これまでのあらすじ 第四章編
第八十話で、何とか第四章の終わりを迎える事が出来ました。
これまでの話を再確認したい方などのために、
四章のあらすじを大まかにまとめました。
まだ読んでくださった事のない方も、
ぜひ、この機会にご一読下さいませ。
ウィリシス・ウェイカーをその手にかけ、
十年前へと戻ってきたシュバイク。
そこは、兄である他の王子達と剣術訓練をしていた場所であった。
しかし、当の本人は、自分の放った力で、
過去へと舞い戻って来た事が信じられないでいた。
激しい頭痛と嘔吐によって芝生へと倒れこむ。
そこへ駆け寄ってきたのは、
自分が殺したはずの、ウィリシス・ウェイカーの姿だった。
シュバイクの瞳に写った彼は、
十年前の若々しい姿のままだった。確かに生きていたのである。
それを実感した時、自分の身に起こった事全てを、
やっと理解し受け入れ始めたのである。
そして同時に、決意したのだ。
ウィリシスに守って貰ってばかりだった自分が、
今度は、彼を守り通すと。
剣術訓練の一連の流れは、
シュバイクが過去に一度経験したものであった。
昔ならば、総隊長のハギャン・オルガナウスと木剣を交え、
左腕を負傷するのだ。
しかし、シュバイクはハギャンと戦う事はなかった。
嫌味を投げかけてきた長男のレンデスを挑発し、
ハギャンをけしかけた本人と直接対決を望んだのだ。
シュバイクとレンデスは魔鉱剣を手に、真剣勝負をする事となる。
怒りに狂ったレンデスは、生意気な弟を叩きのめすために本気を出した。
しかし、シュバイクもそれに蒼空の力を持って対抗する。
十年前には決して持ち得なかった力を駆使して、
シュバイクはレンデスを打ち破る。
大衆の前で大恥をかかされたレンデスは、
怒りと憎しみを胸に、その場を後にした。
その日の夜。
シュバイクはウィリシスを王宮呼んだ。
母レリアンといつも二人で食事をとっていたのだが、
そこに招いたのである。
シュバイクの些細な心遣いだった。
理由をつけて、先にその部屋を退出する。
実の親子である二人に、あえて時間を作ったのだ。
自室へと戻ったシュバイクは、
テラスから城下町を眺めていた。
十七歳の少年にとって、あまりにも重過ぎる現実だった。
しかし、ウィリシスのために、
シュバイクは悲壮なる決意を胸に刻み込む。
そんな折、自室の扉を叩く音が聞こえた。
扉を開けると、そこに立っていたのは、ガウル・アヴァン・ハルムートだった。
本来なら、左腕を負傷し、その部屋へとやって来るのは、
父である国王アバイトだった。
しかし、レンデスと戦い、相手を打ち負かした結果、
少しづつ未来は変わり始めていたのである。
ハルムートは、全てを見抜いていた。
シュバイクが覚えてもいないはずの魔法を使用し、
兄のレンデスを倒した。それには秘密があるということを。
そしてそれは、未来から舞い戻り、
新たな力を身につけと言う事なのだと。
シュバイクは驚きを隠せずにいた。
ハルムートも、王家の力を持っていたのだと言う。
そして、その力を使い、何度か時代を変えてきたのだと言った。
しかも、自分とウィリシスが家族から引き離される原因となった事も、
全て認めたのである。
その上でハルムートは、シュバイクの抱く殺意に応えようとした。
自らが、死を望んでいるようだった。
抑えきれない激情が、シュバイクの手に持つ魔鉱剣を、
振り下ろさせた。
傷は深いが、死には至らない。
僅かな差で、ハルムートは命を取り留めた。
悲壮なる決意を胸に、新たなる時を生き始めたはずだった。
しかし、シュバイクのそんな決意は、
人の命を奪いとるという現実の前に、いとも簡単に揺らいだのだ。
だが、そんな少年の弱さを、ハルムートは見抜いた。
確実に自分の息の根を止めさせるべく、シュバイクを挑発したのである。
その挑発に乗り、シュバイクは首筋目掛けて、魔鉱剣を振りぬく。
だが、その剣は不意に止まった。
鳴り響く金属音。
そこに姿を現したのは、
姿隠しの魔法で消えていたアーク・ウィード守備隊長だったのである。
この男は、ハルムートに気づかれないように、後を付けてきていたのだ。
ウィードは、ハルムートの命を奪おうとするシュバイクの剣を止めた。
