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第七十一話 肉を斬らせて骨を断つ

「知った風な口を聞くな!ぐぅ!あぁぁぁぁぁっ!」


 ウィリシスは大剣の刃を、押し返し始めた。

 腕力だけでは刃を受けきるのが精一杯と判断すると、肩へと食い込む敵の大剣クレイモアへと敢えて力を入れた。そして、自分の握る魔鉱剣と共に、肩と剣の両方で押し込んだのである。


「お、お前正気かっ!?」


 男は戸惑いを隠せずにいた。

 大剣にかける力を分散しようとしたのは、間違ってはいない。しかし、その代償は大きい。肉へとえぐり込むようにして、今まで以上に刃が深く入り込んでいく。それでも、ウィリシスはさらに全身に力を入れると、前へと踏み込んだ。激痛を必死に堪え、僅かな勝機を作るためである。


「ぐうぅぅ...お前の戦う理由は何だ?金か?名誉か?それとも娯楽か?俺は、お前等に殺られる訳にはいかないのだ!俺は、この国の王子である、シュバイク・ハイデン・ラミナントの守護騎士だからだっ!」


 ウィリシスは敵の大剣を一気に押し上げる。そしてその僅かな隙をつき、魔鉱剣の刃を押し当てた。剣の刃は、男の左肩へと食い込む。まさに、二人の立場が逆転した。

 大剣クレイモアは攻撃距離が長い。相手の攻撃範囲外から、一撃を叩き込めるのは大きな利点である。だが、懐へと入り込まれると、それが逆に足を引っ張ってしまうのだ。

 男は剣の柄から両手を離すと、手の平でウィリシスの魔鉱剣の刃を受け止めた。


「お前が俺を殺すには、さっきの一撃で仕留めておくしかなかったんだ!押し当てられた剣で、いくら肉を斬ろうとも、骨までは断てない!魔鉱剣でない限りはなっ!はぁぁぁぁっ!」


「ま、待てぇっ!やめろおぉっ!」


 男は全てを悟った。その顔は恐怖に包まれていた。

 ウィリシスは魔鉱剣へと魔力を込める。すると、その刀身は強い光を発し始めたのだ。そして、次の瞬間であった。刃を受け止めていた男の手は切り裂かれ、そのまま肩から真下へと向かって、鋼の鎧ごと見事に切り裂いた。

 

「ぐああああああっ!あぁ...あっ...俺の...体がぁぁぁぁっ!」


 男はべろんと剥がれた左半身を見ながら、地面へと倒れむ。それと同時に、大量の血が噴出したのである。ウィリシスはその返り血を全身に浴びた。


「うっ...うっっ...あぁぁ...ぁ......」


 男は言葉にならない声を発しながら、そのまま息絶えた。

 ウィリシスは振り下ろした剣を握りながら、そんな男へと言った。


「はぁ....はぁ...自分の魔法の弱点など、お前に言われなくとも分かっている...完璧なものなど、この世には無いのだからな」


 右肩から大量の血を流しているはずのなのだが、その傷は殆ど残ってはいなかった。それは、光の鎧によって、体内の治癒力を高めているからである。それを分かっていたからこそ、あえて、肉を切らせて骨を断ったのだ。

 

黄金の鎧アルキメドッシ・ミィ・ティーアス!輝けぇぇぇぇっ!」


 ウィリシスは休む事無く、呪文を唱えた。すると、淡い光に包まれていた全身は、金のような輝きを放ち始めた。それは強烈な光である。そして、グレフォード家の邸宅へと向かって一気に駆け出したのである。

 まさに、消えた。と言うのが正しい表現である。その場から突如して居なくなった男は、美しい残光だけを闇の中に置いていった。

 グレフォード家の邸宅前では、待ち構えていた私兵達と騎士の激しい戦いが繰り広げられていた。大きな噴水を取り囲むように、多くの者達が剣を振るっている。

 騎士は右手に魔鉱剣を握り、左手には光の盾を装備している。この盾は、魔法によって具現化したものであるのだ。あらゆる物理攻撃を受け止め、魔法攻撃も防ぐ事のできる盾である。クレムナント王国の騎士が戦闘の際に、使う魔法、光の盾エンライト・ミィ・バーガスによって発現するものである。

