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第13話 犯行動機

「「「「えええええええええええええええええええええええええええええええええ」」」」


なんてことないように地面にあっさり着地した史郎。

想像だにしない離れ業に度肝を抜かれる観客だが、すぐにそれを超すほどの『異常事態』がやってきた。


『ええええ!?』


史郎に続いて、先ほど決勝リーグ不参加の『木嶋も』空から降ってきたからだ。

校舎4階に史郎の他にいたのは木嶋で、その木嶋もあっさりと校舎から落下。

というよりも史郎めがけて校舎の四階から跳躍しており、勢いをつけて史郎の脳天に『かかと落とし』を入れようとしていた。


そのような攻撃を受ければ人は死んでしまう。


『ちょっ木嶋君やめなさい!』


殺人鬼と同然の所業を見せる木嶋をフウカが叱責する。


だがそれよりも先に木嶋のかかとは史郎に襲い掛かり、


史郎はあろうことかそれを『片手で受け止めると』、ハンマー投げのように降ってきた木嶋をぶん投げていた。


タァンッタンタンッと、木嶋の身体が飛び石のように地面をバウンドし、ゴロゴロと土煙を上げながら何十メートルも転がりようやく止まる。


人の身体を何十メートルもふっ飛ばした。


「「「「ええええええええええええええ!!??」」」」


驚天動地の有り様に会場は大混乱だった。


◆◆◆


一方で史郎。

追撃を仕掛けてきた木嶋を投げ飛ばすと、校庭隅の倉庫に『力』を送っていた。


テレキネシスを受け用具入れのドアがバンッ! と乱暴に開かれた。

そしてそこから人形劇のようにモップやらホームベースやらが独りでに浮遊し、流星のように木嶋を襲う。

『力』を込められた物体の破壊力は絶大だ。

いくら通常能力者が『肉体強化』と『テレキネシス』が使えるからと言って、普通に受けたらただでは済まない。


操られたホームベースは金網に突き刺さる。


「う、うおおおおおおおおお!?!?!?!?」


操られたモップが地面に突っ込めばあたりの土が盛大にめくれ上がる。

雨あられのように落ちてくる野球ボールがさながら爆弾だ。

そのような爆撃の群れが木嶋を襲った。


ズドドドドドドドドドドッと瀑布の様な音を立て用具が落下する。


十メートルを超える砂煙が立ち上った。


◆◆◆


「え、嘘でしょ……」

「威力おかしくない??!!」

「どうしてあんなことが出来るの!?」


明らかに自分たちの『それ』とは違う史郎のテレキネシスの性能に生徒たちは口々に周囲と何事か言い合っていた。


しかし――


「ちょっとあれ見て!!」


会場の誰かが金切り声を上げる。

土煙が立ち騒然とする会場。

会場の視線が少女の指さす画面の一点に注がれる。

『戦闘万華鏡』が、中空にいる木嶋を映していたのだ。


「いつのまに!?」


木嶋のテレポート能力の存在を知らない生徒は目を剥いた。


◆◆◆


一方で再び史郎。

史郎はすでに木嶋の能力を把握し始めており、


『赤い靄』が中空に発生し始めた時点で行動を開始していた。


史郎が『力』を送ったのは野球フェンス。

校庭を覆うように張り巡らされていた防球ネット。

そしてそれらを張り巡らせる鉄柱である。


史郎の『力』が伝わり、直径十センチほどの鉄柱が甲高い音を立ててミシリと根本付近から『折れる』。

それにより高さ三十メートルを超すフェンスやネットが校庭に覆いかぶさるように倒れてきた。

それは巨大な蠅取りのようで



「うお!?」


転移した空中で謎の影が迫り木嶋が振り返る。

すると自身を叩き落とすように、からめとるように迫る巨大な包囲網に、木嶋は目を剥いた。


◆◆◆


戦闘万華鏡はその時、木嶋視点で画面を展開していた。

木嶋同様空を見上げる視点のビジョンが一気に陰る。

巨大な緑の捕獲網が木嶋に襲い掛かったからだ。


同じビジョンだからこそ


木嶋同様の恐怖が会場に伝わる。


「嘘でしょ……」


誰かがポツリと呟いた。

誰もが何十メートルという防球ネットを倒し力技で木嶋を捕獲しようとする史郎の離れ業に度肝を抜かれていた。


加えて、


極太なポールもテレキネシスで捻じ曲げる。

相手の動きを読んで巨大な包囲網を張る。

弾丸の様な速度で物体を操る。

ガラス片を巨大なうねりのように操り、凄まじい速度で吹っ飛ばされても無傷。

まして襲い掛かったかかと落としまで片手で受け止め、投げ返して見せる。


これまで史郎の『偉業』としか思えない戦闘性能を目の当たりにし、

そこにたった今感じた恐怖が混じり合い

生徒たちの史郎に対する「目立たない謎の多き少年」というイメージが一変する。