それは、何かしらの狙いによるものだった。
だが、ハルムートはその真意に気づかなかったのである。
しかし、シュバイクは分かっていた。
同盟国であるスウィフランドの手先であるウィードは、
何らかの指令を受けていたのだと。
そして、その行動の全ては、クレムナント王国ではなく、
スウィフランドのためであったのだと。
シュバイクは、ウィリシスの左目を抉り取り、
残酷な現実をつきつけたこの男を憎悪していた。
全てはウィリシスのためだった。
彼を傷つけたこの男を、生かすつもりはなかったのである。
広場で剣を交える二人。
高速で動き回り、斬撃の音だけが響き渡る。
その頃、レリアンとの食事を終えたウィリシスは、
シュバイクの自室へと足を運んでいた。
夕食時に見せた僅かな表情の変化に、何か違和感を感じ取っていたのだ。
そのため、不安になったウィリシスは、シュバイク様子を伺うべく、
部屋へとやってきたのである。
だがそこに居たのは、血を流してテラスの柵に腰を下ろす、
ハルムートの姿だった。
ウィードとシュバイクが、広場で戦っていると聞き、
二人を止めるために、ウィリシスはすぐさま広場へと向かう。
遥かにシュバイクより強いはずのウィードは、
相手を仕留めきれずにいた。
そして、シュバイクの背後をとったウィードが剣を振りぬこうとした時、
一筋の光が体を貫いた。
光と空の属性を組みあせた魔力の刃は、
ウィードの魔鉱剣をすり抜けて、そのまま胴体を突いたのである。
シュバイクはウィードに止めを刺すべく、
相手の背後へと回りこんだ。そして、剣を構えた。
しかしそこへやって来たウィリシスが、シュバイクを止めるべく声を張り上げる。
だが、それは無意味だった。
無残にも空を舞うウィードの首。それが芝生へと落ちる。
シュバイクは迷いを捨て去ったのだった。
駆け寄ってきたウィリシスへと、シュバイクは命令を出した。
それは、配下である騎士達をすぐさま集めろというものであった。
自分の知っている少年ではない。
ウィリシスは、シュバイクに問いかける。
何故、このような事をしたのかと。
しかし、シュバイクから帰ってきた答えは、
ダゼス・エデン・グレフォードの首を、取りに行くという言葉のみだった。
全てが終わってから、説明をする。
その約束を信じて、ウィリシスは部下を集めるべく寄宿舎へと向かっていった。
シュバイクはその間に、まだやる事があったのだ。
自室へと戻ると、クレムナント王国の将軍と再び対面したのである。
ハルムートは、シュバイクから受けた傷を、
魔法で治癒してはいなかった。
流れ出る血は大量で、死はもうすぐそこまで迫っているようだ。
やはり、自ら死を望んでいたのである。
ハルムートは最後に、シュバイクへと伝えた。
過去に戻るという力は、万能ではないということを。
その反動を受けるのは、力を使った本人ではなく、
自分がもっとも大切にする人物である、と言うのだ。
そして、ハルムートの力の反動を受けていたのは、
アバイトだったのである。
彼は、十年以上も前から廃人と化していた。
今は、魔道議会の地下室で、
命だけが延命魔法で生き長らえさせられていたのである。
その事実を隠すために、アバイトの身代わりを、
自分の使い魔にさせていたのだと言う。
それを知ったシュバイクは、勿論、動揺した。
ウィリシスを救うために過去へと戻り、決意を胸にしていたのだ。
しかしその反動を受けるのは、シュバイクではなく、ウィリシス自身であるという事実。
そしてさらに、今まで自分が尊敬の念を抱いていた父が、
ハルムートの使い魔だったという事実。
将軍は、さらに続けて言った。
クレムナント王国には、まだ大きな秘密が隠されていると。
そして、その秘密を知りたくば、死に物狂いで玉座を手に入れろと。
こうして、ハルムートは死んだ。
国を影で支えてきた男の末路は、悲惨な形で幕を閉じたのである。
シュバイクはウィリシスと、三十名の配下の騎士と共に、
グレフォード邸へと押し入った。
そこで激しい戦いの末、シュバイクは、ついにダゼスの姿を捉えた。
迫りくる敵の存在に気づいたザーチェアは、
