加筆 2 夢の続き
シュバイクから四人の王子へ視線を移すと、子をなだめる親の如き表情で口を開いた。
「レンデス、ナセテム、サイリス、デュオ。お前達より交流会への参加が遅れている分、シュバイクは苦労するだろう。兄として色々教えてやりなさい」
「勿論で御座います。父上」
第一王妃の長男であるレンデスが、兄弟を代表するように答えた。満足した表情を浮かべアバイトは、軽く頷いた。しかしこの時、シュバイクは喜びの感情の反面、ある種の一抹の不安を抱えずにはいられなかった。それは自分を疎み、嫌っている兄の本心の言葉とは思えなかったからである。
レンデスは母であるペアネクンと同様のダークグリーンの髪色をしている。そして首元あたりまである髪を後方へ流しており、やや長い前髪は前面で分けていた。瞳はパープルで特長的な鋭さを持っている。顎が長細く、やや顔の細部の部品が中心地点によっているようであった。
父であるアバイトと比べるとまともな顔つきではあるが、シュバイクなどが持つ端整さとは違った凡庸なものである。本人ももちろん気にしており、兄弟で一際見栄えの良いシュバイクと容姿を比較される事を一番に嫌っていた。
まだシュバイクが生まれる前である。アバイト国王の第一子であり長兄であるレンデスは、周囲からの期待と愛情を一身に注がれて育ってきたのである。しかし弟達の誕生後は、その立場を奪われてしまったのだ。
今まで自分の周りにいた大人達は、掌を返した様にシュバイクに近づき、それまで自分の側に居た者はどんどんと遠ざかっていった。それを成長期に体験したレンデスは、人を憎悪する卑屈な人格へと変わっていってしまったのである。
「では昼食にしよう。お前達もお腹が空いただろう。今日の料理はどれも私が直々に料理したものだから、ぜひ味わって食べてくれ」
アバイトが軽く手を叩く。すると、数人の従者が室内へ入って来た。そしてテーブル上にある料理を、各人の銀食器に取り分けていく。それはどれも超高級食材が使用されている、手間隙かけた一品である。
テーブルの中央に位置取っているのが、極彩鳥ペペルンディールの丸焼き。同じ色の羽を持つ事がないと言われているペペルンディールは、体中の羽毛が全て違う色をしており、その鳥が羽ばたく時の美しさは周囲の生物を魅了すると言われている。
肉はとても柔らかく、大半を山頂の頂で過ごすと言われているため、丸焼きにした時の引き締まった肉質から出る汁は、口の中でとろける。その肉を食べた者は、一生忘れないその味を舌に刻み込むとさえ言われているほどである。
さらに北の大河で取れるマバライ魚のカルパッチョに、覇岳山で採れる高級茸のノコノコタケノコの炭火焼が入ったスープ。草食竜フィラエウディランが食べる事で知られる、白鴎山の白野菜のサラダ海牛ミルクのソースかけ等。贅の限りを尽された料理はどれも、独特の食欲そそる香ばしい匂いを放っている。
クレムナント王国の歴史の中でも珍しく、アバイト国王は料理家としても有名であり、どの食材も直々に部下に命令し厳選されたものを地域から調達させ、本人が調理をしているのだ。それは普段、息子や妻と家族としての時間や繋がりを設ける事の出来ない、アバイトなりの埋め合わせであったのだ。
王子や王妃が手かかった料理を、口へと運んでいく。そのどれもが食材の長所を存分に引き出した味であり、この時ばかりは、王子も王妃もその極上の料理に舌鼓をうった。シュバイクは、こういった時にいつも思うのである。
(こういった家族の集まる場は好きじゃないけど、やっぱり父上の手料理は美味しい...同じものを一緒に楽しみ、味わい、感覚を共有し合う事。それが家族なのか...)と。
アバイトは、決して恵まれた王子ではなかった。容姿も生まれた順番も、育った環境も、知性や周囲の目さえも。国王アバイトは第五妃の三番目の末っ子として生まれた。妃は六人もおり、子供は女児男児全て含めると、両手の指と足の両の指ではたりないほどであった。
クレムナント王国の第十二代国王であるザイザナックは、長い歴史の中でも暴君として知られている。階級支配尾制度を強固なものにし、その統治は力での抑圧そのものであった。
現在では、アバイト法の施行で採掘師の原価取得が十パーセントまで認められている。しかし、ザイザナックは、国民を鉱石資源の採掘の道具として扱い、その個人の権利取得を認めてはいなかったのだ。
城下町に住む男は強制労働を強いられ、危険な採掘現場での仕事を余儀なくされていた。今でさ
え、賑わいを見せている自由路上市場のヘブラースカ(大通り)も、前政権下では特権階級以外での物資の個人売買は硬く禁じられていたのだ。そのため人通りも疎らで寂しいものであった。
国内での鉱石資源も、王族や貴族が独占していた。その恩恵を一般民が受ける事はまず許されていなかったのである。
そんな時代にアバイトは生まれた。だが、兄や弟も多く、その中で鈍感な上に愚鈍なアバイトをザイザナックは酷く嫌っていた。
それは外見の醜さも相まって、つねに王族内でも浮いた存在であったのである。その当時を知る者に聞いたのならば、そのアバイト王の外見は、兄弟内で一番と言っていいほどに父であるザイザナックに似ていた。まるで写し鏡のようである。と言った言葉があるほどで、そんな自分の醜さを嫌うが故に、アバイトがめのかたきにされたという見解もあるほどだ。
ちなみに、アバイトとザイザナックを映し鏡と表現した詩人のエルゲン・デルドゥーは次の日、処刑された。
国の一番の権力者である国王に疎まれていたアバイトに、当時近づく者は居なかった。常に孤独な人生の大半を自分に与えられえた室内で過ごしていたのである。
アバイトは家族の温もりや暖かさなどに人一倍飢えていたのだ。この昼食会は、そんな男の拙い家族への愛情表現だったのである。