これまでのあらすじ 第三章編
第六十一話で、何とか第三章の終わりを迎える事が出来ました。
これまでの話を再確認したい方などのために、
三章のあらすじを大まかにまとめました。
まだ読んでくださった事のない方も、
ぜひ、この機会にご一読下さいませ。
酒場街ガヴォンルッドに一人の男が姿を現した。
男は黒のローブを羽織っており、
その顔を覗い見ることは出来なかった。
男の首には小さな水晶玉のようなものが取り付けられた、
首飾りが掛かっていた。
そして、その首飾りから光が放たれた時、
中から姿を現したのはシュバイク・ハイデン・ラミナントだったのである。
シュバイクの顔を見た男は、波を流した。
それは、クレムナント王国の騎士、
ウィリシス・ウェイカーだったからである。
王国の城下町で謎の力を放ってから、
十年もの歳月が経っていたのである。
彼はその間に、左目を失い、
顔と体は傷だらけになっていた。
しかし、閣玉へと封印されていたシュバイクは、
十年前から少しも歳をとっていなかったのである。
酒場街を後にした二人は、
雨を凌ぐために森の中の岩場へと身を隠した。
そして焚き火を炊くと、
シュバイクが眠りについていた十年前に、
何があったのかを語りだしたのである。
クレムナント王国の城下町で、
王国守備兵に痛めつけられていた子供を救った後、
二人は近くの店へと入っていった。
その店の室内を借りて、子供の傷を治癒しようとしたのだ。
しかし、傷は深く、いかにそれは治ったとしても、
命の炎はすでに消えかけていた。
そこでシュバイクは、子供を助けるために、
自分の内に眠る謎の力を使ったのである。
その結果、子供は助かったが、
シュバイクは深い眠りについてしまった。
そんな時、店の周りで見物していた人々の中から、
武器を手にもってこちらへと向かってくる者達がいたのだ。
彼らは、オルシアン帝国の放った密偵であり、
シュバイクの命を狙っていたのだ。
何とかその場を脱出し、
ウィリシスと、店屋の主人であるグレッグがシュバイクを担ぎ、
命を助けた少年の四人で魔道議会の地下聖堂へと逃げ込んだ。
そこでグレッグは力尽きた。
シュバイクを守るためにその身を挺して、
体を張った結果であった。
ウィリシスは自分達のせいで、
グレッグを死に追いやってしまった事を深く後悔していた。
そんな中、魔道議会の導師がウィリシスへと声をかけた。
それは、不完全な覚醒によって眠りについたシュバイクを、
閣玉という物の中に封印して、敵から隠すというのだ。
そのために、儀式を行う部屋へいく事になったのである。
しかし、封印の間へと到着した時、
待ち受けていたのは思いもよらない人物であった。
それは王国守備隊長のアーク・ウィードと言う男であった。
彼はその場にいた魔道師六人を惨殺し、
ウィリシスと共に入ってきた三人の魔導師も瞬く間に殺したのである。
そして、シュバイクを守るウィリシスへと狙いを定めた。
アーク・ウィードは、
同盟国である水中都市国家スウィフランドの人間だった。
元首であるガルバゼン・ハイドラに命じられ、
クレムナント王国に二十年以上前から潜入していたのだ。
そして、王子であるシュバイクが不完全な覚醒を遂げたと知って、
その息の根を止めようとしたのだ。
ウィリシスはこの時、魔鉱剣を持っていなかった。
そのため、抗う術はなく、無残にも痛めつけられた。
そして、その時に左目を抉り取られたのである。
死を待つしかないと思われた時、
封印の間の扉が開いた。
そこから入って来たのは、
王国の将軍であるガウル・アヴァン・ハルムートだった。
そしてその後に続くようにして、
魔道議会の最高導師である五人の老人が入ってきたのである。
ハルムートは自分の部下の裏切りに落とし前を付けるべく、
ウィリシスと魔道議会の五人にシュバイクを任せて、
アーク・ウィードと戦ったのである。
火花散る戦いで、ハルムートはウィードを殺した。
そして、シュバイクの封印の儀が行われる間へと、
向かっていったのである。
ウィリシスが封印の間でアーク・ウィードと対面した時、
信じられない言葉を耳にした。
それは、ウィリシスの実の親は、
スウィフランドの十三騎士団を取り纏める、
セルシディオン・オーリュターブと言う男と、
レリアン・ハイデンなのだと言う。
その俄かには信じられない言葉が、