逃げ切れないと判断すると、周囲に結界をはった。
その中にダゼスもいた。
シュバイクは結界を打ち破るために、蒼空の翼を発動させる。
しかし、強力な結界を打ち消すには、強力な力がいる。
そのために、背中に生えた二本の純白の翼へ魔力を送り続けた。
だが、一日で三度も蒼空の力を使ったシュバイクの魔法は、
ついに解除されてしまった。
魔力の使いすぎるである。
ダゼスは歓喜する。
目の前に迫った死が、回避されたのだ。
そして、シュバイクへと意気揚々と言葉をあびせたの中には、
信じがたい真実が含まれていた。
ガウル・アヴァン・ハルムートは、
その身を犠牲にしてまで、シュバイクを守り通そうとしていたのだと言う。
レリアンとシュバイクを保護した事で、
同盟国であるスウィフランドとの関係は一気に悪化したのだ。
それにより、同盟契約を破棄し、クレムナント王国へと攻め込もうとしたのである。
だが、それを察知したハルムートは、
シュバイクが十八歳の誕生日を迎えた時に、
自分の首を差し出すと裏で密約を交わしていたのだ。
それを知ったシュバイクは、自分の気持ちと折り合いがつけれずにいた。
ただ、苦しかったのだ。
自分が殺した男。自分が憎んだ男が、自分を守っていたという現実。
隠された真実を暴き、それを追い求めるあまり、
知らなくてもよかった事実までもが、浮き彫りになってしまった。
ダゼスは、利己的で、他者を蔑み、痛めつけるのに快感を覚えるような男だった。
そんな男は、ザーチェアを小間使いのように扱い、
暴力までも加えていたのである。
シュバイクを前に、気が高ぶったダゼスは、
ザーチェアにまで酷い言葉を浴びせ続けた。
気に食わない者は、身内だろうと容赦しないのだ。
しかし、ザーチェアはついに切れた。
自分へと振りかざしてきた杖を剣で止めると、
相手の腹部へとそのまま切っ先を突き立てたのである。
血が飛び、臓物をえぐりだす。
数十年もの間、ダゼスの下で酷い仕打ちに耐えてきた男は、
その怒りと憎しみを全て吐き出した。
シュバイクが殺そうとしていた男は、
ザーチェアの手にかかってしまった。
そして、ダゼスの変わりに成り代わろうとしたのである。
シュバイクは当初、ザーチェアを生かして捕らえる事で、
ダゼスの代わりにウレフォード家の当主に据えるつもりだった。
そして、自分の後ろ盾にしようとしたのだ。
しかし、精神を崩壊させたザーチェアは、
シュバイクが扱いきれるような男ではなくなっていた。
そのため、ザーチェアを殺すしかなかったのだ。
新たな争いの火種となる可能性を、潰すために。
その頃、邸内で敵の魔導師と戦っていたウィリシスは、
何とか相手を倒したものの、
受けた幻惑魔法による攻撃で意識を失ってしまった。
シュバイクの下へとたどり着いたのは、
配下の騎士である三人のみであった。
彼らが目にした光景は、凄惨なものだった。
内臓を飛び散らせて、無残な姿で死んでいるダゼスと、
胴体から切り離された首が転がっているザーチェア。
そして、その前で放心状態で立っていたシュバイク。
何が起こったのかを知るよりも先に、
騎士はシュバイクへと問いかける。
何度かの問いかけで、やっと、 その言葉に答えた。
シュバイクは多くを語らなかった。
騎士へ邸内の制圧を指示すると、自分は魔道議会の聖堂へと行くと言い、
姿を消してしまったのである。
城下町で大きな魔力の余波を感じ取っていた魔道議会の五大導師達は、
地下聖堂から続く一室に集まっていた。
何かが起こった。それが何なのかを知るために、
数人の魔導師を城と城下町に派遣して探らせていたのである。
待機していた部屋へとやって来たのは、
報告をするために戻って来た魔導師ではなかった。
それは、ある人物の到来を告げる知らせだったのである。
そして、そのある人物とは他でもない、シュバイクだった。
五人の老師達の目の前に姿を現したシュバイクは、
その全身を紅き血で染めていた。
後ろ盾とするはずだったザーチェアを失い、
シュバイクは魔道議会に助けを求めに来たのだ。
しかし、その願いを、議会の五大導師達は跳ね除けた。
そのため、シュバイクは魔道議会の五大老師を脅すことにしたのである。
