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脚本

作者: 楠乃


 とある冊子に投稿した作品。

 尚、『これは小説ではなく詩やポエムに近いもの』という意見が多い。


 別サイトにて掲載していました(アカウントごと削除済み)


 



▼▼


 私と彼の出逢いは劇的だった。

 実にドラマチックだったと、言い換えても良いと思う。


 ……いや、うん、ちょっと言い過ぎかもしれない。

 私と彼が出会ったのはコンビニの中だから、そこまで劇を見ているかのような強い緊張や感動を覚えるようなステージではなかったかもしれない。

 けれどもやっぱり、私の中ではあの出逢い方はドラマチックだと思う。


 私と彼は、コンビニの中、サラダにつける様々なドレッシングの小さなパックが降り注ぐ中、出逢ったのだ。


 ……うん、確かに少しメルヘンが入っているとか、ちょっと病気じみてるだとか、頭が少しおかしいんじゃなかろうかと言われたりした事もある。それは否定しない。

 けれども、私にとっては、大切な思い出の一つ。

 劇の開幕をお知らせするファンファーレなのである。


 当時、私は中学二年生。高校をどうするか悩んでいた時期で、友達と別れてコンビニに寄った時だった。

 対して彼は高校一年生。無事にバイトも見付かり、ある意味順風満帆。初めてのバイトで無茶苦茶に緊張していたらしい。

 コンビニの先輩に色々と教えられながら、食品の納品や棚整理をしていた時に、それは起きた。

 そのコンビニの先輩がドレッシングの束が入った袋を思い切り引き裂いてしまった。

 私はイヤホンで音楽を聴きながら漫画の立ち読みをしていたけど、それでもその時の音は音楽よりも大きく私に届き、そちらの方へ振り向いてしまった。


 結果として、そのドレッシングが宙に舞う中、私は彼に気付き一目惚れをして、

 彼は先輩に呆れながら見ていたら、向こうから見つめていた私に気付いた、らしい。


 これが私の自慢する劇的な出逢いだった。パンパカパーン。

 この日から、私は彼に猛烈なアタックをし始めるのだけど、それは自慢よりも恥ずかしい記憶になっちゃうので、ここには書かないことにする。まる。







▼▼


 私と彼と共に過ごす毎日は、とても色彩豊かな物語のようだった。

 誰が脚本をしたんだこのベッタベタに甘いストーリーは。と言われてもおかしくないと思う。

 私達が付き合うようになってからはそんな毎日が続いた。


 ……まぁ、これも私が多分無意識の内に甘く書き換えてしまってたり、色眼鏡で現実を見てしまっているからかもしれないけどね。

 彼が居るだけで、彼と私の周りはとてもキレイに色付いていった。

 彼がそばに居ないというだけで、面白かったものはとたんにくすんでしまったかのように感じた。

 彼とケータイを通じておしゃべり出来ただけで、つまらなかったことが急に輝いて見えるようになった。

 彼に教えてもらった事は、私の大事な思い出と自慢してしまう知識となった。


 私はその頃、とにかく彼に夢中になっていたのだと思う。

 夢中のものを追い続けているだけで幸せだった。

 後になって後悔したとしても、その時の私はたしかに幸せだったと、今の私でも言える。


 彼が居たことで、私はとても幸せでした。

 そんな幸せを享受していた私の劇は、誰もがうらやむような素晴らしいハッピーストーリーだと思う。


 一緒に遊びに行ったり、お買い物に出掛けたり、ちょっと家族に紹介もしてみたり。

 お父さんは複雑な顔をしていたけど、お母さんの言葉には勝てないみたいで、何か言ってきたりはしなかった。

 けれども、心配はしてくれているというのが当時も今も、それぞれ違う内容で理解していたから、私も父とそんなに反発することもなかった。

 同級生と比べたら、父娘の間柄は悪いほうじゃなく、むしろ良かった事も私の自慢の一つだ。


 なんやかんやで、お父さんと彼は私の居ない所で話していたりして、ちょっと仲良くなっていたりしていたのも、実は知ってたりする。

 お母さん経由なんだけどね。これも血筋かしらってお母さんは笑ってたけど。何のことなのか今でも分からない。







▼▼


 彼を追っ掛けて進んでいく道のりというのは、決して楽しいばかりじゃなかった。

 今思い返してみれば、あの時はちょっと病んでいたかなー、と思うぐらいには、私は必死だった。

 そういう意味で、その時の私の劇はちょうど『起承転結』の転ぐらいだった。

 簡単に言えば物語の場面が次々と変わるハイスピードな、いわゆるアクションドラマのような活劇だった。


 私も彼の家族に紹介されたりして、家族間でつながりのようなものが出来てきた。

 そんな時に私には、高校受験というものが迫っていた。


 しばらく悩んだけど、私が選んだのは彼と同じ高校を選ぶというものだった。

 多分だけど、私のカレ依存症とも呼べる病状はこの頃から出てきたんだろうと思う。

 彼が通っていた高校は比較的簡単に入れるところだった。私の当時の学力なら余裕で通れるところだった。

 むしろ、私が彼と出逢う前に志望校を選んでいたら、もっと高ランクのところを目指しているんじゃないかな。


 まぁまぁ難なく合格出来て、一年間彼と同じ高校を過ごすという素晴らしい時間が手に入った。

 けど、一年もそんな生活をしてしまったら、彼の居ない高校を二年間も過ごすのはとてもつまらなかったと思う。

