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第4話 聖野優

自分が能力覚醒した際、一番最初に訪れた感情は落胆だった。


(自分は、『強く』ない……)


周囲の人間は炎を生み出す能力やら光弾を生み出す能力やらを得ているというのに……


(自分は、『敵の脅威度を透視する能力』、だと……ッ!)


つまり周囲の人間が水を操作するだの、『人を上回る武器』を有しているのに、自分は、いや、自分だけは、『その他一般人とさして変わらないのだ』。

そもそも誰が危険な奴かなど、誰だって分かる。


(ふざけやがって……ッ!)


世の不条理に対する自分すら焼くほどの怒りを覚える。

だがしばらくすると


「ハハッ、ハハハハハッ、ハハハハハハ」


急に笑いが込み上げてきた。

気が付いたのだ。

戦闘はボードゲームと同じだ。

一人で勝てないなら二人で、それでもだめならより複数でやれば勝てる。

そしてこの敵の戦闘脅威度を正確に自動算定するこの『眼』

この眼があれば


『絶対に勝てる』


ならば自分が、この誰よりもひ弱な異能しか持たない自分が、


「学園を支配してやる……ッ」


それこそが『脅威度測定リスクカリキュレイター』・聖野優の歪んだ門出だった。


◆◆◆


一方で史郎は入学式から数日後、『自分の身の振り方』について考えていた。


自分を狙って複数の男子が攻撃を仕掛けるようになった件のこともある。

メイの一件でメイに思いを寄せていた多くの男子から恨みを買ったことも原因だ。

加えてなぜか多くの女性からパートナーシップの依頼を受けていることも拍車をかけているのだろう。

それにより史郎は攻撃の雨に晒された。

しかしどうやら原因はそれだけではないようだ。

どうやら自分は一種の物差しにされているような節がある。

ようは史郎にどこまでさせたかが、彼らのトロフィーになるわけだ。

史郎にとっては溜まったものではないのだが。

だからこそ史郎は苛烈な攻撃に晒される。


だが史郎が悩む、『自分の身の振り方』。


それは何も攻撃の的になることを憂いての事ではない。

史郎にとって彼らの的にされることなど蚊と刺される程度のものなのだ。


史郎が悩む『身の振り方』

その悩みの最も大きな要因は今回の任務を見据えてのものだ。


史郎は与えられていた。


『今度入学する問題児の自信を完膚なきまでに粉砕しろ』。


というCランク任務を。


だが史郎は積極的に学園に対し関われない。

だからこそ史郎は仕向けなければならないのだ。


敵が史郎を攻撃する様に。


ナナや海は


『まあ史郎クラスが紛れてれば嫌でも目立つからどうせ狙われるよ』


などと言っていたし、確かに史郎もそう思う節もあるのだが、仮にも任務を与えられているのだ。

今回はどうやらそう言った対応で良いらしいのだが、何もせずただ棒立ちしているのもどうかと思う。


だから史郎は暗闇の中、資料を捲った。


もし新入生たちが暴動を起こす場合、誰がその中心人物になり得るか予め把握するのはもし狙われたとしても重要な意味があるだろう。

そしてもし該当人物が絞り込めたなら、その人物にアプローチを駆けることで襲撃を誘発することも出来る。


それに、すでに事態は大きく、大きく動き出しているのだ。


史郎は資料を捲りながら、ここ数日のことを思い出した。


◆◆◆


ズドォォォォン!!!!


