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第十四話 契約の誓い

 ギルバート...その名を聞いた時、ダゼスの顔からは血の気が引いていった。


「嘘だ…ありえん…ギルバートとミリアンの子だと…絶対にそれだけは…」


 自問自答。ダゼスは、ひたすら呟き続けていた。 


「奴は…あの時…」


「義父上、大丈夫ですか?義父上っ!」


「まさか、そんなはずはない...絶対に.....絶対にだっ!貴様っ!多額の報酬を目当てに、このダゼス・エデン・グレフォードに嘘をつくかっ!」


 ダゼスは怒りに任せて拳を振り上げた。

 その視線の先にいるのは、戸惑を見せるアウルスである。


「そ、そんなっ。ダゼス公爵様に嘘をつく事など致しませんっ!こ、これは確かな情報なのですっ!どうか信じてくださいっ」


 ダゼスの鬼のような形相を前に、その肥満体をこれでもかと縮めたアウルスは小さく固まっている。


「御止め下さい、義父上っ!ア、アウルス殿、その話、一体何処の誰から聞いてきたのですか?証拠となるものは何かあるので?」


 ダゼスとアウルスの間に割って入ったザーチェアは、怒り狂う義父を静めようと必死だった。


 ダゼスが癇癪かんしゃくを起こすのは、珍しい事ではない。


 何時も気に食わない事があると、使用人や召使の者を殴りつけては、怪我を負わせていたからである。


 しかし、今日の怒り方は、ザーチェアの目から見ても異常で、本気でアウルスを殺しかねないと思ったのだ。


「しょ、証拠はありませんが、この話が真実かどうかは確かめる事が出来るかもしれませぬ!レリアン様が若かりし頃に病気にかかり、その治療を行ったという医者の息子から聞いた話によれば...病を治すために手術をしたレリアン様は、子供を生めない身体になっていたと言うのですっ」


 アウルスが何とか事の次第を説明し終えると、ダゼスも僅かだが、冷静さを取り戻し始めていた。


「ち、義父上、聞きましたか。事の真相はどうあれ、この件は確かな証拠を集めてから判断しても遅くはありません。だから、どうか気をお静めくださいっ」

 

「はぁ...はぁ...アウルスとやらよ...。この話、今日の夜、ハルムートにもするのだな...?」


「は、はい。そ、そのつもりで御座いましたが......ダゼス公爵様が止めろと仰るのなら、そのように致します......」


 アウルスは身の危険を感じていた。ここから生きて帰るために、どんな事があってもこれ以上ダゼスの機嫌を損なうことが出来ないと思ったからである。


「いや、話せ。その話をした時、奴がどのような態度で、どのような反応を示し、どのような言葉を発するのか...一言一句漏らさずに、嘘偽りなく私に話すのだ...。それをこの場で誓えるなら、契約の証として、その虹石全てを持ってゆくがよい。さぁ、どうする...?」


 グレフォードに付くか、ハルムートに付くか、今この場で選べと言っているのだろう。そう解釈せざる負えないダゼスの言葉は、気迫のこもったものがある。


 この時、アウルスは凄まじい速度で情報を処理していた。生まれてからこれまでの人生の中で、一番と言っていいほどである。

 それは決して間違える事のできない、唯一の答えを導き出すためであった。


 ガウル・アヴァン・ハルムートは、言わずと知れたクレムナント王国の将軍である。王国騎士団の頂点に君臨するこの男は、国王アバイトの次に強い権力を誇る。

 人々が影の王と呼ぶのはそのだめだ。


 国のため、王のためならばどんな手段も選ばずに実行し、兼ね備えた能力は一国の王と同等かそれ以上のものであろう。


 この男がいたからこそ、アバイトは王になれたと言っても過言ではないのだ。


 それに対し、ダゼス・エデン・グレフォードは、クレムナント王国一の大貴族である。前政権下から、巨大な権力を誇示し続けてきたこの男は、誰よりも先見の明があった。


 アバイトとその父ザイザックが敵対した時、他の貴族がどちらに付くか迷っている中で、逸早くアバイトへと味方をする事で、今の地位を磐石なものにしたのだ。


 王国とは元々、貴族の納める土地の集合体であり、グレフォード家の支配地域は王国全体の三割にも及ぶのである。


 長女のペアネクンはアバイトの第一妃であり、第一王子のレンデスと、第三王子のサイリスは、ダゼスの孫にあたるのだ。


 それら全てを考慮し、熟考した上で出したアウルス・ベクトゥムの答えは、正しい判断だったかは定かではない。


 目の前に置かれたおびただしい数の虹石の存在が、その答えを導き出すときに影響していなかったとは言い切れないからである。


 そして、アウルスは言った。


「ダゼス・エデン・グレフォード公爵様に忠誠を誓わせて頂きます」


 その答えを確認すると、ダゼスはお抱えの魔道師をすぐさま呼びつけた。

 魔道師は契約に当る条項を羊皮紙ようひしに書き連ねると、二人の手の平を刃物で十字に切り裂いたのである。

 ダゼスとアウルスはその傷を契約書へと重ねるようにして、押さえ付けた。


 そして二人は最後の言葉を唱えたのである。


「我、汝との契約に従い、ここに保護を誓わん」


「我、汝との契約に従い、ここに忠誠を誓わん」


 これによって、アウルスは正式にダゼスと主従関係を結んだ事になる。

 しかし、内容的にはほぼ対等な立場の条件であり、アウルスの流す情報によって得た対価を、ダゼスは金銭にて支払うということ。


 そして万が一、アウルスの身に危険がせまった場合、契約の誓いに従い、その身を保護するというものであった。


 もし、この契約をどちらかが一方的に破棄、又は放棄に当る行為をした場合、その者には死が訪れるのである。


 契約が終わると、三人は運ばれてきた食事を口へと運んだ。

 そのどれもが最高級の食材を使用した料理ばかりで、アウルスは満面の笑みでそれらに舌鼓を打った。


 この数時間後には、ハルムートとの面会が控えているのだ。


 それでも尚、料理を全て完食した肝の大きさに、アウルス自身が一番驚いていたのである。

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