お花畑の出会いです。
後宮は閉鎖的な空間で、後宮に立ち入るには家族であっても許可がいります。
備え付けの施設も少ないですし、それらが後宮には娯楽が少ないという結果に繋がります。
ですので令嬢によってはどのように暇を潰すかが悩みの種であり、その手段は人それぞれに異なります。
強力な財力を持ち、社交的な令嬢によっては、頻繁にお茶会を開いたり、御用商人や仕立て屋を頻繁に招いては身の回りの物を新調したりして日々を過ごす方もいらっしゃいます。
お茶会を開く方は主に派閥作りをする為ですね。人によっては純粋に話し好きという場合もありますが。
頻繁に開けるということはつまり財力があり、ひいては実家の権勢が強いということです。
ちなみにルンベンダルク公爵令嬢がこの傾向にあたります。私も早速一度招待されたので参加しました。
商人の御用聞きは、この閉鎖的な後宮にいて流行の物に触れることの出来る数少ない機会です。
女としての魅力を磨く為にも疎かには出来ません。侍女も喜びます。
目新しいものを揃えることで目立つことも出来ます。
ニーゼット侯爵令嬢にこの傾向が強く見られるようです。生まれに関係しているのかもしれません。
私はというと、することがない、という意味の暇はあまりありませんが、実家では書物を読むのを好んでいました。種類はこだわりません。雑多です。
書物を揃えるのはお金がかかりますが、実家には小さいながらも書庫がありましたので、勉強がてらよく通ったものです。
しかし残念ながら後宮にはそういった書庫がありません。もう一度言いますがお金かかりますから。側室には必要ありませんし。
宮廷の方にはその場所柄大きいものがあるらしいのですが、私達は立ち入りを禁じられています。そのうち本の貸し出しを願い出るつもりです。
ですので、実家から本を差し入れてもらっているのが現状ですね。
今日は気分を変えて外の庭園で本を読むことにしました。
天気がいいですし、日に当たらない生活は体に悪いと言われていますし。
指先まで覆うドレスを着せられ、侍女が日傘を翳すなど、日焼け対策はばっちりとされましたが。四半刻程で部屋に戻るようにと再三言われましたが。
美容に気を配るのは側室としての義務ですよね。はい。
庭園では一人静かに過ごせると思っていたのですが、どうもそうはいかないようです。
あ、一人とは言いましたが侍女は数には数えません。常に私付きの者が着いています。
同様に他の側室方も常に侍女を連れています。
そして庭園の中に何やら見慣れぬ侍女が。
どうやら他にどなたか側室がいらっしゃるようです。
あ、流石ニーナ、仕事が早いです。耳打ちしてくれました。リューベック伯爵令嬢付きの侍女だそうです。
リューベック伯爵令嬢ですか……。確かエレノア様のお茶会でニーゼット侯爵令嬢の標的にされていた方ですね。
まだお若くていらっしゃって、どこか幼さの残る顔立ちの可愛らしい方です。あまりお話ししたことはありません。
庭園で鉢合わせては落ち着いて本を読むことも出来ません。そこまで繋ぎを作る必要もなさそうな方です。
さてどうしましょうかと悩んでいると、あちら方に気付かれてしまったようです。
お茶しませんかと誘われてしまいました。
予定が崩れてしまいましたね。
案内された先には綺麗に整えられた花壇に囲まれ、リューベック伯爵令嬢が備え付けのテーブルについていらっしゃいました。
侍女がお茶の準備をしています。
向かい合いお話をしてみると、リューベック伯爵令嬢はこの庭園の花壇が特にお気に入りで、よく外に出ては眺めているのだとか。
それは知っていましたが、時間は一定にして頂けませんか。
植物の種類にも詳しく、既に後宮の庭師とも顔見知りになってしまったそうです。
ご実家ではよく花壇の手入れをしていたそうなので、その延長でしょう。
貴族の娘にとっては花壇は世話するものではなく眺めるものなので、あまり褒められた趣味ではありません。
後宮ではその趣味は隠されているようなので、眺めるまでが限界でしょう。
社交界に出るのも緊張してしまい、そのまま後宮入りしたそうで、お茶会に招待されても気後れしてしまうそうです。
私は読書の趣味が高じてリューベック伯爵令嬢に及ばないながらも植物の知識を持っていたので、久しぶりに気疲れせず話が出来たと嬉しそうにされていました。
そしてもうとっくに四半刻を過ぎた頃、リューベック伯爵令嬢は何やら俯いてもじもじとされました。
ご不浄ならどうぞ遠慮なさらず。聞きたいことがあるならどうぞ。
え? 殿下のお渡りの時の様子を教えて欲しい?
なかなか大胆なことを聞く方だと思いました。
そういえばこの方にはまだ殿下のお渡りがありませんでした。
初夜の行為を聞くなんて、この目の前の純朴そうな令嬢の認識を変え……あ、違う?
あ、はい、そうですよね、殿下のお人柄についてですよね。
当たり障りなくお伝えしておきました。
何やら殿下に淡い憧れを抱いていらっしゃったようなので。
しかしリューベック伯爵令嬢ですか……。
後宮で私が一番苦手にするのは、ルンベンダルク公爵令嬢でもなく、ニーゼット侯爵令嬢でもなく、彼女かもしれません。
なんだか、とても……疲れました。
お花畑の出会いです。
普通なら主人公はこっち。