そんなバカみたいな破裂音が聞こえてきたのはつい先日の事だ。

衝撃音と同時に校舎に縦揺れが襲い、パラパラとコンクリの破片が落ちてくる。


「なんだなんだ!?」


めったにない衝撃音が上階から響いてきて活発な男子が窓から身を乗り出し上階を見上げる。

そして彼らは見ることになった。


四階の窓ガラスが吹き飛び、無くなった窓からもうもうと黒煙が大樹のように立ち上るのを。


◆◆◆


中学時代、学園支配を目論んだ聖野がしたことは簡単なことだった。

まず校内で一番強い奴に声をかけた。


「あぁ、なんだお前」


普段から力を持て余していそうな男は何の接点もなかった聖野を煙たそうにみやった。

だが聖野の提案に見る見る顔が変わってくる。

聖野の話を最後まで聞き終わると男の表情はすっかり変わっていた。

荒々しく息巻く。


「いいな。やってやろうじゃねぇか聖野!!」


彼は見た通り、やはり力を持て余し、発散の場を求めていたのだ。


それが聖野の大の親友であり『傀儡』。

『谷戸』との出会いだった。


『谷戸』を皮切りに聖野は瞬く間に勢力を拡大した。

脅威度測定リスクカリキュレイター』で優秀な能力者に相次いで声をかけ、次々と仲間に引き込んでいく。

もし反発する奴がいたならば、確実にそれ以上に高い『脅威度』を有する能力者を向け滅多打ちにした。

そして聖野は谷戸に仕向けた。

より暴力的に振舞うように。

谷戸はすぐさま聖野の言葉を受け入れた。

もともと素質はあったのだろう。

かくして聖野は谷戸を隠れ蓑とし、学園で自身の欲を発信していった。

そして聖野が始めた傍若無人な暴力集団は『谷戸組』と呼ばれるようになり、

しばらくして結束して谷戸組への抗争を打ち出した勢力を


脅威度測定リスクカリキュレイター』をもって完膚なきまでに叩きのめした結果


『谷戸組』の権力は確固たるものとなった。



そして舞台は一年後『高校』に移った。

最弱の自分の力での学園支配の夢はまだ終わっていなかった。

白いキャンパスを再び渡された以上、また自分好みの絵を描く必要がある。

だが『谷戸組』の下級生組員はまるごとおいてきて、『谷戸組』の戦闘員は半減している。

このような状態で自分がすべきことはなにか。

すぐには分からなかった。

だから聖野は晴嵐高校に入りすぐに情報収集を始めた。



そうして手に入れた情報が


『権力会』と『期末能力試験大会』である。

すでにこの学園にも『谷戸組』と成り立ちこそ違えど能力強度によるピラミッド構造があるらしい。

そして年末に行われた『期末能力試験大会』。

このような既存権力構造の崩壊を招きかねない大会、聖野ならまず開き得ない。

聖野が考えている以上にこの学園の生徒は牧歌的なのかもしれない。


そして『権力会』『期末能力試験大会』それら単語や、そこで行われた内容の情報が脳内でグルグルと混ざる。

そして4月末に行われる『権力会総会』。


……入り込む『余地はある』。


「なぁ、俺はどうすればいい?」


聖野の悪意は谷戸に完全に感染している。

4月に入学して数日もせず獰猛な目つきで谷戸は聖野に尋ねた。

すでに自身の手を離れた学園支配者の優越の味が恋しいらしい。


そうだな。


舌なめずりして聖野は周囲を見回した。


脅威度:191


そうしてクラスでそこそこの脅威度を有する少年が目に留まる。

谷戸に尋ねられた聖野は声を潜めて答えた。




「アイツを攻撃しろ谷戸」




◆◆◆


「なんだなんだ!?」


かくして凄まじい破裂音と共に4階の窓ガラスが吹き飛び黒煙の樹木が立ち上る。

下階のお調子者の生徒は窓から身を乗り出した。


◆◆◆


「コイツだ……」


暗闇の中、中学時代の経歴書に目を通していた史郎はやはりとある男子に行き着いていた。

どう思考を働かせてもこの男に行きつくのだ。


『谷戸』はこの男がかかわることで豹変していった。

もし学園に大混乱を起こす精神因子がいるなら『コイツに違いない』


硬い表情を浮かべる少年の写真を史郎は凝視し、その名を繰り返した。


「『聖野優(せいのゆう)』・・・・・・」




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