表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
23/194

第十五話 水中都市国家スウィフランド

 グレフォード家の邸宅で、三人が昼食をとっていた頃。

 クレムナント王国の同盟大国では、とある報告がもたらされ様としていた。



 水中都市国家スウィフランド。

 その城は、世界でも有数の大きさを誇る湖《アルテセグオン》に建設されている。

 緑豊かな山々に囲まれた湖の直径は百キロを越え、その面積は小国がすっぽりと収まってしまうほどだ。

 エメラルトグリーンの透き通る水面からは建造物の一部が顔を出し、その数十倍にも及ぶ本体は美しい水の中へと姿を隠している。

 

 水深数百メートルへと続く要塞化された巨大な建造物は、古代人が世界へ残した遺産の一つであると言われているが真相は明らかになってはいない。


 水中都市国家と言われるスウィフランドの城は、ほんの数百年前まではただの湖に沈む廃墟だった。そこに、各地で巻き起こる戦いによって行き場を無くした人々が集まり、建物を修復し、人間が生存可能な領域へと造り変えたのである。

 どのような技術や魔法を用いたのかは定かではないが、突如として歴史上にその名を表したスウィフランドは、圧倒的な軍事力で混乱の時代を生き残り、都市国家としての存続を果たした。

 

 そして今やスウィフランドの影響力は、クレムナント王国や、サラナイファ連合公国、オルシアン帝国、ガイルロッド共和国などの大国に匹敵するほどまでに成長を遂げたのである。

 

 都市国家という総称は、支配する地域の広大さにそぐわない。

 しかし、彼らスウィフランドの民は、『真のスウィフランド人は水中都市に生きる我らのみであり、それ以外はただの属国に過ぎない』のだと言う。

 その強い誇りが、都市国家という総称を今でも使い続けている唯一の理由なのである。


 水中に潜む建物は、一階層から八階層にまで階層分けをされている。

 一層から四層までが、一般民の住居区及び商業区画とされ、五層が農業階層、六層が工業階層である。

 そして七層と八層が、国家運営に携わる者だけが入れる特別区画であった。


 水中都市国家の元首ガルバゼン・ハイドラの執務室は、その第八層の一室にある。

 国家元首の執務室と言っても、贅の限りを尽された部屋ではない。

 室内はそれほど広くなく、ハイドラが座る椅子に、黒の机、左右の壁には本が並べられた棚があるだけである。

 一際目を引くと言ったほどでもないが、ハイドラの座る椅子の奥には大きなガラス窓があり、青く深い湖の深淵が広がっていた。


 その部屋に、一人の男がやって来た。

 左手には銀の指輪リングめられており、その手で数百枚にも及ぶ分厚い報告書の束を持っていた。


「失礼致します」 


 男は軽く頭を下げながら、国家元首の執務室へと入室した。

 ハイドラの机の前で歩を止めると、淡々とした口調で報告書の一文を読み始めたのである。


「クレムナント王国へと潜入させている兵から、報告がありましたので申し上げます。『予定通り、アウルス・ベクトゥムはガウル・アヴァン・ハルムートとの面会を取り付けた模様。その際、来賓館に居たザーチェア・エデン・グレフォードと接触。アウルスはハルムートとの面会を前に、グレフォード家の邸宅へと向かった事を確認した』と。計画は全て順調に運んでいるようです」


 男は報告書を読み終えると、鋭くつり上がった細い目を書類の束から外した。

 そして、黒い机を一個挟んだ先にいる、ハイドラの反応を待った。

 背もたれをこちらへ向けているため、その表情は伺い知る事が出来ない。

 も言えぬ無言の沈黙が続く。普通の者ならば、その静けさの中に身を置くのは苦痛でしかないだろう。


「アウルス・ベクトゥム、奴に目を付けたのは流石と言った所だな。オーリュターブよ」


 椅子に座る男はガラス窓を眺めながら、その奥に続く深淵に語りかける様に言った。


「欲に目が眩んだ者ほど、その行動を操るのは簡単で御座います。餌を撒き、その意識を自分の欲望へと向けさせれば良いだけですので。後は、我々の流した情報にダゼスとハルムートが、何処まで食いついてくるのかが問題となる所です」


 男の名は、セルシディオン・オーリュターブ。

 水中都市国家スウィフランドの十三騎士団を纏める、騎士団長である。

 彼の腰元には細身の刀剣が一本下がっており、鞘には昇竜を思わせる銀の装飾が施されていた。


「それは心配すらしておらん。奴ら二人は必ず動く。動かねば、己の罪を白日の下に晒す事になるのだからな。ダゼスは己の保身のため、そしてハルムートは国のため、どんな犠牲を払おうとも必ずやシュバイク・ハイデンを......」


 ハイドラの最後の一言は、セルシディオン・オーリュターブの灰黒色ダークグレーの瞳に鈍い光を宿らせた。

 二人の会話が終わりを迎えると、オーリュターブは静かにその場を去っていった。


 等間隔に天井へ配置されている鉱石灯が、そこを歩く男の姿を照らし出している。

 灰色グレーの軍服に納まる肉体は引き締っているが、顔の血色が悪い。目は細く鋭くつり上がり、動物に例えると狐のような顔つきである。

 髪は全体的に短めで、前髪を中央で半分に分けているのだが、四十代後半であろう年齢にはそぐわない白髪が不気味な雰囲気をかもし出していた。


 長い廊下を歩いていると、オーリュターブは一人の女に呼び止められた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