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月と太陽  作者: 遠奈 都
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6

放課後、俺は彼女と一緒に野球部のグラウンドに向かった。とりあえず自己紹介を済ませると、今日は見学だけということでベンチに通された。


「ゆっくり見ていってね。」


俺に笑顔で話し掛けてくれたのが、去年の夏の大会でも2年生ながら全ての試合を一人で投げ抜いてチームをベスト4に導いた野球部のエース、石川さんだった。

しばらくすると今度はランニングをしていた陽太がベンチの俺に気付き、話し掛けてくる。


「やっぱり来てくれたんだな。」


「まぁ、見学くらいはな。」


それから後も代わる代わる先輩方が声を掛けてくれ、練習に関する事や、野球部のチーム状況等を教えてくれた。見学者には優しい先輩方のおかげで、ベンチはほんわかとしていて非常に居心地の良い空間になっていた。

しかし、当然の事だが練習が始まると空気は一変する。先程までの優しい先輩方も新入部員にとっては厳しい先輩へと様変わりしていた。

俺は何か少しでも明日の足しになればと食い入るように練習を見つめた。

まず投手陣。ピッチング練習をしていたのは3年生の石川先輩と2年生の林先輩。陽太の球を見慣れている俺にとっては大抵の同学年の投手は大したことなく見えてしまうが、石川先輩はさすがに別格だ。球種は140km台のストレートにカウントを整えるカットボールとカーブ、そして決め球にフォークとあり、まさに右の本格派という言葉がぴったりだ。追い込まれてからあの落差のあるフォークが来ればまず手が出てしまうだろう。かといって、早いカウントで勝負するにしてもあのカーブの出し入れがやっかいだ。曲がりっぱなを叩こうとピッチャーよりに立てばストレートに対応できない。これは明日一日で新入生にどうこうできる相手だとは思えない。

一方、打線に目をやれば、これまたよく打つ。さすがにあの石川先輩の球で練習しているだけあって速球には強そうだ。本気ではないにしろバッティングピッチャーを務める陽太の球を先輩達は軽々と飛ばしていった。

打撃練習を見る限り唯一の打線の切れ目が7番8番といった印象だが、これも気休め程度でしかなさそうだ。

これではさすがの陽太でも明日は楽ではないだろう。ましてや俺では逆立ちしたって勝てる相手ではなさそうだ。


そんなこんなで圧倒されっぱなしの4時間が過ぎ、本日の練習は終わりを迎えた。味方だと思えばこの上なく頼もしい先輩方ではあるが、明日は敵。このチームを相手にどうしたら勝ち負けになるか?4時間それだけを考えて練習を見つめたが、答えは見つからなかった。

練習に参加したわけでもないのに疲れきった表情の俺に水香が近寄ってくる。


「お疲れ。やっぱ初日は緊張するよね。気疲れしちゃった?」


「まぁちょっとね。」


すると水香はおもむろに手にしていた封筒をこちらに差し出した。


「これ、先輩達にはまだ内緒ね。家で読んでみてね。」


「これ?」


中身を尋ねようとしたが、俺が封筒を受け取るのと同時に先輩に呼ばれた水香はベンチを出ていってしまった。

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