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魔王と勇者シリーズ

里帰り

作者: 尚文産商堂

勇者と言っても、自分は国の為に戦った英雄と言うわけではない。

ただ、鍛錬に鍛錬を重ね、国一番の力強い人物となった時、誰かが自然に勇者という言葉を使いだしただけだ。

そんな勇者が力の後に求めたのは魔法だった。

魔法を使えば、さらに強くなれると考えた彼は、とうとう最終魔術の一つである、召喚術をマスターした。

そして、実際に召喚したのは、魔王だった。

今、魔王は煎餅を食い散らかしながら、ソファに寝転がって漫画を読んで、ケラケラ笑っている。

まあ、魔王と言っても、見た目は普通の女の子なんだがな。


「…何してるんだよ」

自分が転がっている魔王に、掃除機片手に聞く。

「何って、漫画読んでるの」

「掃除するからのいてくれ。それに、食べながら横になってると太るぞ」

「大丈夫、大丈夫」

自分が持っているバッテリータイプのハンディクリーナーを見ながら、魔王がソファから立ちあがる。

「でも、これじゃ、魔界の方が良かったかも」

「魔界の方が?」

自分はさっきまで魔王が寝そべっていたソファを丹念に掃除をする。

「あーあ、こんなにこぼして」

「まるでお母さんだね」

自分を見て笑いながら魔王が言ってくる。

「よく言われるよ。でもな、自分の師匠が、身の回りの世話ができないやつは、絶対に一人で歩けない。一人で歩けないやつに、成功できる奴なんていないって。そう言い続けられてきたからな」

「ふーん」

そう言って、魔王が窓から外を見る。

「ここからみる光景も、私は魔界の方が好きだなー」

「魔界って、どんなところなんだか」

「行ってみる?」

魔王は楽しげに、俺に提案してくる。

漫画を閉じて、近くの机の上においてから、俺にすり寄る。

「ねえ、行ってみようよ。たまには里帰りもしたいし」

「たまにって、来て1カ月ぐらいしか経ってないぞ」

と言っても、魔王が本気で魔法を使えば、自分なんてひとたまりもない。

きっと、紙切れ同然になって、窓から放り出されるのがオチだろうから、自分は何も言わないことにした。

「…じゃあ、勝手に行くもん」

そう言って、魔術を部屋全体にかけたようだ。

窓の外が、先ほどまでの蒼空から一瞬闇が覆い、それから夕焼けのような空が写ったと思うと、空一面の彩雲が見え、直後に水色に戻った。

「やれやれ、やっぱり部屋一つ動かすのは一苦労ね」

そう言って、魔王は笑っていた。

「ちょい待て、ここって魔界か」

「だって里帰りするって言ったじゃない。忘れたの?」

あっさりというが、外の風景を見てはっきりとわかった。

「一応言っておくけど、自分があんたの召喚主なんだからな」

「わかってますよって。魔力同士が引きあった仲なんだから、それぐらいはね」

召喚術というのはやっかいなもので、魔界でも自分所の世界でも普通に行われているものだ。

先に行ったものが召喚主となり、召喚された者、従召喚者とか召喚者とか言われるものになる。

簡単にいえば、召喚者は召喚主の言うことに従えという話しだ。

今回は、自分が先に魔王を召喚したから、自分が召喚主となる。

まあ、ただそれだけの話だ。

それよりも問題なのは、どうやって元に世界へ帰ろうかと言うことである。

「なあ、元の世界には戻れるんだろうな」

「今は無理だけどね。私の体力の限界がきてるから」

「じゃあ、いつになったら帰れれるんだ」

魔王は少し考えて言った。

「3日は回復にかかるから、きっとそれぐらいかな」

「かなりかかるな。その間は、ずっとここに缶詰か」

「でもないみたいだよ」

魔王が笑っていたのを見て、少し不思議に思ったが、すぐに外が騒がしくなって、何が起きたか何となくわかった。

「…何処かから軍がやってきたみたいだな」

「というか、私の親衛隊かな。魔王は死んだことが確認されるまでの間は、代理の人が一切を受け継ぐのよ。でも、魔王が戻ってきたときには、再び実権は魔王に戻る。この私にね」

そう楽しげに言うと、部屋の扉が開かれて、甲冑を付けた複数の人がなだれ込んできた。

「陛下、ご無事でしたか」

「見ての通り、元気だ」

魔王が、なだれ込んできた兵士のような人たちの中で、一番偉いであろう人に答えた。

「それはようございました。先王も心配されておりました。ところで、そちらの若者は」

「人界では、勇者として知られている者だ。また、私の召喚主でもある」

その言葉を聞いて、俺に刀の切っ先を向けてきた。

「なるほど、こちらへお帰りになられたということは、この者を殺しても…」

「いや、この者を殺すでない。私の重要なパートナーだ。おそらく、現魔王を召喚するほどの魔力があるとするならば、おぬしらなどひとたまりもあるまい」

「…陛下、それでよろしいのですか。恨みなどはないのですか」

「それどころか、人海へいけて嬉しいぐらいだ。なにせ、このように美味い食べ物があるのだからな」

そう言って、魔王はその人にポテチの袋を見せた。

「これは一体…」

受け取りながら表を確認し、受け取ってから裏を確認し、さらに中身の残りを一口食べた。

彼の表情は、すぐに変わった。

「こ、このようなものが、人界にあるのですか」

「ああ、他にもあるぞ。これはポテトチップスというものだ。根が太りその部位を食すじゃがいもという植物を、根の部分を薄く切った後に油で揚げたものだ。主に夜食やおやつとしてたべられている」

