第4話 完結
うおーーーー! ペースが遅すぎる! あと3本じゃ!
「どうじゃった?デートは」
だだっ広いリビングルームのシャンデリアにぶら下がりながら、魔法使いが話しかけて
きた。
「ああ・・・楽しかったよ。でも、彼女コンビニの店員じゃなくてスッチーじゃん。
なんか・・・距離感を感じるんだけど・・・」
「それは仕方が無いんじゃ。色んな所で歪みや変化がある。お前の今のために600年程
歴史が動いたんじゃ・・・まあそのぐらいの事はあるじゃろ」
「600年って・・・大丈夫なのかよ・・・・そんな事して・・・」
「多分・・・大丈夫だ・・・と思う・・それより最後の魔法は何にするか決めたのか?
何でもいいぞ。大盤振る舞いじゃ。火星にマンションでも建ててやろうか?」
「・・・・火星って・・・そんなに直ぐに使わないといけないのかよ?」
「直ぐってわけじゃないが・・・少なくとも年内には使い切らないとタイムリミットじゃ」
「じゃあ、もう少し考えさせてくれよ・・・来週デートなんだ。困った事が起こらないとも
限らないし・・・」
「よし、わかった。魔法が使いたくなったら直ぐにわたしを呼ぶのじゃ。では・・・」
「どこ行くんだよ・・・彼女の事もっと教えろってば・・・」
「年末は何かと忙しいんじゃ。 年賀状も書かないと・・・さらばじゃ!」
ホントに魔法使いなのかよ?年賀状とか・・・手書きしてるのか?
それにしても24日の事考えるとドキドキしてくる・・・
彼女は慣れた感じだったけど・・・経験済みなんだよなぁ? 多分。
相手は誰だったんだろう?・・・まずいよなぁ・・・初めてだってバレるよな。
大邸宅に住んではいるが、やる事といえば前とまったく一緒で朝からゲーム三昧である。
14室ほど部屋があるみたいだが、俺が居るのはベッドルームとリビングのソファー
それにトイレと広すぎる浴室ぐらいだ。
食事といってもそんなに腹は減らないし、100インチの大画面を見ながら
チップスとコーラがあれば全然満足である。
そんな風に生活をしながらいよいよ明日が決戦の24日になった木曜日、久しぶりに
テレビのリモコンを操作して一般のチャンネルをかけてみた。
画面の中では何やらレポーターが叫ぶように何か言っている。
どうやらどこかの事故現場のようだった。
「えー・・私は今、墜落現場に来ております。大変な状況です。乗客、乗務員全員
絶望的とみられております。あっ・・・ただいまもう一人のご遺体が見つかったようです。まだあちらこちらに煙が出ています。以上、現場から竹内がお伝えいたしました」
どうやら旅客機の墜落事故のようだ。どのチャンネルを観ても同じような感じである。
「たった今最後の方のお名前が判明いたしました。SS航空のキャビンアテンダントで
山口三沙子さん24歳。えー、最後の方のお名前が・・・・・」
俺は何かで思いっきり殴られたような衝撃を受け、その場にしゃがみ込んでしまった。
「まっ・・・まさか・・・冗談だろ?・・・悪い冗談だよなこれ・・・」
テレビはSS航空機墜落関連のニュースが終わり、お笑い番組が始っていた。
「おいっ! 魔法使い! 聞いてるのか? 何なんだよコレ・・・おかしいだろ?
何で彼女が死ぬんだよ! 返事をしろよ!」
俺はわめきながら家中を歩き回り、魔法使いを捜した。
「なんじゃ? 大きな声で・・・ゆっくり眠る事もできんわ!」
「どこ行ってるんだよ! こんな大事な時に・・・彼女が死んだんだよ!
どうするんだよ・・・どうしてこうなるんだよ!」
「死んだのか? いつ?」
「さっきニュースでやってたんだよ・・・飛行機事故で・・・」
「空間の歪が原因かもしれんなぁ・・・かわいそうな事をしてしまった・・・
諦めて次の女の子をみつけるんじゃ。 そのほうがいい」
「何言ってるんだよ! お前、魔法使いなんだろ? 彼女を生き返らしてくれよ!
