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第3話 学園生活

ナナの転入で波乱が予想される学園生活。


案の定、波乱万丈な学園生活となった。


まず授業中、


「では、ここ七姫さん、読んで」

「は、はい!」


フンス!と鼻息荒く新品の教科書を持ち立ち上がるナナ。

しかし……


「『そしてゲンゴロウは、い、いった? そなたの』」


沈黙。

どうしたどうした、と周囲がざわつき始める。

衆人環視の元目に涙を溜めたナナはというと


「読めない助けて史郎~~~!!」


現代文の音読で躓いた。


悔しいと目に涙を溜め鼻をすすり史郎にせっつくナナは確かに可愛いのだが、是非メイの前では止して欲しい。


だがこんなナナだが外見だけは良く、多くの男性陣からモテるようだ。


「ね、ねぇ七姫さんってどこから来たの?」

「じ、実は私最近能力覚醒して、それでここ紹介されたの……」

「へぇ、七姫さんってどんな能力持ってるの?」

「テ、テレキネシスを少々……」

「そうなんだ。俺はパイロキネシスだよ! ホラ見て!」

ボン。男の手に野球ボールほどの火の玉が灯る。

「アー、凄いねー」


「そ、そういえば七姫さんってパートナーシップ相手決めてる??」

「パートナーシップ?? 何それ??」

「いやパートナーを決める仕組みなんだ。もし良かったら俺と……」

「おい! 江島抜け駆けしてんじゃねー!!」

「あ、おい! 細屋! ちょっコラ! 暴力やめろ!!」


といった具合の会話がナナの机の前でひっきりなしに展開されていた。



「ねぇ、史郎。このパートナーシップ制度ってなんなの?」


昼休み。誰もいない屋上。

いつもの定位置で史郎はもってきたパンにかぶりついていると、横にいるナナが藁半紙に書かれたそれを指さし不思議そうに小首をかしげる。


「学園で提出物の管理とか悩みとか、勉強とかを確認し合ったり協力するバディと作ることだよ。その用紙に二人そろって書き込んで提出することで決めるんだ」

「なるほど。じゃぁ私のパートナーは史郎で良いわよね? はい。史郎、早くここに名前書いて」


ずい、とさも当然のように自分の名前を書き込み史郎は睥睨する。


「いや、俺、お前とはパートナーにならないから……」


この常軌を逸した馬鹿とバディになろうものなら連帯責任で多くの災難が史郎に降りかかることは確実である。

史郎が頬をぴくぴくと震わせながら答えるとナナは大げさに仰け反った。


「えええええええええええええええええ!?!? じゃあ私誰に頼ればいいのよ!」

「それが嫌なんだよ! お前散々依頼用紙貰ってたんだろ! そん中から選べよ! 要介護レベルのお前の事もサポートしてくれる奴もいるだろうよ!」


そう、ナナは今日だけで三十名以上の男子からパートナーシップ用紙の紙を渡されている。

だが彼らはこの少女の負のポテンシャルの凄まじさを欠片も知らないから彼女をパートナーに誘えるのだ。


史郎がにべもなく断ると、グスンとナナは涙くんだ。


「そ、そっかぁ……。私は史郎と一緒が良かったんだけどなぁ。でもそっかぁなら仕方ないかぁ」

「あ、あぁ。すまんな……」


庇護心が掻き立てられる光景だが、ここは心を鬼にして断るべきタイミングである。

そしてこのパートナーシップ制度、理由があれば実は三人でも組めるのだが、それは絶対にナナには言わないようにしようと史郎は固く心に誓った。


「じゃ、じゃあ史郎は誰とパートナーになるの??」


ナナは恨みがましい瞳を史郎に向けた。

「う……」その瞳に史郎はたじろぐ。

そしてあまりの罪悪感に耐えられなかった。


「ひ、雛櫛とパートナーになりたいんだ……」



史郎が顔を赤くしながら答えると、パッとナナの顔が華やいだ。

どうやら意味もなく断られたわけじゃなかったので安心したらしい。


「あ、あのかわいい子ね! あ、そっか! そういえば史郎はあの子の好きなんだもんね!」


史郎とナナの間に恋愛感情はないのだ。


「そういえば、どうなの!?ここ最近。そういえば動画でとんでもないことを言ってたけど!」


そして女生徒はどんな経歴であれ、恋愛話には多少の興味があるようだ。

例えそれが幼卒だとしてもだ。


「そ、それが何もないんだ……」

「え、何もないの!?」


早くも史郎に断られたショックから復活したナナは総菜パンを頬張りながら目を丸くした。


「あんな公開告白みたいなことしておいて!? それって史郎、雛櫛さん史郎の事……」

「やめろおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」


史郎は言ってはいけないことを口にしようとするナナの口を塞いだ。


史郎としても苦心しているのだ。

どうしてもどう思っているか、反応が知りたい。

だからこそ今日も数回、挨拶だけでもと話しかけようとした。

偶然同じクラスに成れて、しかも成り行きとはいえ、すでにあんなことをいってしまったのだ。

勇気を振り絞って話しかけようと思ったのだ。

しかし史郎が席を立とうとした瞬間


「ねぇねぇ! 九ノ枝くん! パートナーシップ決めた!?」


いつぞやの茶髪ショートカット娘、照木が史郎の前でパートナーシップの藁半紙を差し出していた。


「い、いや、決めてないけど……」


まさかメイに依頼もしていないのにメイにする予定だとは言えない。

