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週が明けて月曜日の昼休み。
自席で昼食の焼きそばパンを食べ終えた俺のところに陽太がやってくる。
「やろうぜ。」
陽太の言葉に応えて、俺はグローブの入った鞄を手にして立ち上がる。昼休みの30分でキャッチボールをするのは、小学生の頃からの俺たちの日課だった。グラウンドに到着すると最初の10分は軽くキャッチボールをする。そして、次の10分は俺が座り陽太が投げる。過去の対戦チームやプロ野球チームの打線を仮想対戦相手として投球していくのである。最後の10分はピッチャーとキャッチャーが入れ替わって、陽太が座って俺が投げる。これが5年間変わらない俺達のルールだ。
キャッチボールを始めるなり陽太が口を開く。
「なんで先週野球部の見学来なかったの?」
「高校は、野球以外の事をするのもいいかと思ってさ。野球部に入らなくても、こうしてキャッチボールはできるしな。」
「野球以外の事って?てっきり野球をする為に野球部の強い高校を選んだんだと思ってたよ。」
「この高校を選んだのは陽太がいるからさ。甲子園には応援をしに行くつもりさ。甲子園のマウンドに立つお前を応援するのが俺の楽しみでもあるからな。よろしく頼むぜ。」
俺達が硬球でこのキャッチボールを始めたのは中学の野球部を引退してしばらく経った頃からで、それから半年近くが過ぎた。始めの頃は軟式とのボールの違いに少し戸惑っていた陽太だったが、近頃ではスライダーは以前より鋭く変化し、試しで練習を始めたフォークも徐々に落ちるようになっていた。この陽太の加速度的な進化を日々見せつけられては甲子園を期待しない訳にはいかない。と同時に、それは俺と陽太の差をどんどん広げていくものでもあり、甲子園のマウンドに立つのは陽太一人であるということを明確に物語ってもいた。
「ところで、うちの野球部はどうだったんだ?先週見学した感想は?」
今度は俺が陽太に尋ねる。
「さすがはベスト4常連校だよ。人数こそ少ないけど先輩方はみんな上手いよ。」
一呼吸間をおいて陽太が続ける。
「そこに俺とお前がいればと思うんだけどな。」
陽太が本気でそう思ってくれていることは俺にもわかっていた。それだけに俺は返答に困ってしまい、ボールを投げる手を止めてしまった。
そんな俺の雰囲気を察してだろう。陽太は指を上から下におろし、俺に座るように促した。
この日は陽太も俺も淡々と10分間の投球を終えた。