ウィリシスの話に耳を傾けていたシュバイクを動揺させた。
そして、シュバイクにその真実を話し始めたのであった。
昔、まだアバイト王が、
その父ザイザナックから玉座を奪い取ってから数年ほどしか
経っていない頃である。
隣国のオルフェリアン精霊国から、
一人の採掘師の男がやってきた。
その名を、リディオ・ウェイカーと言った。
彼は、採掘道具を仕入れに、クレムナント王国へとやって来ていたのだ。
大通りを歩いていたリディオは、
ある女性とぶつかった。
その人は足を捻ってしまい、かわりに荷物を持つこととなった。
それが当時、酒場を経営していたラザロ・ハイデンの娘、
レリアン・ハイデンだったのである。
ハイデン家の酒場にたどり着くと、
リディオはそのお礼にと、ご飯をご馳走になった。
自分のせいで、足を捻ってしまったのに、
ご飯までご馳走になってしまったリディオは、
そのお返しにと、手荒れに聞く薬を塗ってあげたのだ。
そして、そのあまりをそのままレリアンへと手渡した。
これをきっかけに、二人は恋に落ち、
そしてその数年後には子供が出来た。
しかし、リディオは自分の国に両親と弟妹達がいたため、
一家の大黒柱として働いていたリディオは、
一年の半分以上を故郷で過ごさなければならなかった。
小さい息子と愛する妻を置いて、
リディオはまた旅に出た。
それから数ヵ月後、
ハイデン家の酒場に一人の女性がやってきた。
それは、行方知れずだったレリアンの姉、
ミリアン・ハイデンだったのである。
彼女は城に侍女として奉公に出ており、
国で内乱が起きた際に、行方不明になっていた。
そんなミリアンは実は、
アバイト王の腹違いの兄ギルバートと恋に落ち、
二人で城から逃げ出したのだ。
そして、数年は幸せに過ごしていた。
だが、そんな時も長くは続かなかった。
二人の家へ、グレフォード家の兵士が押し入ってきたからである。
そして、グレフォード家の当主の男は、
ギルバートへある要求を突きつけたのである。
それは、アバイトから玉座を奪うのに協力すれば、
王にしてやると言ったものだった。
そんな申し出を断ったギルバートは、
殺されてしまったのである。
ミリアンは命からがら何とか逃げ出し、
頼れる人間が居なかったため、
家族の元へと帰ってきたのだった。
そして、そのお腹には、
ギルバートとの間に出来た子供を身篭っていたのである。
そしてそれこそが、シュバイク・ハイデンだった。
奇しくもこの年、
故郷へと帰郷していたリディオは、
水中都市国家のスウィフランドがオルフェリアン精霊国へと、
攻め入ってきた事で、レリアン達の元へと戻る事が出来なくなっていた。
そして、そのままスウィフランドの支配国となってしまった精霊国の男達は、
戦力として強制的に兵士にさせられてしまった。
リディオは愛する者の元へと帰るために、
必死に戦っていた。
その時に送った一通の手紙だけが、
レリアンの心の支えだったのである。
さらに数年が経ち、ハイデン家の酒場の二階で、
一人の子供が生まれた。
シュバイク・ハイデンである。
彼が生まれた次の日の朝、ミリアンはその酒場から姿を消した。
自分の子供と書置きを残して。
その家に居るだけで、家族の命に危険が迫ると分かっていたのだ。
シュバイクを父のラザロと妹のレリアンに任せて、
遠くの村に身を隠したのだ。
しかしその数週間後である。
ハイデン家の酒場に兵士を引き連れた、
ガウル・アヴァン・ハルムートがやってきた。
彼は淡々と告げた。
王国内の村で、ミリアンの死体が発見されたと言う事を。
これに涙を堪え切れなかったレリアンは、泣いた。
店内の騒がしさに、厨房から出てきたラザロもその場に崩れ落ちたのだった。
しかし、悪夢は終わってはいなかった。
ハルムートは、ミリアンの子供を捜していたのである。
ラザロの後ろから出てきたウィリシスの父親を確認した時、
二階へとつながる階段から赤ん坊の泣き声が聞こえてきたのだ。
そして、シュバイクが兵士の手によって連れて来られた。
問いただすハルムートは、冷酷な顔つきだった。
レリアンの息子であるウィリシスを人質にとり、
その赤ん坊の親が誰だか聞きだしたのである。
真実を言うしかなかったレリアンは、
父がギルバートで、母がミリアンだと告げた。
それを知ったハルムートは、レリアンへと究極の選択を突きつける。
シュバイクを王宮で自分の子として育てれば、
