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7回の表、打席にはこの回先頭の山崎先輩。初球をストレート、2球目をスライダーでポンポンとストライクを取るが、ここから気合いを入れ直した上級生チームが粘りを見せる。
まずは釣り球の高めのストレートを見送って1ボール。次がアウトコースの逃げるスライダー。しかし、これも山崎先輩は見極めて2ボール。2球のファールを挟んだ7球目。アウトコース低めのストレートが大きく外れて、これでフルカウント。
そして8球目。バッテリーはインハイのストレートを選択。陽太が振りかぶって投じた球は、キャッチャー西田の要求通り山崎先輩の胸元に突き刺さる。
カキーン
鋭い当たりのボールがコーチャーズボックスの端の辺りで着地する。
「ファール」
やられたかと思った。陽太の投球はこの日の最高に近いもので、空振りを取るには十分の球だった。だが、その球もカットされた上に、タイミングも合ってきているとあっては次に投げる球がない。
結局バッテリーはこの日一度も見せていないフォークに賭けるも、陽太の投じた9球目は無情にもベースの手前でワンバウンドしてしまう。
「ボール」
一番注意しなければいけなかった先頭打者を塁に出してしまった。しかも粘りに粘られた挙げ句のフォアボール。ピッチャー心理としてはヒットを打たれるよりも嫌だということは、俺にも痛いほどよくわかる。陽太の気持ちが切れてなければいいのだが、そう思って俺はマウンドの陽太に一声掛ける。
「ドンマイ。ドンマイ。」
「あぁ、すまん。」
そう答える陽太の目はまだ生きている。
「次はどうせバントだろう。俺達バックに任せておけ。」
「頼むぞ。」
陽太は右手を挙げて、自らを鼓舞するように内野に向けて叫んだ。
この場面は9割バントとかそういう場面ではない。100%送りバントの場面なのだ。そして、両軍それをわかった上で送れるか、殺せるかという場面なのだ。
打席に入った飯塚先輩は投球前からバットを寝かせている。
陽太がモーションに入る。それと同時に猛チャージをかけるファースト小山とサードの佐渡。
キン