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第9話 事態完了

結局『権力総会』は


聖野がクルミを平手打ちし、


「これより『谷戸組』による支配を開始するッ……!」


と怒りを滲ませながら宣言することで終了した。


『戦闘万華鏡』で表示されていた史郎の『脅威度』も史郎が怒りを鎮めると急激にその数値を下げ再び191に安定していた。


多くの生徒があまりに史郎がマークした『脅威度』が高すぎて混乱し――

そしていくらクルミが史郎を中心に再結集すると宣言していても当の本人は『俺は余り学園に関わらない方が良いんだよ』と学園への不干渉を宣言していた。

加えて『権力会』も別に真っ当な組織とは言い難い。


だからこそ


「これより『谷戸組』による支配を開始するッ……!」


そう怒り混じりに宣言する聖野に誰も反論できなかった。


そして『谷戸組』が晴嵐高校を支配する時代が訪れた。


聖野の学園支配は決して冗談ではなかった。


「あぁ、なんだよ文句あるのかよ!? この谷戸組によぉ!」


このように目が合ったもの全員を威嚇するだけではない。


彼らはすぐに実害が出るかたちで猛威を奮いだした。

まずすでに100名以上になっている『谷戸組』の根城を用意した。

ターゲットになったのは防音構造のある音楽室。

5階にある音楽室に現れた聖野は即座に宣言した。


「お前らの活動は永久に自粛だ。もしやりたいのならば屋外で行え」

「ちょっ!? でもそんないくら何でも!?」

「文句あるのか……? 僕達『谷戸組』に……!」

「……ッ!」


反論した少女は目に涙を溜めた。

その日以降、吹奏楽部の部活動と選択音楽の授業は無期限中止になり、


「おつかれーっす」

「ちょっとどこ行くんですか連城君!? 授業中ですよ!?」


『谷戸組』の生徒は平気で授業を欠席、もしくは途中退席し音楽室に屯していた。


加えて彼らはとある張り紙を校内至る所に張り出した。


それを見て


「なにこれ……?」

「嘘でしょ……?」


生徒の誰もがそのお触れを見て青ざめた。


彼らの始めたこと。


それは『在学税』の徴収の開始である。


これに関して、聖野は一限目の授業を無理やり潰し、校内放送を流し、在学税導入の正当性を説明した。


放送が終了しても誰も言葉を発さなかった。


そしてこれは聖野の学園支配の地盤固めの一環でもあった。

つまり――


「お前らざけんじゃねーよ!!」

「『脅威度』・・・たったの87か・・・ゴミめ・・・。 兵頭!」

「了解よぉ!」


そう、このような過激なことをすれば必ずは反発する分子が出てくるはず。

そのようなものを観衆の目の前でいなしていけば、必ずや『谷戸組』へ反論する分子はいなくなるはずである。


案の定勇気ある少年は力なく地面に伏すことになった。


このように放送を皮切りに聖野は治安維持の名の下に複数の部下を連れて学園を巡回し始めた。

在学税のような誰でも反論するようなことをぶち上げて、周囲が反論できず、また反論する者がいたとしても『脅威度測定リスクカリキュレイター』を用い確実に倒していけば、『谷戸組』への権力移譲は確実に図られるとの判断である。


『谷戸組』が猛威を奮いだして二週間弱。

既に学園に『権力会』が支配していたころの空気は残っておらず、多くの生徒が『史郎』が『谷戸組』を倒すことを望んでいた。


◆◆◆


一方で史郎も悩んでいた。


「……遅い」


屋上で一人、呟く。


「遅いぞおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!! 早く俺を狙え聖野ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」


史郎が叫ぶのにも理由がある。

事の発端は先の『権力総会』で史郎が見せた『脅威度:21117』という数値にある。


史郎はまさか聖野が、覇気から対象の脅威を自動算定する能力者などとは知らなかった。

そしてまさかあの戦いが『戦闘万華鏡』で映されているなど露ほども考えなかった。

だからこそ廊下の奥から三人の男が走って来た時、史郎は割と本気でイラつき、普段抑えている覇気が漏れ出してしまった。

その結果意図せずに叩き出してしまった脅威度『10812』に『21117』という数字。

そして赤子の手を捻るように三人の敵を倒して見せた史郎。


そんな史郎に、周囲の人間は、『谷戸組』を倒すことを期待しているのだ。


教室にいても、廊下にいても、史郎はチラチラと視線を感じていた。


チラッ


チラッ


皆が史郎が視界に入るたびに視線を送る。

多くが、史郎に谷戸組を倒して欲しいと思い、史郎に視線を送っていた。

『戦闘万華鏡』ごしに言った、


『俺はあまり学園に関わらない方が良いんだよ』


という発言の所為で誰も直接は史郎に頼みはしないが、多くの生徒が史郎に期待をしていた。


いつぞやの校内放送の時など、酷いものだった。


『――――まりこれは学園をより良くするために必要なものだ。今までお前たちを支配していた『権力会』は行ってこなかったようだが、僕ら『谷戸組』はそれを行う』


チラッ


『――上から出される予算では、到底、この現状腐った学園を改善できないからだ。この集めた金を使って学園を良くすることは保証しよう――』


チラッチラッ


『――衝撃的だろうから徴収はすぐにはしない。しかし理解度が一定に達し次第速やかに行う――』


チラチラチラッ


『――時期は追って伝える。アナウンスは以上だ』


チラッチラッチラッチラッチラチラチラッチラッチラッチラッチラッチラチラチラッ





(うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!)


