合う。

おそらく攻撃するまでゼロコンマ5秒もないが、まだ『間に合う』

というより『楽勝で間に合ってしまう』のだ。

だから確かにナナからの指示が来ないのはおかしくないのかもしれない。

だが……




史郎に攻撃が飛来するまであと、『3メートル』。


いくらなんでもここまで引き付ける必要はなくない?

と思うわけだ。

なんせ相手はずぶの素人。

攻撃を飛ばした直後、史郎のテレキネシスで防がれれば大きくショックを受けるはずじゃん? と。

だというのに、完全に史郎のテレキネシス操舵力を土台に入れたうえでの計算。

これは完全にマジの奴だな……

史郎はナナのこの任務への入れ込みように感嘆の溜息をついた。

ナナの深夜遅くまでバラエティを見て引き際を考えたという発言。

アレは伊達ではないようだ。

なかなかやるようになったな、ナナの奴……!

史郎は普段からパートナーを組むナナの成長を心から歓迎していた。




史郎に攻撃が飛来するまで、あと、『1メートル』


なら、俺も頑張らないとな……

史郎はナナの頑張りに答えようと、力んでいた力を解いた。

ナナがそこまで頑張ったのなら。自分もやってやろうというわけだ。

攻撃を一メートル手前まで引き寄せ、完全に無防備な史郎が今、誕生したのである。

完全無防備型史郎である。




史郎に攻撃が飛来するまで、あと『50センチメートル』


う~ん。まだイケるな?

うん、イケるイケる。間に合いますね~。

史郎は敵の攻撃速度・量と自身のテレキネシス練度を脳内で計算しそのような回答を得る。

にしても、史郎は思う。

さすが、ナナ。

普段から同じ任務をこなすだけあって、さすがの史郎の実力の見極め方である。




史郎の攻撃が飛来するまで、あと『30センチメートル』



この段になり史郎の額にジンワリとした汗がにじんだ。

心のどこかでほんのわずかな疑念が生まれる。


え、これ俺防げんの? 


という疑念である。

しかし、あのナナが大丈夫だ、と言っているのだ。

自分のタッグパートナーのナナが深夜遅くまで研究し、目にクマまで作って見極めたというのだ。

史郎はこれまでのナナと過ごした日々を思い出す。

楽しい日だけじゃない。

辛い日も、悲しい日も沢山あった。

だがいつだって自分たち二人は苦難を乗り越えてきたじゃないか。

そのナナが大丈夫だって言っているのだ。

なら信じようじゃないか……

史郎はナナを信じて、攻撃を直近まで引き込んだ。




そして、史郎に攻撃が飛来するまで、あと『10センチメートル』


さすがにこの段になると史郎も焦っていた。


え、ちょっとウソウソ!?

まじで!?

ナナこれさすがに俺間に合わないかもよ!? 

へ??どこまで俺の事高く買ってんの!? 

や、そりゃ嬉しいけどさぁ……。いやでもちょっとさすがに間に合わ――




と、そこでサッと史郎が視線を校舎に飛ばした時だ





史郎はナナの身体が大きく()()()()()()()のを発見した。




……。





(寝てるぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!!!!!)




史郎が衝撃の事実を知ると同時。

攻撃が史郎に殺到した。



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