息子のウィリシスと父ラザロの命を助けると言うのだ。
しかし、それを拒むなら、二人の命の保障はしないと言う。
選択とは名ばかりの、脅迫だった。
レリアンは家族を守るために、
アバイト王の第三妃となってシュバイクを育てる事に同意した。
しかしその代わりに、ウィリシスとラザロの記憶は魔法で消され、
自分とはまったく関係のない人間として生きる事を強制されたのだ。
そして、さらに月日が流れる。
愛する家族が奪われたと言う事を知らないリディオは、
意気揚々とクレムナント王国へ帰ってきたのだ。
五年近く経っていた。
久しぶりに再会する妻と、息子の顔を思い浮かべ、
ハイデン家の酒場に向かった。
しかし、そこに知っている者の顔はなかった。
周囲の店を聞きまわり得た情報は、
リディオにとって残酷な現実だった。
それは、レリアンが王宮へと入り、
王妃になったというものだった。
そして、自分の息子が行方不明になっているという現実。
耐え難いものだったが、何とかレリアンと接触を持つために、
リディオはそれら全ての事を自分が所属する国へと伝えた。
それこそ、水中都市国家のスウィフランドであった。
すでに同盟国となっていたが、
元首のガルバゼン・ハイドラは、
リディオが王宮へと入り込めるように用立てた。
それはハイドラなりの思惑があったからこそだが、
そんな事はリディオにとって、どうでも良かったのである。
そしてついにその日は来た。
リディオは、スウィフランドからの献上品を持ってきた、
採掘師の一団の中の一人として、
ラミナント城の王宮に潜入する事が出来たのだ。
リディオは王宮へと、毒つきのナイフを持ち込んでいた。
そのナイフで何をしようとしていたのかは、
定かではない。
しかし、王との謁見を前に、身体検査を迫られ、
その部屋のテラスから咄嗟にナイフを捨てたのである。
これによって、その場は事なきを得たのだった。
採掘師の一団十人が、王の間へと入る。
すると、そこには数十人の騎士達が、
鋭い目つきで出迎えた。
その中をさらに進むと、ついにアバイト王の座る玉座の前へと、
たどり着いたのであった。
王へと献上した品は、
覇空石と呼ばれる石だった。
それを受け取ったアバイトは、
採掘師達に礼を述べた。
そして、謁見が終わろうとしていた時、
不意に一団の中から一人の男が声を上げた。
それは、リディオだった。
一団の中から立ち上がると、
リディオは王の前へと歩みでた。
その姿に気づいたのは、王の隣の椅子に腰を下ろしていた、
レリアンであった。
もう何年も会っていなかった愛する男が、
突如として姿を現したのだった。
リディオはシュバイクの四歳の誕生日の祝辞を述べるとともに、
レリアンへと言葉を投げかけた。
こうして、その日の謁見は幕を閉じた。
アバイトは採掘師達を、
その日の夜に行われる交流会へと招待した。
リディオ達はこうして一先ず、
城を後にする。
採掘師の一団が居なくなった王宮内で、
巡回中の兵士がとある物を見つけた。
それをこの国の将軍へと報告しにいくと、
その男の顔つきは変わった。
猛毒が刃に仕込まれた、投げナイフだったからである。
そして、それが落ちていた場所へと兵士に案内させたのだ。
そこで分かったのは、採掘師の一団が、
王との謁見の前に待機していた部屋のテラスから、
落ちた物であるという事だった。
これによって、ハルムートは彼らの身辺を密かに洗う事にしたのである。
夜になると、採掘師達が宿とする家へ、
豪華な馬車が遣わされてきた。
それに乗り込むと、
彼らは宮廷で開かれる催しものへと向かったのである。
宮廷の来賓館で開かれている交流会は、
貴族や王家にとって、娯楽の一つだった。
場違いな感が否めない採掘師達は、
何をする訳でもなく只、立っていただけである。
そんな中で、リディオ・ウェイカーだけは違った。
貴族と王族が楽しげに踊る横を抜け、
レリアンへと近づいたのである。
そして、彼女へ踊りの申し出をした。
それに驚いたのは、相手である。
アバイト王の許しを得たリディオは、
レリアンの手を取り、慣れないステップを踏んだ。
そして、そこでやっと話す事が出来たのである。
レリアンから全ての真実を聞き出したリディオは、
最後に問いかけた。
「まだ、俺を愛しているか?」と。
しかし、それにレリアンは頷かなかった所か、
