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第六話 暗殺疑惑

 この日、城内では、昨日のシュバイクとハギャンの一件が話題となっていた。

 日々の生活の中で娯楽を貪り、暇を持て余すだけの者達はよからぬ憶測をしては楽しんでいたのだ。


 こうした話は貴族から従者へ、、そして従者から一般大衆へと流れ、肥大化する情報の渦は瞬く間にクレムナント王国を飲みこんでいった。

 

 城下町では、美しい王子シュバイクの身を案じる声と、獣の様に獰猛でいて飼い主にも噛み付く恐れのある男だと言うハギャンへの非難が、比例するように広まっていった。

 

 クレムナント王国の城は、険しい山々に囲まれた平原にある。

 遥か昔、そこには水がたまり、大きな湖だったともされる。その湖に溜まる水が、なんらかの気候変化により枯渇し、平地となった場所に小さな村が出来たのが始まりだとされていた。


 周囲の山から取れる豊富な鉱石資源を元に村は発展し、それはいつしか強大な一つの国へとなっていったのである。

 

 城下町の中心地にそびえる城。それは人為的に盛り上げられた小山に建っている。そして大小様々な建築物が立ち並び、その全体を囲むように高さ十数メートルの城壁が、周囲を威圧するかのように立ちはだかっているのだ。


 世界でも有数の鉱石資源を誇るクレムナント王国では、つねに他国から鉱石や採掘道具を求める旅人や商人達で賑わい、彼らが落とす外貨自体が大きな収益にもなっていた。

 

 南門と北門から中心地点に繋ぐ大通り(アルベリオン)は、沢山の人々が行きかい様々な物資が集まる市場ともなっている。


 この路上市では、王国内に流通する紙幣《ドゥーク》以外にも、他国のお金が直接使用できると言った点や、品物による物々交換まで幅広く行われていた。


 さらに物によっては、宿の一泊から一夜の共までも取引する事ができ、その経済の柔軟さには目を見張るものがあった。

 

 山間にある採掘場は王国が直轄管理しているため、採掘された鉱石には全て国の所有権が発生する。

 しかし、採掘師達が自らの手で掘り起こした鉱石の原価10%は、その者に権利が認められると言う《アバイト法》が施行された後は、他国からの出稼ぎ労働者も急激に増加していた。

 

 鉱石や物資、そして他国から集まる。様々な人種の人々が集まるこの国には、様々な情報も飛び交い、発信もされるのであった。

 

 諸外国からの交易を目的とした商人達が、食事と情報を求めて集まる酒場には、連日連夜、多くのもの達が足を運んでいた。


 そこは大通り(アルベリオン)から脇道に入ったところで、薄汚れた路地を抜けた先にある。とても清潔とは言えない場所なのだが、旅人達に言わせれば、どこの国でも光の当たらない所にこそ、金脈が眠っているという。


 店の前にはつねに一泊の共をする女性が、遥々遠い国からやってきた男の床を暖めるために客を待っていた。


 かつては採掘師達が仕事終わりに集まる、日の当たる酒場であった。美しい看板娘に、仏頂面だが作る料理は天下一品の店主。親子二人で営む店の面影は、もう残ってはいない。

 

 店内は昼間だと言うのに薄暗く、そして多くの人々が酒の肴をつまみながら談笑にふけっている。


「おい、聞いたか。王族警備隊長のハギャンがシュバイク様に重傷を負わせたって話を」


「ああ。なんでも訓練と称してシュバイク様を殺そうとしたのではないかって噂だ」


「本当か?物騒な話だな。それにしてもあの美しい王子を殺すだなんて...何が目的なんだ?」


「さぁな...だが...これはあくまでも人づてに聞いた話なんだが。どうやら兄弟間の不和が原因じゃないかって言われているらしい。王族警備隊長のハギャンは、長男レンデス様の守護騎士だからな」


「ふーん。なるほどな。王族警備隊長という肩書きがあるにせよ、自分の主であるレンデス様には逆らえないって訳か。国を守る王国騎士が、王子を殺そうとするなんて皮肉なもんだな」


「ああ。あと、これはどうにも信じ難い噂なんだが......」


 噂には尾が付きヒレが付き、当初の様相とは違った形をなしたものへと変貌していく。そしてそれは思わぬ方向へと進み、関わる人々全ての運命さえも変えていくのである。


「なんだってぇ?シュバイク様はアバイト王の実の息子ではない?あはははっ、それはないだろう。たしかにあの親子は似てないと思うがなぁ。いくらなんでも話が突拍子もなさすぎるだろ」


「まぁあくまでも根も葉もない噂だからな。でもよ、まったくのデタラメとも言えないだろ?あの国王の血を引いているにしては、シュバイク様はなんつーか、美しすぎるってやつだ」


「あれは母である王妃レリアン様の血が、色濃く出ただけじゃないのか?レリアン様は綺麗だからなぁ」


「ああ...まぁ...たしかにそう言われればそうなんだけどな......」


 このような会話を聞いた赤の他人が、さらに自分の憶測を織り交ぜて他者へと話すのである。

 路地裏にある小さな酒場から出た噂話は、大通りアルベリオンを這うようにして進み、それはやがて城下町の中心地にある城へと戻っていくのであった。

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