史郎は頭を抱えた。


(早く倒してええええええええええええええええええええええええ!!!)


だがしかし、史郎はそうすることが出来ないのだ。

なぜなら史郎の任務は彼らの自信の完全粉砕。

そのために彼らが万全の準備を整え、史郎を本気で潰しに来たところから勝たなくてはならない。

要は相手の準備を待たなければならないのだ。


だからこそ史郎は叫ぶ。


「遅いぞおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!! 早く俺を狙え聖野ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」


今も、登校すれば多くの女生徒から話しかけられる。

そして今でこそ彼女たちは直接史郎に頼んで来ないが、それも時間の問題であった。


そう、史郎が懊悩しながら叫んだ時だ、ふと校庭に聖野を始め複数の男子が現れあれやこれや言い出した。


「………!」

「……? ……。……」


遠くで何事か言い合う生徒たち。

聖野の真剣なその顔つきをみて史郎はにやりと笑った。

どうやら遂に動き出したようだ。

そしてすぐ横で学園の大変化など気にもとめず漢字ドリル(小1用)を解くナナに念の為尋ねた。


「なぁナナ。俺はあいつらの策略に嵌り、ぎりぎりのピンチの時にあいつらに勝てばいいんだよな」

「そうよ~」


史郎の質問にナナは顔を上げず答える。

むつかしそうな顔をしてナナは『子』の字を書いていた。


「そしてお前はそのぎりぎりのライン見極めの役もあるとか言ってたな」

「そうよ~」

「ならそろそろそのラインの見極めの練習をしておけ。そろそろあいつらが動き出す」

「え!? なんかやってんの!!?」


史郎の言葉にナナが飛び起き、校庭をみやった。

そして校庭で彼らがやろうとしていることを――戦闘IQは高いのだ――即座に察すると、ふんす! と鼻息荒く拳を握った。


「よぉし! ついに私の出番ね! 任せて史郎! 私お笑い番組大好きだから!!」

「いや命懸かった駆け引きをバラエティ参考にされるのは溜まったもんじゃないんだけどな?」


史郎は冷静に指摘する。


そしてその日を境に体育の授業も中止になり、校庭は灰色のビニールで覆われた。


◆◆◆


一方こちらは聖野。

聖野は今日も音楽室の奥の席で一人考え込んでいた。

この二週間、様々な手を打ったが、いまいち効果が得られないように感じるのだ。

原因は間違いなく史郎である。

あの時史郎を仕留め損ねて、異次元な『脅威度』を見せつけられてしまったからだ。

そして今日、ついに聖野はとある結論にたどり着く。


やはり史郎を倒すしかないという結論に。


このような不完全な形で権力移譲が済んでしまった以上、持ち直すには何としてでも全校生徒の前で史郎を叩きのめすしかない。

すでに史郎が叩き出した驚異的な『脅威度』の謎も解明されていた。

史郎は過去の映像で『調子が良かったから凄いことが出来た』と言っていた。

つまり史郎が調子を上げると『脅威度』が上昇するタイプの人間で――

加えてあの時は『戦闘万華鏡』に聖野の『脅威度測定リスクカリキュレイター』をつけての初めての運用だった。


その関係で突如上がり始めた史郎の『脅威度』を誤作動で非常に高値に表示してしまったに違いない。

聖野の持論にはすでに多くの『谷戸組』が納得している。

やはり誰もが史郎の叩き出した脅威度を信じ切れていなかったのだ。

誤作動、その結論のほうがよほど分かり易かった。


だからこそ彼らは


「なぁ、お前ら。やはり僕は九ノ枝を倒すべきだと思う」


そう言った聖野に


「おぉ! やってやろうぜ!!」

「待ってたぜ!!」


と賛同した。

皆、史郎を目の上のたんこぶのように思っていたのである。


◆◆◆


それから一週間、

史郎は校庭から響く金属音をまるですくすく育つ我が子の笑い声のように聞き入り、ナナは


「私の見せ場よ! 見てて、超ギリギリ狙ってあげるからね史郎!!」


と寝不足になりながらお笑い番組の鑑賞に励んでいた。

そして生徒はみるみる事態が悪くなる学園に顔を白くしていて、

聖野は校庭に出来上がるそれを眺め、史郎を倒すその瞬間を夢見て、目を血走らせていた。




そして一週間後。

午後二時。


『二年F組。九ノ枝史郎。至急、校庭に来い。来なければ誰かが犠牲になることになる』


谷戸組が校内放送で呼びかけた。





それは全ての準備が完了した証である。


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