18
ノーアウト満塁。バッターは1番橋本先輩。
初球、西田のサインはアウトコース低めのストレート。これを橋本先輩は見逃してストライク。
(ストレート。130前後といったところか。これなら狙わなくても反応できそうだ。あとは変化球、何があるか……)
トップバッターの役割を果たそうとする橋本先輩。球種を引き出しにくることは俺達バッテリーにも容易に想像できた。それだけにおいそれとスライダーを使うわけにはいかない。
(次は今よりボール1個分遠いところにストレートだ。ストライクはいらないぞ。)
西田がサインを出す。
一方の橋本先輩。
(次もストレートなら少なくとも振る素振りは見せないと変化球は来ないかもしれないな。さっきのストレートのタイミングで振って変化球なら空振りでいい。)
双方の思惑が絡み合う2球目。俺の投じたボールは西田の要求よりもやや内側にいってしまう。ストライクゾーンギリギリのあたりだ。
(入っている。)
橋本先輩がバットを出す。
カーン
(先っぽ!? 打ち損じた。)
橋本先輩の打球は3塁側のファールグラウンドに高々と上がっていった。
「オーライ。オーライ。」
両手を広げるサードの小山がボールをがっちり掴んでまず1アウト。
「ナイピー。ナイピー。」
陽太の声に俺は人差し指を立てて応える。
「ワンナウト。」
一方、ネクストバッターズサークルでは、橋本先輩と2番の秋丸先輩が話をしている。
「2球ともストレートだよな? タイミングだいぶずれてるように見えたけど。」
「わからん。バットを出した瞬間はジャストミートしたと思ったんだが……」
怪訝そうにこちらを見ながら秋丸先輩がバッターボックスに入る。
(初球は見てくるだろうからストライクを貰っておこう。)
真ん中の真ん中よりやや低めにストレートを通す。秋丸先輩が見送ってストライク。
(特に変わった事は感じられないが……橋本のは単純にあいつのミスか。)
2球目は橋本先輩を打ち取ったコースに。但し、ストレートではなくスライダーでというのが西田のサインだった。サインに頷き投じた2球目。
そこから先は一瞬の出来事だった。秋丸先輩のバットから鈍い音がしたかと思うと、打球はバッターボックスと俺の間でワンバウンドして俺のグローブへと吸い込まれてきた。西田は、俺が西田へと送ったボールを掴むとホームベースをしっかりと踏む。これで2アウト。そして、そのボールを西田がファーストの佐渡へと送るとホームゲッツーが成立し3アウト。一瞬のうちに俺達は大ピンチを無失点で切り抜けていたのであった。
(俺の球であの先輩達を抑えられるだなんて……信じられん。)
マウンドで半ば呆然としていた俺に陽太が駆け寄ってきて拳を差し出す。
「ナイスピッチング。完璧なリリーフだな。」
我に返り、陽太が差し出した拳に自分の拳を合わせる。
「俺にしちゃ出来すぎだよ。」
「実力、実力。」
陽太は嬉しそうにニコニコして言った。