「「「「すげえええええええええええええええええええええええ!!!!」」」」


生徒は興奮し叫んだ。


「え、ヤバくない!?」

「マジで凄いって! これ!」

「あ、アタシ今度九ノ枝くんにアタックする!」

「抜け駆けはやめなさい!?」


そんな風に口々に言い合う。


だが彼ら彼女たちに

『自分も負けていないぞ』

そう主張するように木嶋も能力を起動した。


『赤い靄』を出し瞬間移動した木嶋。

彼はネットから逃げられないと悟ると再度『赤い靄』を出現させたのだ。


◆◆◆


しかし史郎はすでに読んでいた。

木嶋の能力はテレポートは移動距離こそ長いが、出口に赤い靄が出現する。

即ち、

体育館近くに出現した『赤い靄』。

それが次の出口――


史郎は木嶋が転移し始めた直後、走り出し


「さすがに読めるぞ?」

「クッ!?」


転移した木嶋の腹部に拳を叩き込んだ。

ミシィ! というとても人体から生じたとは思えない破壊音が響き、木嶋の身体が吹っ飛んでいく。

しかも攻撃はそれで終わらない。

体育館に吹っ飛んでいく木嶋よりも早く史郎は駆け、ダァン! と体育館の側面に接地すると飛んできた木嶋を体を回転させながら掴み取り再度地面にぶん投げた。


それが決まり手だった。

史郎の強化した拳を複数回受けた木嶋は地面にばったりと倒れていた。


◆◆◆



ダァン!!


とビリビリと窓ガラスを揺らしながら史郎が体育館の壁に接地すると観客は大喜びだった。


「「「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」」」」


収まるところを知らない興奮が体育館内を満たす。


今まさにすぐ壁の向こう側で信じられない程強烈な試合が行われている。

その事実に大興奮だった。


しかし戦闘自体はそこで終わってしまった。

木嶋と史郎の試合がそこで終わってしまったからだ。

戦闘万華鏡はその役目を終え、ブラックアウトする。

史郎が地面に伸びる木嶋に向かっていくところで映像は終わっていた。


「なんだったんだ、今のは……」


史郎たちの戦いが始まった段階で体育館内に避難していた内田が目を丸くする。

郭もその横で自分たちの試合が台無しにされたのも忘れコクコクと頷いていた。


『確かに、今の試合は何だったんでしょうか……』


内田の呟きを呆然自失のミイコが拾う。

喧騒は次第に収まりつつあった。

しかし誰も答えるものはいない。

この空間に史郎たちがなぜ戦っていたのか分かるものはだれ一人いなかった。


誰も分からない。


しかし、会場の中でポツリと声が上がった。


「でも木嶋君の能力、『あの日』みたいだったよね」


と。


あの日。


つまり『無差別能力覚醒犯』が自分たちを覚醒させた日だ。

あの日もまた、赤い靄が生じて、例の女は現れたのだ。


「確かに」

「そういえば……」


同じく記憶を鮮明に覚えていた生徒が一様に同意し始める。


ということは、だ。


史郎がなぜあんなにも苛烈に戦っていたのか。


その全容が多くの生徒の中で明るみになり始める。


だからこそ


『え、映像班!? なんとかなんないの? 映像拾って!』


これから二人の間でどのような会話が交わされるか知るべく無理やり戦闘万華鏡が起動した。


◆◆◆


時はほんの少し遡る。


史郎は地面に仰向けに倒れる木嶋の前に立っていた。


「なぜ、『能力覚醒犯』を招き入れるなんて真似をしたんだ。誰の指示だ」


敗北した木嶋は従順だった。

そして出てきたのは衝撃の発言だった。


「……忘れた」

「ハァ? お前が裏で繋がっている奴だぞ? 忘れるわけがないだろう」

「不思議なもんでな。……忘れちまった。というより、お前、さっきからどうにも勘違いしているようなんだよな……。内通者だのなんだの……。俺はどこにも属していない、野良能力者だぞ……」


野良能力者。

つまりはどの能力組織にも属さぬ一匹狼能力者だ。

しかしもう一つの可能性もある。

つまりそれは……


「俺が能力覚醒したのは中三の頃だ。……その頃から俺はどの組織にも『属したことはない』」

「……ッ!?」


それは衝撃の事実だった。


能力覚醒犯を学園内部に入れた人物は、能力開放派の息のかかった能力者であると踏んでいた。


しかしそれが能力的思想のない、野良能力者によるものだったとは。


この話は信じていいものなのだろうか。

史郎が頭をフル回転させる最中、ぶっ倒れる木嶋は話し続けた。


「……ある時、『とある男』に話しかけられた。そいつに言われたんだ。『皆を同じ世界に連れ込まないか』と……。俺は驚いた。相手は俺の保有する能力から何でも知っていた。そして俺はその男の指示に従った。もう、顔も名前も覚えていないが」