別れを告げて来たのである。
リディオは失意の底に落ちながらも、
必ず愛する者を取り戻すと心に誓い、
クレムナント王国の城下町を後にした。
採掘師の一団が城下町を出てから、
広大な平原を夜の闇のなか進んでいた。
すると、城から猛然と迫ってくる無数の灯りを目にしたのだ。
それは、リディオ・ウェイカーの存在を知ったハルムートだった。
彼は、王国守備隊の騎士を率いて向かってきたのだ。
それに気づいた採掘師達は、
レディオだけを先に逃がした。
自分達が囮と時間稼ぎとなるためだった。
しかし、それをいとも簡単に見破ったハルムートは、
一人で逃げたリディオを追いかけた。
全速力で馬を駆けさせるリディオだったが、
ハルムートの跨る魔獣の速度には適わず、
ぐんぐんと距離を縮められてしまった。
馬を殺され、落馬したリディオは、走って森の中へと逃げ込む。
それを追いかけるハルムートは、
魔法の一撃で一瞬にして森を焼いた。
そして、リディオの体も炎に包まれたのである。
全身に重度の火傷を負いながらも、
リディオは地面を這って必死に前へと進む。
しかし、ハルムートに最後は追いつかれてしまった。
ハルムートがリディオの息の根を止めるべく、
剣を振り下ろそうとした時である。
地面から魔方陣が浮かび上がり、
放たれた光が二人を包み込んだのだ。
ハルムートが気がついたとき、
そこはすでに森の中ではなかった。
転送陣によって、二人はスウィフランドの水中都市へと、
飛ばされたのだ。
そして、その目の前に現れたのは元首であるガルバゼン・ハイドラだった。
ハイドラを前に、身構えるハルムート。
互いの間に重苦しい空気が流れた後、
王国の秘密を握るリディオを殺すべく、
ハルムートは剣を振り下ろした。
だが、そんな剣を素手でハイドラは止めたのだ。
顔には人間のものとは思えない、
黒い鱗が覆っていた。
そして、ハイドラが合図を出すと、
扉から入ってきた魔導師によって、
ハルムートは再び、元いた場所へと飛ばされたのだった。
全身に火傷を負い、すでに虫の息のリディオを助けるべく、
ハイドラは魔導師の一人を犠牲にした。
魂の交換とも言える魔法を使い、
魔道師の男の肉体を、新たにリディオの魂の器としたのだ。
これによって、リディオは、
その魔道師の男の名前だった、
セルシディオン・オーリュターブと名乗る事となる。
その心には、クレムナント王国への復讐と、
愛する者を取り戻すという強い決意が満ちていた。
そして、時は現在へと戻る。
ウィリシスの口から、それらの話を聞いたシュバイクは、
荒れた。
自分の親が殺されていたという真実は、
あまりにも十七歳の少年には衝撃が大きすぎたのだ。
拳がちだらけになるまで、木を殴りつけ、
そして、それを止めようとしたウィリシスに牙を向く。
だが、そんなシュバイクへ、
ウィリシスは夢のような言葉を投げかけた。
「お前なら、全てをやり直せる」と。
その言葉の意味を聞く前に、
ウィリシスはシュバイクへと剣を向けた。
自分を倒して、お前の覚悟を証明してみせろ、と言うのだ。
襲いかかってくる相手に対応せざる負えなかったシュバイクは、
剣を抜き、ウィリシスと戦った。
そして、二人の戦いは、
舞い上がった空で決着した。
シュバイクの一撃が、見事にウィリシスの胸を切裂いたのだ。
地面へと倒れる男は、どこから清々しい顔つきだった。
そして、シュバイクへ言ったのだ。
これから真の力に目覚めるシュバイクは、
自分の物語が始まった出発点に戻るのだと。
そして、そこから全てをやり直すのだと。
訳もわからずに聞いていたシュバイクは、
最後にウィリシスにある事を頼まれた。
それは、自分が手にかけてしまった両親を悔やむ言葉だった。
同じ過ちを犯さないよう、繰り返さないよう、
自分を止めてくれと、頼んだのだ。
それを言うと、ウィリシスは息を引き取った。
シュバイクは愛する者の亡骸を抱えたまま泣き叫んだ。
その時、背中から純白の翼が生えると、
巨大な光の柱を身体から放ったのである。
そして、世界を光が覆いつくすと、
シュバイクとウィリシスは消えていたのだった。
第四章では、シュバイクの真の戦いが始まります。
そして、第二章で出てきたコウマ・レックウ達が、
その後どうなったのかも、書ければいいなぁと思っています。
※四章は残虐な描写と、残酷な表現が多くなります。