 今も付き合いが続いている同性の友達には言えないけど、あの二年間の高校生活はちょっとつらかった。

 一緒にふざけたり、勉強したり、悩んだりしたけど、やっぱり彼が居ないとつまらなく感じてしまっていた。

 その事を友達に言ったりは出来ないけど、謝りたいなとは思っている。今も。

 ……謝れないけどね。




 そして、最も大きな壁がやってきた。

 なんとまぁ、彼は私とは違って割と偏差値の高い大学へと合格を決めてやがったのである。

 私は彼にうつつを抜かしている間はどんどん成績が下がっていっていたというのに、彼はむしろ成績がどんどん上がっていくタイプだった。

 けしからん、というかうらやましいというか、くやしいというか、なんて言うか、私は? とか、ちょっと思った。


 まぁ、そんな事は置いといて、二歳年上の彼を追って、私はがむしゃらに進んだ。

 彼と過ごす大事な時間すらも同じ場所で共に過ごすために費やそうとしていた。


 私の選択はやっぱり、彼と同じ場所、だったのだから。

 足りない学力を必死に補うために、私はもう勉強した。


 あの時の私のそばには志望大学の現役生が居て、助けを呼べばすぐに教えてくれたりしたから、伸び悩んでいた学力はメキメキと伸び始めた。

 努力すべき明確な目標が、目の前に居たから私は頑張ることが出来た。

 今じゃあ、出来ないと思う。


 何はともあれ、おやつ抜きで頑張った私は多少なりとも無茶をして、彼の通う大学に合格した。

 私は夢の大学一年生。彼は今後の生活を考え始めなければならない大学三年生。

 これでようやく二年間も共に過ごせる! と張り切っていた私は、やっぱり空回りしていたんだ。







▼▼


 私と彼の別れは劇的だった。

 違う言い方をすれば、それはドラマチックと言ってもいいかもしれない。

 まぁ、この場合は悲劇的な、という意味でのドラマチックになると思うけど。


 ……いや、ちょっと、うん、言い過ぎたかもしれない。

 私と彼が別れてしまうのは、今なら仕方のない事と言ってしまえるのだから、それほど芝居が掛かった表現をしなくても良いかもしれない。

 けれども、こうして今、彼の居ない生活を平々凡々と送っている私の中では、これまでの生活を劇に例えて説明しないと収まりが着かないのだから、仕方のない事なのだ。


 それの発端は、彼が就職に成功した時だった。

 いや、そもそもの原因は彼と私の間にあった『何か』だから、発端の時期の断定は出来ない。

 だから事件の始まり、言い換えれば、彼と私の終わりの始まりは、彼が就職に成功して、お祝いとして二人で食事に出掛けたのが始まりだった。


 しばらくの間、わりと高いレストランで食事を楽しみ、彼の運転する車でしばらくドライブをして、山の上の展望台で星を眺めながら、二人でこっそりと楽しんでいた。


 そして唐突に、彼から別れの言葉が飛んできた。

 当然、私は反発した。

 一体何に、と説明はできないけど、とにかく私は彼に反発した。

 付き合って六年。彼と喧嘩をしたのはこれが最初で、これが最後になった。


 結局何を言って喧嘩別れになったのか、詳細はもう思い出さないけど最後は泣きながら彼の送る車に乗って、家に帰ったのは覚えている。

 頭の良い彼は、完膚なきまでに私を言い負かしたのではないかと、今なら予想が付ける。

 もう、その後はずっと泣き続けた。

 親が何を言ってきても無視して、泣き続けた。三日三晩泣き続けた。




 そして、それだけ想っていたのに、私は四日目でスッキリと、してしまった。

 私の中で、キチンと終わりを迎えてしまった。




 もう、そこからは怒涛の展開だった。最後のあがきと言っても良いかも。

 泣いている時に消してしまった筈の彼の電話番号を、指が覚えているままに打って、

 デートの待ち合わせをしていたいつもの場所に『最後のお話があるの』と言って呼び出して、

 落ち着いて彼と話し、私の中でもこの話は落ち着いたと話して、


 そうして不意打ちでキスをして、

 最後におもいっきり抱きしめて、

 清々しいほどの感謝の気持ちを込めて、ありがとう、と言って別れた。




 最後の芝居は、悲劇だ。

 そうして彼と別れた私には、どうしようもなく彼の痕跡が残ってしまっていた。

 家族とのつながりから、自分の居場所まで、すべてに彼が居た痕がある。

 どうしようとも忘れることが出来ないほどに。


 でも、私はそれほど苦には思っていない。

 良い思い出になったと想えるからだ。まぁ、若干苦いけど……。

 けれども、私にとってこの一連の劇は人生に大いなる影響を与えた。

 それが良いのか悪いのか、彼が居ない今、どう判断するべきかは私一人では分からないけど。

 私は、精一杯生きている。

 この劇を。

 彼が居ることで演ずる事になった劇を含む、この私の人生という劇を。


 何度も言うけど……私と彼の劇は、結末は、悲劇だった。

 彼の劇は、分からない。彼にしか分からないから。

 私の劇も、分からない。まだ幕は閉じてないから。





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― 新着の感想 ―
[一言] 楠乃さんの作品はどれも読んでいると不思議な感覚がします。なんといいますか……直感的なものですが、読み進めると「フワフワする」感じです。 それを楽しませていただいています。 追記:卒検は大…
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