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第七話 将軍

 赤く染められた綿の絨毯が、一本の長い道となって続く廊下。

 金銀細工の装飾が施され、壁には歴代の国王達の肖像画が並んでいる。

 天井にはかつて繰り広げられた戦いを物語るような、歴史的戦いが描かれていた。どれも数万の兵を先頭で率いる国王アバイトが、この国の英雄たる所以を示しているのだ。

 

 その廊下を歩く者が二人いた。


 一人は、高級素材である覇獣はじゅうガウディスの皮を絹で縫いこんだ黒い胴衣ダブレットを着ている。

 そしてもう一方は、その男の半歩ほど後ろに位置どり、鎧の上から真紅の上着サーコートを羽織っている。それは見た目から察するに、王国騎士である。

 

 先に歩く者は、老齢の男だ。顔つきは、歴戦の猛者そのものであり、一切の隙を感じさせない井出達である。髪色はダークブランの中に白髪が混ざり合い、後ろに流していた。


 年齢を感じさせない若々しさに満ち溢れ、肌は健康的な日に焼けた色をしており、歳を重ねた渋みが他への威圧感となっている。


 上着ダブレットを着ていながらも、その筋肉質な身体付きは覆い隠すことができないようだ。日々、肉体の鍛錬を怠ってはいないのは明白であった。厳酷な人間で、他人に対しても己に対しても、一切の妥協や甘えを許さない人間なのである。


 そして印象的なのは、黄土色の暗い瞳と、左頬にある大きな斬り傷である。この二つが相まって、異様なまでの気迫と迫力を感じさせていた。


「まったくハギャンの奴め。面倒な事をしてくれおって...」


その男が後ろで腕を組みながら、時折、顎に蓄えられた白髪まじりの鬚を、右手でもてあそびながら言った。それは独り言のようにも聞こえる。

 付き従う騎士が問いかけた。


「ハルムート将軍、ハギャン殿の処罰いかがなさいますか?」


 前を歩く者よりも遥かに若いであろうその男からは、歩くたびに貴金属の擦れ合う音が聞えて来る。

 左手の中指には魔力指輪ハールリングが填められており、腰に巻かれるベルトには魔鉱剣が下がっている。

 細長の顔をしており、馬によく似ている。しかし、よくよく見れば整った顔立ちではあるのだ。だが、騎士と言うよりは学者や医者と言ったほうが似合う様な雰囲気なのである。


ライトグリーンの長髪を紐で縛り、額を出している。そのため後方から見ると、長い髪のせいで女性かと思ってしまう。だがそんな外見とは裏腹に、戦場で立てた武勲の多さから、“死の妖精”と畏怖されている男である

 

「ふぅむ...どうしたものかの。ハギャンの件はアバイト国王から直々に、穏便にすませろと言われているのだが...。ウィード守備隊長、お主はどう思う?」


「訓練中の事故とは言え、王のご子息に大怪我を負わせたとなれば、穏便にと言うのはいささか無理がありましょう」


「だろうな。まったく困ったものだ」


「ただ...ハギャン殿の件よりも、どうも気になることが御座います」


「ん。何だ?」


「今、城下町ではハギャン殿とシュバイク様の一件以降、おかしな噂が流れております。それは、シュバイク様は本当はアバイト国王のご子息ではないのだと言うようなものです」


「ふん、何だ。そんな噂話など、どこぞの暇な吟遊詩人どもが作り上げたでっちあげじゃろう。よからぬ話ほど、民は面白がるものだからな」


「はい。私もそう思いました。しかし、気になるのはその噂話の出所なのです。部下に調べさせたところ、どうも怪しい連中が関わっているようでした。それをハルムート様には、お伝えしておこうかと」


「怪しい連中だと?どのような者達だ。」


「まだ詳しくは分かりませんが、恐らく、魔法、または魔術に精通している何者かです。それだけは間違いありません」


 ハルムートの足が急に止まった。

 そしてウィードの方へと向と、その顔には眉間にしわが寄り、鋭い目つきであった。


「なぜ、それが分かった」


「昨夜、とある酒場でその噂話をした男を、部下の一人が尾行しました所、城下町を出てから平原を抜け、西の森へと入っていったそうです。そこで呪文を唱え、使い魔を召喚し、何かを吹き込むと、鳩となってそれは飛んでいったそうです」


「何だと...なぜ、それを早く言わなかった」


 殺意のこもった目で、ハルムートはウィードの顔を見た。


「噂話程度の類で、ハルムート将軍のお手を煩わせるのもいかがなものかと思いまして。それにこちらの方でしっかりと対処はしております」


「その者を捕らえたと言うことか」


「はい。地下牢にて昨日から拷問を加え、隠していることを吐かせようとしています。あらゆる自白魔法かけ、口を割らせようとしていますが、なかなか手強い奴でして」


 その顔には一切の感情の変化も見せることなく、ウィードは淡々と答えた。


「そうか、ならば良い。私がそいつに直接会い、情報を引き出すまでだ」


 そう言うと、ハルムートはきびすを返して歩き始めた。


「ハルムート将軍が何もそこまでなさらなくても。魔道議会へ協力を要請し、自白魔法に長けた導師を派遣して貰うことも可能ですが」


 ハルムートは立ち止まった。

 黄土色をした瞳が鈍く光を放ち、エウィードを突き刺したのである。


「わしの事はよく知っておろう、ウィードよ。この国の安寧あんねいはわし等に懸かっているのだ。魔道議会の導師達など、決して信用するな」


 その言葉にウィードは深く頭を下げた。

 相手の反応を確かめると、ハルムートは地下牢獄へと向かって歩いていった。

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