史郎が慎重に言葉を選びながら答えると、な、ならっとつっかえながら照木は身を乗り出した。


「私とパートナーにならない!? 九ノ枝くん!!」


目を熱っぽく潤ませる照木。

このようになぜか史郎とパートナーになりたい女子がいたりしてメイと話す機会がないのだ。

それに、照木一人だけならいい。


「い、いやちょっと……」


史郎がやんわりと断ろうとした時だ、照木と史郎の間に複数の女子が身を乗り出したのだ。


「だから照木、抜け駆けは良くないって! ねぇ九ノ枝くん! 私と、私とパートナーになりましょうよ!」

「いや私が成るのよ!」「いや私よ!!」


順番に、舟木と武田と会沢である。


このような具合でパートナー申請が入れ食い状態の史郎は、ナナと並ぶとも劣らない程のパートナーシップ申請書が手渡され、その対応に追われ、休み時間中一切メイと話しかける機会がなかったのだ。




女性だけではない。

それ以外にもメイに話しかけられない原因はあった。


「おらぁ! 喰らえやぁ!!」

「おう」


史郎は廊下を突如かけてきた男子の炎が灯った拳を上体を下げて躱す。

そして男の下腹部に手を当て、「よっと」、男の力を利用し吹っ飛ばす。


「「「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」」」


史郎の流麗な身裁きに周囲の観客? が感嘆の声を上げる。

一方でやられた男は「グフ……」と力なく横たわっている。


そう、メイに話かけられない理由。その二。

休み時間、なぜか、多くの男子に戦闘を仕掛けられるようになった。


もともとこういった暴力沙汰は日常茶飯事の学園ではあった。

その攻撃の矛先が急にちやほやされ始めた史郎に向いたのだ。

加えて史郎はあの時言っていた。

『調子が良かったから、ここまで出来た』と。


その言葉を鵜呑みにした連中が史郎に戦闘を仕掛けてくるようになったのだ。


だが史郎とて、


「おう! 今度は俺だぁぁ!」


わざわざ負けてやる気はない。


 「『金貨弾丸(コインガン)』!」


史郎は乱れ飛んでくる百円硬貨やら五十円硬貨を一瞬で見切り避ける。

壁に硬貨が当たり、ズドドドン! ととても硬貨が当たったとは思えない衝撃音が響く。

だがそれだけだった。


「くッ!」


史郎が一瞬で距離を詰め『金貨弾丸(コインガン)』の能力者、金田の腕を掴み、捻り上げる。

バラバラと金田の手から硬貨が流れ落ち派手な音を鳴らす。


金田を一瞬で鎮圧した史郎。

だが攻撃はこれで終わりではなかった。

彼らは連携していた。


「なにをぉぉお! 今度はD組、尾長だぁぁ!」


金田を倒し一息ついていた史郎の背後からD組、尾長が能力刀を振り下ろしていた。

黒光りする細い刀身の能力刀だ。

普通に危ない。

しかし史郎は危なげない身のこなしで回避。


「せい!」


隙をついて男の下腹部に拳を打ち込み。無力化。

そして最後


「良くやったお前ら! 準備、完了ぉぉぉぉぉぉぉ!!!」


B組、青原が空中に数十のエネルギー弾を浮かせ白い歯を覗かせた。

青木の能力は『白光弾(ホワイトマシンガン)

無数のエネルギー弾を産生し一気に生み出す能力。

それによって出来上がった弾丸が


「くらえぇぇぇぇぇぇェェェェ!!!」


青原の咆哮と共に史郎に襲い掛かる。

対する史郎は――

床にまだ消えず落ちていた尾長のウエポン型異能、黒い能力刀を手に取ると、一番先に到達する光弾に集中。

顔面めがけて飛来するそれはとても人間では反応できない程の速度を有する。

しかし


「え――」


あまりの史郎の流麗な動作に周囲の観衆が目を見開く。


後退しながら史郎が振るう刀が、史郎の後退により出来たスペースに滑り込み、光弾を『切り払った』


そして


ズガガガガガンッ! と史郎の振るう能力刀が無数の光弾を全て打ち落とす。


「う、嘘だろ……」


史郎の常識の埒外の駆動に青原はがっくり崩れ落ちた。


そして一方で、流麗な所作で敵を軽々倒し


「いや、嘘じゃないんだなこれが……」


余裕綽綽な史郎の立ち姿を見て女生徒がひっそりと呟く。


「すごい……」







そしてこういった乱闘がきっかけで、だ。


「こ、これ……、パートナーシップの紙です……。良かったら……」


史郎に申請書を渡す女子が増え、結果、男子生徒からの恨みを買い。


戦いを挑まれる。


負のスパイラルが生じているのだ。




「い、一体どうしたら……」


史郎は贅沢すぎる悩みに懊悩していた。


◆◆◆


一方で、


「へぇ、『期末能力試験大会』。そんなもんやったのか」

「らしいよ。谷戸」


ここは一年生の教室。

そこで谷戸と聖野が学園で仕入れた情報を共有していた。


「で、結局誰が勝ったんだ? 興味あるな……」

「途中で中止になったんだって」

「中止? どういうことだ……?」


そして聖野から明かされた話を聞き谷戸はぺろりと舌なめずりした。


「へぇ。九ノ枝史郎、ねぇ」


ぎらついたその瞳は新たなターゲット候補発見に獰猛に輝いていた。


折しも一ノ瀬海の言っていた


『まあ史郎クラスが紛れてれば嫌でも目立つからどうせ狙われるよ』


その言葉が現実のものになろうとしていた。




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