「根を食すものといえば、こちらではグイトァがありますが、そのようなものでしょうか」

「あれを食すという体験をしたことがなおのでな、やってみなければわからん」

「確かにそうですね。是非にやってみましょう」

すぐに一人をどこかへ派遣した。

「なるほど、有益であるから殺さなかったのですね」

「ああ、有益でなければ、すぐにでもこちらへ帰るつもりだった。しかし、何か面白そうだったのでな、だから人界へ1ヶ月ほど暮らすことにしたのだ。今後はこちらと向こう行ったり来たりの生活となると思われる。別に構わないか」

「ええ、よろしゅうございます。こちらへ帰る時を待っております。人界へはいつ行くのでしょうか」

「1週間ほどこちらにいるつもりだ。だからそれ以後となるだろう。おめおめ魔王の座を狙うのではないぞ」

「承知しております。陛下はただ一人、そして、生きている限りでは、その命令は常に絶対。そのことは忘れておりません」

「うむ、ならば下がって良い。何かあればまた呼ぼう」

平頭し、ゆっくりと後ろ歩きで下がっていった。

そして、ふぅと細いため息を付いてから、魔王は自分のほうを向いた。

「ということだから、1週間は帰られないわね」

「先王って生きてるのか」

「ええ、生きてるわよ」

あっさりと自分に魔王は言った。

「じゃあ、魔王になるために必要なものってなんなんだ」

「先王が、次の魔王を指名すること。その瞬間から、私が魔王になったの。そして、私も次の魔王を指名すると同時に、魔王の位から降りることになる。それだけね」

そう言うと、魔王は再びため息を付いた。

「ため息なんてつくような性格じゃないだろ。どうしたんだ」

「ん…その指名のことなんだけどね。誰に指名したらいいのかって、ずっと悩んでるのよ。ずっと若い時に指名されてから、私は魔王として暮らしてきたから、それ以外の生活を知らないし…」

「じゃあさ、指名しなかったらどうなるんだ」

「指名されなかったら、魔王だと名乗る人が乱立して、文字通り血の雨が降ることになるわね」

さらにもう一回溜息をつく。

「まあ、まだ人生長いんだろ。ゆっくりと決めればいいさ」

自分は、ソファの横に魔王を座らせて、頭をゆっくりと撫でた。

その頭は、とても暖かかった。

「とは言っても、自分はよくわからないんだがな」

魔王に言うと、あっさりと言われた。

「そりゃ、ここに来たことがないんだから、よく知らないでしょうね」

魔王の悩みは、どうやら自分には解決できないようだ。

さらに4度目のため息を、俺はすぐ横で聞くことになった。


指名をするのは、今すぐではなくてもいいらしく、今回も先送りにするということにしたらしい。

そして、魔王の命令を忠実に遂行している最初の兵士たちは、確かに親衛隊だった。

その隊長は、グイトァというオレンジ色をしたじゃがいものようなものを自分に見せながら聞いてきた。

「これを薄く切ればよろしいのでしょうか」

「そんな感じかな…」

自分は見たことがないものだったので、あやふやに答えるしかなかった。

だが、それですぐに調理を始め、30分後には、数十個のグイトァがポテチのような感じに出来上がった。

「どうですか」

自分に食べさせようとするので、仕方なく一枚食べる。

「ん、こんな感じだな。あとは塩味だったらなおいうことなし」

「塩…分かりました。おそらく調味料の一つでしょうね」

すぐに親衛隊がいろいろなものを持ってきてくれた。

それが綺麗に並べられていて、まさに虹色のような感じだ。

「どれか一つがあたりでしょう」

親衛隊長は、どうも自分を毒見役にさせたいらしい。

適当につけながら食べるを繰り返す。


激辛や酸っぱいものなど、何度も死地をさまよいながら答えにたどり着いた。

「これだっ」

「そうですか!なら、これで広めましょう」

それはたしかに塩味だった。

ようやく毒見が終わったということをわかると、ほっとした。

「時に聞きますが、指名は誰になるのかと、陛下から聞いてませんか」

「いや、まだ決めかねているようだ。誰にするのかと、自分が聞いたことはない」

水をいっきに10リットルぐらい飲んでいた最中に、自分に聞かれた。

「そうですか。わかりました。では」

すぐに親衛隊長はその場からいなくなった。

自分は、残されたグイトァを、何も付けずに食べつくした。


そして帰る時、魔王は親衛隊長に言った。

「指名はせん。いずれはするだろうが、今はせん。そのことを全魔界に伝えよ。まだ、指名を受ける機会は存在する」

それから自分と一緒に部屋に入り、呪文をかけようとした。

だが、わずかに思いとどまって、自分に聞いた。

「…これからも、一緒にいてくれるか」

「ああ、こんなに面白い生活になるのは、手放しがたいからな」

そう言うと、やっと安心したかのように、心からの笑顔をみせてくれた。

「そうか、それが聞きたかった」

笑顔で、呪文をかけ、自分と共に人界へと戻った。

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