 光魔法に属するが、魔坊壁などと言った防御魔法に近い効果を持つものである。


 敵は少なくとも、百人はいるであろう。その殆どの者は、魔力に精通している生粋の傭兵と言った所であろう。それに比べて、騎士は二十数人と言った所である。

 互いが互いに、一歩もひかずに剣を振りぬく。傭兵が扱う武器は様々だ。剣と盾を持った者が多いが、ハルバートと言った長い柄の斧を振り回している者もいる。そしてその男は一際巨躯であり、振りぬかれる斧によって何人かの騎士が犠牲になっていた。

 騎士達は一人で、二人、もしくは三人の敵を相手にしている。しかし、その力は騎士の方がやや上回っているようだ。彼らは光の鎧で互いに力を高めあいながら、敵の攻撃を盾で受け止め、そして剣で斬り返していく。

 そこへ、強烈な光が放たれた。それは、傭兵の男を倒したウィリシスであった。目にも留まらぬ速さで、一瞬にして二十人ほどの敵を斬り殺してしまった。


「状況を説明しろ!シュバイク様はどこだっ!?」


 ウィリシスは襲いかかってくる敵の剣を受け流し、そして空いた腹部へと斬り込む。次か次へと襲い来る敵をなぎ倒していく。周りに騎士へと問いかけると、一人がそれに答えた。


「数人の者と共に、邸内へと入りられました!」


 部下の言葉を耳にすると、ウィリシスは消えた。一直線に邸内へと続く扉へと向かって行ったのである。

 中へと入ると、そこは巨大な広間だった。天井には美しいシャンデリアが備え付けられ、煌々と室内を照らしていた。ラミナント城の来賓間にある広間と、同じかそれ以上の広さである。

 あたりを見渡すが、人の気配はない。


「シュバイク様っ!ウィリシスです!聞こえますかっ!?」


 ウィリシスが叫ぶが、返事はない。それを聞いた敵の兵士が、ぞろぞろと広前へ出てきた。どうやら奥へと続く扉の先に、敵が待機しているようだった。兵士達は、黒の鎖帷子を着込んでおり、手には鋼鉄の剣と盾を持っている。

 ウィリシスは黄金の鎧アルキメドッシ・ミィ・ティーアスを解いた。そして、光の鎧まで効力を下げると、その力で迎え撃ったのである。

 斬り込んでくる剣を華麗にいなしながら、相手の鎧の隙間へと魔鉱剣を確実に刺し込んで行く。最小限の動きと最低限の魔力の消費で、見事に敵を倒して行く姿が圧巻であった。


「ハァッ!」


 しかし、十人を倒した所で、さらに十人の兵士が出てきた。


「何人いるんだ...一体...」


 兵士達は顔色一つ変えずに、次から次へとウィリシスへ襲いかかって来た。

 そんな光景を広間の二階から見ている男が居た。黒のローブを羽織っているその者は、どうやら魔導師の類のようである。両手の手首には腕輪がされており、銅で出来たその輪に煌く魔鉱石が光を放っていた。


終わり無き狂気ジェイ・ナガイ・ルドマモ。敵を惑わし、その精神を捕らえよ」


 目深に被るフードのしたから、掠れた声で呪文を唱えた。その男の顔は伺い見る事は出来ないが、今分かるのは一つである。ウィリシスは敵の魔導師の幻惑魔法にかかり、広間で自分の脳が生み出した幻覚と必死に戦っていたのである。

 誰も居ない場所で、剣を振るいながら、シュバイクを呼んで叫んでいた。


「シュバイク様っ!どこですかっ!」


 ウィリシス・ウェイカーが敵の魔法にかかり、広間で戦っている頃。シュバイクは、三人の騎士達と共に邸内の奥へと向かって進んでいた。無駄に部屋数が多く、その敷地の広さも広大である。

 金銀装飾によって彩られ、調度品や高価な家具ばかりが置いてある部屋が殆どである。廊下にでれば赤い絨毯が敷かれており、どこか王宮に似た雰囲気がある。

 ダゼス公爵を探して、一つ一つ部屋を開けては、中を確認して進んで行く。しかし、それはあまりも非効率的で、時間のかかる作業だった。

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