アバイト王の身代わりを立てたハルムートに協力していた事を、
公にすると言ったのだ。
その言葉に少なからずの動揺を受けた老師達であったが、
やはり結果は変わることがなかった。
シュバイクの全ての行いが露見すれば、
他の王子達はすぐに行動を起こすだろう。
そのために、どうしても味方を増やす必要があったのだ。
シュバイクが口にした言葉は、さらに驚きのものであった。
山間部に潜む部族を、仲間にするというのだ。
魔道議会と彼らが味方につけば、兄達にも対抗できると思ったのである。
しかし、それは簡単な事ではない。
山間部の部族達は、長年、クレムナント王国と対立関係にあった。
長い時を重ねて、戦いを繰り広げてきたのである。
そのために、埋まることのない深い溝があったのだ。
しかし、それをシュバイクは乗り越えてみせると言い切ったのだ。
その言葉に魔道議会の老師の一人が、口を開いた。
部族達を見事に仲間にする事ができれば、
魔道議会もシュバイクの味方につくというのである。
過酷な条件であったが、シュバイクはそれを了承した。
その頃、ラミナント城では、
死体となって発見された王国守備隊長と将軍の存在が、
他の王子達の耳に入っていた。
彼らは、城に何者かが侵入したと考え、
安全な場所へと避難することにしたのだ。
王であるアバイトの消息もつかめず、
ラミナント城は混乱に包まれていた。
そんな時にシュバイクが城へと戻ると、
出迎えたのは、意識を取り戻していたウィリシスである。
兄である他の王子達が城を脱出したと聞き、
シュバイクは彼らを始末するために、兵を差し向けようとしたのである。
だが、ウィリシスはその命令にすぐには、応えなかった。
何故、突然にハルムートとウィードを殺し、
グレフォード邸へと押し入ったのか。
その理由を聞かない限り、ウィリシスは、
シュバイクの命令を聞かないと言ったのである。
その問いに、シュバイクは悩んだ末、
真実の断片のみを告げて話した。
それは、アーク・ウィードが、
水中都市国家スウィフランドの手先だったと言う事。
そして、ダゼス・エデン・グレフォードはラミナント王家を転覆させ、
政権を奪い取りろうとしていたと言う事。
さらにはガウル・アヴァン・ハルムートは、
病で衰弱し意識を失っている父の身代わりを立てて、
影で政権を操っていたと事である。
本当に伝えなければならなかった真実は、
シュバイクの胸の中にしまいこんであった。
それらの話を聞いたウィリシスは、疑問を抱いた。
何故、そんな事を知ったのか、と言う疑問である。
シュバイクは、王家の力に覚醒し、未来を見て来た事を伝えた。
それを聞いたウィリシスは、全てに納得した。
信じられない事ばかりであったが、
目の前の少年が自分に嘘をつく等、する筈がないと思ったからである。
だが、事実の断片で、真実を覆い隠したシュバイクは、
すでにウィリシスが知っている純真無垢な少年ではなかったのである。
こうして、ウィリシスはシュバイクを信じ、
追撃部隊を四人の王子へと差し向けた。
城を脱出したレンデスとサイリスは、
グレフォード家の遠い親戚に当たるディキッシュ家の領地へと向かい、
歩みを進めていた。
ナセテムとデュオは、
祖父にあたる水中都市国家のスィフランド元首へと、
救援信号を魔法にで飛ばしていた。
それを受けた、ガルバゼン・ハイドラは、
自分のもっとも信頼する部下に、二人の王子の救出命令を下したのである。
その命令を受けたのは、セルシディオン・オーリュターブだった。
彼は数十名の部下を連れて、スウィフランドを立った。
その日、水中都市国家の空では、大きな翼をはためかせる黒き影が、
幾つも目撃されていたのである。
こうして、王子達は、生き残りをかけて、
それぞれの戦いへと身を投じていくのであった。
五章からは、それぞれの王子達の戦いが始まります。
シュバイクに加え、レンデス、サイリス、ナセテム、デュオ、
彼らの取り巻く環境が激変する中、
クレムナント王国はどのような未来へと向かっていくのか。
ぜひ、楽しみにして下さい。
四章で書く予定だったコウマ・レックウの話は、どこかで必ず繋げたいと思います。