もしかすると木嶋を誘導したのは記憶を操作するような能力者なのかもしれない。


だが史郎はそれよりも気になることがあり、怒りを必死に抑えながら問うた。


「それでお前は覚醒犯を招き入れたっていうのか……! 何のために!? その話じゃお前に何のメリットもないじゃないか!?」

「……、なんてことはない。……その方が面白いと思ったからだ」

「……ッ」


あまりに身勝手な思想に頭の血管が切れそうになった。


「……寂しかったんだよ。九ノ枝……。お前なら、分かるだろ……?」


確かに能力者は皆、能力覚醒した当初、孤独感に苛まれる。

だからこそ能力者は能力者で徒党を組むのだ。

だがだからと言って、周囲の人間丸ごと同じ世界に引きずり込むのは身勝手すぎる。


当人が誰よりも能力覚醒してしまった生きづらさは知っているだろうに。


「お前……、少し身勝手すぎるな……」


史郎は自身の奥底で沸々とした怒りが沸き起こってくるのを感じた。


いくつもの怒りが駆け巡る。


自分も『赤き光』に所属するまでは孤独だったとか――

生徒皆の人生の責任を負えるかだとか――

それで多くの人が怪我をしてるけどそれをどう思っているのかだとか――


その中でも指折りで怒りを生んでいる事象があった。


即ち史郎が想いを寄せるメイである。


実はメイ。

彼女もまた能力を得たのだが、彼女に発現したのはボンヤリ発光する光を生み出すだけの能力で


晴嵐高校『最弱の能力者』と揶揄されているのだ。


だから今日も試合で


「キャッ!」


とあえなく倒され、足をすりむいていた。

木嶋の自分勝手な理由を聞いた後、メイの敵に押され痛そうに歪む顔や、倒された後悔しさで目を伏せるメイの姿が今も脳裏から離れなくなった。


今日、メイが悔しそうな顔をしたのも、時に『最弱少女』と揶揄され、眉を下げるのも『コイツ』のせいなのだ。


いや違う。


史郎はそこで、さらにどうして自分がこんなにも怒っているか気が付いた。


そう、木嶋だけではない。

あの現場を『止められなかった』自分自身にも怒っているのだ。


そして史郎を出し抜いた男がこんな幼稚で下らない思考回路の元動いていたということが腹立たしくて仕方がなかった。


そう


「……僕はまだまだ遊びたい。楽しかったんだ。みんなが同じ世界にいることが……! なぁ九ノ枝? お前なら分かるだろう? なぁ、僕を見逃してくれないか? 確かに僕は能力覚醒の片棒を担いだ……! でもそれは、そんなに悪いこと、なのかなぁ……」


こんなにも幼稚な男にしてやられたのだ。


そして、生徒に能力を覚醒したことが悪いことかどうか。


悪いに決まっている。


木嶋の寂しさを癒したいという身勝手な願いのために晴嵐高校の生徒はもう二度と、普通の人間としての人生は歩めないのだ。

例え一般社会で生きることになったとしても日常の至る所で、能力の記憶は呼び覚まされよう。


そのような人生を一変させる出来事を、一人の人間の独断で決めて良い訳がない。


そしてなにより――


メイだ。

メイはこんな世界になったからこそ、毎日傷ついている。


史郎は怒りで頭が真っ白になりながら、憎しみを込め木嶋を見下ろしていた。

そして怒りに任せて史郎は言ってしまっていた。



「お前、『最弱能力者』って言われる奴の気持ちを考えたことはあるか……?」


自分の本音を。


「……俺は毎日、ずっと考えている」


木嶋のせいで。自分自身のせいで。

メイは毎日傷ついている。

感情を押さえつける史郎の声は、酷くくぐもっていた。


「……だから」


「……俺はあいつにそんな思いをさせることになった俺もお前も許さない。そしてお前を今から制裁する――」


◆◆◆


史郎は怒りで忘れてしまっていたのだ。


――『戦闘万華鏡』で会話内容が聞かれるという危険性があるということを。


ミイコの指示から数分後、戦闘万華鏡が追いついた。

それによって史郎と木嶋の会話が途中から映し出された。


『なぁ、僕を見逃してくれないか? 確かに僕は能力覚醒の片棒を担いだ……! でもそれは、そんなに悪いこと、なのかなぁ……』


最後の木嶋が史郎に懇願する映像から、それは始まった。

木嶋の懇願で史郎の顔が酷く歪む。

そして


『お前、『最弱能力者』って言われる奴の気持ちを考えたことはあるか……?』


史郎の本音が流れ出す。

流れ出してしまっていた。

メイがいる、この場所で。


『……俺は毎日、ずっと考えている』


『だから……』


『俺はあいつにそんな思いをさせることになった俺もお前も許さない。そしてお前を今から制裁する――』





『――俺の大切なアイツのために』




画面越しでも分かる。

史郎の瞳には凄絶な怒りが宿っていた。


しんと静まり返った体育館内に史郎の言葉は響いた。



「……ッ!」


史郎の本音を聞いた当の本人。

メイはしっかりと史郎の言葉を聞いていた。


史郎が自分の事をこんなにも考えてくれている。


そのことを考えるだけで顔が火照る。

声にならない程の喜びを感じる。

しかし今、それは取っておく時だ。


それを聞いたメイは、


「ちょっとどこ行くのメイ!」


全てを飲み込み、校庭に向かい駆けだした。


……自分が早く行ってあげないとならない。


そう思った。

メイは持てる力の限りを尽くし校庭を目指す。


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