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10分後。俺は、練習を終えた陽太が着替えを済ませるのを校門で待っていた。封筒の中身が気にはなるところだったが、内緒ねという彼女の言葉がこの場で封筒を開けることを押し留めていた。
制服姿の陽太が走ってくる。
「お待たせ。」
こうして陽太と並んで下校するのは中学校の時以来だ。あの頃も毎日明きもせずに野球の話をした。そして、それは久しぶりに一緒に下校する今日も変わらない。当然明日の紅白戦の話になる。
「正直なところ、明日の紅白戦勝てそうなのか?」
俺の問い掛けに陽太が答える。
「そりゃ相手は上級生だからな。楽ではないさ。でもこっちにも秘密兵器があるからな。やってみなきゃ分からないと思うぜ。」
「秘密兵器って?」
「まぁ、野球部にいれば直ぐにわかるさ。」
陽太は少しふざけた表情ではぐらかした。だがその直後、今度は一転して真面目な表情で陽太は言う。
「なぁ、夏月。負けてもともとの試合かもしれないけどさ。やっぱ俺は投げる試合全部勝ちたいと思うし、勝つつもりで投げるからさ。明日は頑張ろうぜ。」
陽太が真っ直ぐにそう言うからこそ、俺も勝たせてやりたいという気持ちになるし、出来るだけの事をやって力になってあげたいと思ってしまう。
俺はもともとは水香からの誘いを断りきれずに参加することになった試合だという事はひとまず忘れて、陽太の為に尽くそうと決めた。
「あぁ、勝とうぜ。」
そう言って俺達はそれぞれの家へと別れていった。