頼むよ・・・おねがいだぁ・・・」
「そんな事はできんよ・・・生き返らせるとか・・・すまんのぉ・・・」
「俺みたいな人間が生き残って・・・彼女みたいないい子が死ぬなんて・・・
そんな魔法意味無いだろ!・・・何が魔法使いだよ・・・」
「わかった、わかった。・・・方法はある」
「・・・えっ?・・・・」
「お前の魔法をすべてリセットするんじゃ。そうすれば元に戻る」
「なんだ・・・そんな事なら早く言えよ・・・元の生活に戻るだけだろ?
彼女はコンビニの店員、俺はニートのゲームオタ。それでいいじゃん」
「彼女とは恋人になれないんだが・・・それでもいいのか?」
「ああ。だいたい俺は笑顔でお釣りを渡してくれる彼女が好きなんだ・・・
スッチーやってる彼女じゃない。付き合って無くったって・・・別にいいさ」
「ほほー・・・なかなか・・・よし、じゃあ魔法をかけるぞ! ちーちんぷいぷいー・・」
「ちーちんぷいぷいーー」
閃光と共に周囲が消え次の瞬間、見慣れた画面が目の前にあった。
たった今ゲームオーバーしたばかりの映像が流れている・・・
元に戻ったのか? テレビのチャンネルを変えても墜落事故のニュースなど
どこも流してはいなかった。
「夢だったのか?・・・ひでー夢だ・・・・」
それでも彼女の事が気になり、駅に向かって自転車を走らせた。
「いらっしゃいませ!」居た・・・彼女だ・・・・
やっぱり夢だったんだ。そう思うと、どっと疲れが出てきた。
やばいなぁ・・・また、熱が出てきてるんだろう。とりあえずコーラを持って
レジに向かった。
「ありがとうございます。コーラお好きなんですね?」
「えっ?・・・」
「さっきも・・・コーラだったから・・・」
「さっき?・・・じゃあ・・・アレは・・・」
「なにか? どうかしました?・・・」
「君・・・三沙子さんなの?」
「あれ? 知ってるんですか? 私の事・・・」
「いやっ・・・そうじゃないけど・・・映画とか・・・好きそうだなって」
「はい?・・・好きですけど・・・どうして?」
「ヤマト・・・観にいかない? 一緒に・・・・」
「えっ・・・・いいですけど・・・観たかったし・・・」
告白はあっけないほど簡単に出来た。一度一日遊んだ仲だし彼女の好きそうなことは
何となく分った。
映画を観た帰り、一緒に食事をしながら俺は魔法の話を彼女に打ち明けた。
「面白い夢ねー。あっ・・・夢じゃないのか・・・」
「そうなんだよ。夢だったのかもしれない・・・でも何で名前知ってたんだろう?」
「不思議よね。でもよかった。剛史さんが声をかけてくれて」
「ん? どうして?」
「前から気になってたんだぁ・・・正直言うと・・・かっこいいなぁって・・・」
「うそっ!・・・そうだったのかぁ・・もっと早く声かければよかったよ」
「その魔法使いさん、二人のキューピットなのかも?」
「キューピットにしちゃ態度デカかったわ・・・」
「大きなお世話じゃ!」
「えっ?? なんか言った??」
「何も言ってないよ・・・どうしたの? 」
俺は気になって周りを見渡した。
居た!アイツだ・・・
トイレの横の観葉植物の下で、自分の身体の2倍はあるワインをラッパ飲みしてやがる。
チラッと目が合った。魔法使いは小さな透き通った羽根をパタパタと動かしながら
1m程浮かび上がると白い光と共に消えていった。
夢じゃなかったんだ・・・
消えていくほんの一瞬
魔法使いが小さく微笑んでVサインをした。
ふと窓の外を見ると、クリスマスのイルミネーションがまぶしいほど輝いている。
2010年のクリスマスを、俺は多分一生忘れないだろうな。
エヘヘっ。 魔法使いになれるんだよ^^
エヘヘじゃねーよっ。