プロローグ 始まりの戦い ※挿し絵あり※
街道から外れた森の中。冷たく降り注ぐ雨によって川幅は広がっていた。水流も強い。
砂利の地面にライトイエローの髪の男が立っていた。右手には細身の刀身の剣が握られている。
「ウィ、ウィリシス!一体何なんだい!?」
美しいスカイブルーの長髪。少年が男へと問いかけると、ウィリシスと呼ばれた男は重い口を開いた。
「魔鉱剣を抜け、シュバイク。俺と本気で戦うんだ」
ウィリシスの銀褐色の瞳には、強い殺意が込められていた。
「な、何を言っているんだ!?ウィリシス、正気なのか!?僕らがここで戦っている場合なのか!?それが僕の力と何の関係があるんだ!」
シュバイクは怒りを露にしていた。
「正気さ。シュバイク、お前のさっきの言葉が本心なら、俺と本気で戦って勝ってみせろ。そして、奴等を殺したいと願う、その気持ちが本当のものだと証明してみせろ!それも出来ないなら、結局、お前の言葉はただの負け犬の遠吠えだったんだ!光の鎧っ!」
ウィリシスが呪文を唱えると、身体は白い光に包まれた。そしてシュバイクへと向かって一気に駆け出した。
「何でだよっ!意味わかんないよっ!くっ!光の鎧っ」
光の鎧によって肉体の力は飛躍する。常人を遥かに超えた速度で、二人は動き出す。
「いくぞっ、シュバイクッ!」
ウィリシスが叫ぶと、その姿は消えた。そして、シュバイクも気づけば消えていた。
何が起こっているのかは、わからない。ただ、金属が激しくぶつかり合う音が、誰もいないなずのその場所から周囲へと響き渡っていた。その音に驚き、木々の枝で翼を休めていた小鳥たちは飛び去っていく。
「くっ!速すぎるっ!」
突如として、シュバイクがその場に姿を現した。右手に握る剣を構えたまま、踏み込んだ足が地面を抉り取っていた。急激な速度から停止したかのような跡である。砂と石の大地に足がめり込み、その痕跡は数メートルほど続いている。
シュバイクは自分の周囲に動く何かを、目で追いかけているようだった。仕切りに視線を動かしては、身体の向きを変えて、剣の先を移動させる。だが、次の瞬間であった。
「うっ!」
シュバイクの肩を摩っていった何かが、痛みを感じさせた。肩を見ると、肉が裂けて血が流れ出ている。そして次の瞬間には左腕の肉が裂けた。
次第に身体には傷が増えていく。次から次へと新たな裂傷が、刻きざみ込まれていく。ウィリシスの動きに反応しきれず、シュバイクはただその場に立っているだけしか出来なかったのだ。
じわじわと追い詰められていく感覚は恐怖以外の何物でもないはず。シュバイクは明らかに焦っていた。
しかしシュバイクは覚悟を決め、己の持ちうる全ての魔力を一点に集めた。そして叫んだ。
「ハァァァァァァアアアアアアアアアアアアアツ!」
少年の咆哮が森に響き渡る、と同時に空へと向かって勢いよく飛び上がった。
集約された魔力は肉体の一部、脚へと注がれたのである。そしてその力をもって飛翔した。
飛び上がったシュバイクは、二十メートル近い巨木を優に超えていた。山から顔を出した朝日が照りつける。
「なるほど...そう言うことか。いいだろう、シュバイク。お前の誘いに乗ってやるっ!」
小川の横に姿を現したウィリシスは、先ほどのシュバイクと同様に地面を足で抉り取っていた。恐らく、急激な速度から停止する際に、大地を踏み込んだからであろう。そして、頭上高く飛び上がったシュバイクを下から眺めると、ウィリシスもまた魔力を脚へと集約させたのである。
そして、次の瞬間には同じように空へと向かって飛び上がっていた。
「うぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
「らぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
シュバイクの身体は、重力によって引っ張られ落下し始めている。飛び上がってくるウィリシスを空で迎え撃つために体勢を整えた。
右手に握る魔鉱剣に魔力を込め、眼前に迫る敵へと向けて剣を振りぬく。ウィリシスもまた、落ちてくるシュバイクへと目掛けて剣を振りぬいた。
そして二人が一瞬の内に交差したかと思うと、互いの魔鉱剣に太陽の光が反射し、美しい煌きを放った。