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第三十七話 新たなる火種

※今回の話の中には、残虐な表現と描写があります。

 こうして、ラウラファの町は帝国軍によって陥落した。

 

 しかし、バゥレンシア側の策によって水没した町は、戦闘による爪跡と相まって、帝国軍が拠点に出来る場所では無くなっていた。

 さらに負傷者と死傷者の数々は優に二千人近くへと上っており、この地で暫くの足止めを余儀なくされたのである。

 

 これは一拠点を落とすのに対して、到底納得できるような損害では無かったのは当然である。


 帝国軍のロックガード将軍は激怒し、第一部隊として街に投入した際の指揮官を呼びつけた。そしてそれはメアーズであったのだ。

 

 数々の艦が水上で停泊する中で、その中央に一際巨大な黒塗りの軍艦が鎮座していた。


 甲板には五百名の兵士が規則正しく整列しており、全てが上級士官の優秀な帝国兵士である。誰もがメアーズと同じか、それ以上の階級であり、数十人から数百人を超える部隊の隊長であった。


 彼らの前へと引きずられるように連れてこられたメアーズは、後ろでに手を縛られており、その顔は青アザだらけであったのである。これは明らかに戦いで負った傷では無いことが明白であった。


 ケイオスの矢で貫かれた肩からは血が滴り落ちていた。


「聞けぇい!帝国の優秀なる兵士達よ!お前達の前に引きずり出されてきたのは、先ほどの戦いで部隊を率いたメアーズ・ヴァン・ロックガード中隊長だ!いいか、この男は、我等のバゥレンシア侵攻作戦を大きく遅延させる原因となった!数も少ない弱小兵の集まりに、旋風隊まで投入しておきながら、酷い有様であったのだ!」


 兵士達へと向かって怒声を発しているロックガードは、数段高い位置にある上甲板の台座へと立っていた。その額には血管が浮き出ており、今にも破裂しそうである。。


「我等オルシアン帝国の帝王リゼリアン・ローゼス様は、このような失態を決してお許しにはならないだろう!そしてそれは私も同じである!よってこの男は今!この場で!処刑する!お前達もよく見ておけっ!これからの戦いで、己に与えられた職務を全うできなければ、どうなるのかということをっ!」


 ロックガードは、まさに鬼の形相そのものである。怒りに震えながらも、その感情を隠すことなく兵士達へとぶちまけた。


「おっ、お許しをっ!わ、私には国にっ、まだ幼き子供と身重みおもの妻がっ!」


 メアーズは潰れたまぶたの奥から、血が混じったかのような涙を零した。そして命乞いをしたのである。

 だがそんな取り乱す男を、二人の兵士が押さえつけた。そして、前のめりになるような体勢で固定したのである。

 その傍らに佇む三人目の兵士は、腰に掛かる剣を鞘から抜き去った。


「黙れぇ!このよう場に出ても尚、まだ生き恥を晒すかっ!殺れぇぇぇぇっ!」


 ロックガードが兵士へと最後の言葉をかけると、メアーズの突き出された首の根元へと向けて剣が振り抜けれた。胴体から切り離された頭は、前で整列していた兵士の方へと転がっていった。

 そしてその内の一人の足に当たって、止まったのである。


「よく覚えておけっ!敵地深くまで侵攻する我等に後はない!これ以上の失敗は、絶対に許されないのだ!今の光景を脳裏に刻み込んでおけ!いいか!?」


 ハッ…!


 五百名の兵が、一斉に返事を返した。ロックガードはそれを確認すると、側近の兵士数人共に船内にある作戦室へと戻っていった。 


 将軍の演説が終わると、上甲板の隅に控えていた男がその場を引き継いだ。


「では、次の指示があるまで各隊の隊長は持ち場へと戻れ!解散!」


 こうして五百人の兵士達は、各自が己の役割を全うするために持ち場へと戻っていった。


 艦内にある作戦室は、将軍であるロックガードの寝室も兼ねた場所である。


 そこは船の中とは思えないほどの、豪華な内装が施されていた。床にはシルクを材料として作られた最高級品の手織りの絨毯が敷いてあり、調度品の数々が棚や机の上に飾られている。

 

 部屋の中央には机が置いてあり、その上にはサラナイファ連合とオルシアン帝国領が中心となった近辺の地図が広がっていた。

 幾つもの箇所に赤いピンが止めてあり、それは恐らく帝国の軍が現在位置とするであろう場所を刺しているのだ。


 そして机を囲むようにロックガード将軍と、その側近である三名の男が立っていた。


「将軍。娘婿むすめむこであるメアーズ中隊長に、あのような厳しい処罰を加えて宜しかったのですか?御令嬢であるオーフィリア様も、お悲しみなるのでは……」


 立派な口ひげを蓄える男が、ロックガードへと問いかけた。その顔はどこか相手の顔色を覗うようなものであった。


「仕方あるまい。いくらロックガード家の人間とは言え、あの様な失態を犯して甘い処罰で済ませていたら軍の規律が乱れる。それに、娘は軍人の妻だ。如何なる事が起ころうとも、覚悟の上であろう。それよりも問題なのは、当初の予定の半分ほどしか我が軍が進んでいない事だ」


 ロックガードはそう言いながら、メアーズの話を早々に切り上げた。そして侵攻作戦の内容へと、話題を変えてしまったのである。


 当初、ロックガード将軍は自分の娘の旦那であるメアーズに勲功くんこうをたてさせるため、第一部隊の指揮官として任命したのだ。

 それは他の士官を差し置いての、異例の抜擢であった。しかしそんな思惑が、最終的には裏目に出てしまったのである。


 最低限の成果を出せていれば、全ては丸く収まっていたはずである。しかし旋風隊の隊長と言う大きな戦力を失い、二千人にも及ぶ死者と負傷者を出し、挙句の果てには指揮官が傷を負って帰ってきたのだ。


 これ以上ない失敗をしたメアーズは、ロックガード将軍の面子を潰してしまった。事実上は、その顔を立てるためだけに処刑までされたと言っても過言ではない。

 

 そして後にこの一件が大きな波乱を呼び、帝国全土を揺るがす大事件へと発展するとは誰も思わなかっただろう。

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