私はそれを愛と呼んだ
短編です
いつもぼんやりとしていて、形は曖昧だった。ふわふわと朧気で、所在なくいろんなところに移動した。綿毛のような姿。
今日もふわふわ、移動する。今日は少しトゲトゲとした姿。あまりこの姿は好きじゃない。周りを傷つけてしまうから。でも今日は、すぐに棘は引っ込んだみたい。
私には名前がなかった。誰も私に名前をくれない。でも私は確かにそこに在った。ぼんやりとした姿で、曖昧なままで、ずっとそこにいた。
初めの頃、私は、ジェットコースターに乗っているみたいに、姿かたちがどんどん変わった。柔らかいピンク色の可愛い姿、ドロドロに溶けるヘドロのような姿、煮えたぎるマグマのような姿。私は簡単に姿が変わった。
曖昧だから、すぐにいろいろな形に変わることが出来る。長所とも取れるけど、あまり激しい変動は好まない。出来れば穏やかで、落ち着いた姿でいたい。
ときおり、突き刺すような痛みを伴う、大きな棘が突き出ることもあった。
私はすぐに振り回されてしまう。
ある時、私に名前がついた。その名前も、最初はぼんやりとしていた。でもそれは、次第に私の形を確定させた。ようやく私はぼんやりした存在から、ハッキリとした形を得ることが出来た。それからは、ずっと走り回っていた。形が安定したから、どこに行っても怖くない。そう思っていた。
ある時私は、真ん中から二つにちぎれてしまった。以前からその前触れのような物はあったのだ。体の真ん中が少し切れていた。一度張り付けたのだけれど、そんな修復では追いつかないほど、大きくひび割れて、ついには真っ二つ。
私から別れた一つは、とげとげとしていて、それでいてドロドロとした、流動的な形をしていた。はっきりとした姿はとどめていなかった。
私は半分になったまま、所在なくまたふらふらと移動を始めた。
時間をかけて、さまよいながら、私は自分を修復し始めた。以前と同じ形にはなれないけれど、少しずつ、私の形を変えながら、安定を求めて修復してく。
ある時、私と同じようにぼんやりとした塊が目の前に現れた。それは、かつての私のように、朧気で、不安定で、でも確かにそこに在った。
私は思わずそれを抱きしめていた。壊してしまわない様に、優しく、でもしっかりと、抱きしめた。
いつしか私は、そのぼんやりした塊と、一つになった。私の傷ついた個所を、形のなかったもう一つが、優しく埋めてくれた。私は初めて、安定を知った。
穏やかで、温かく、優しい気持ち。
一つになった私に、名前がついた。はっきりとしていて、でも時々形を変える。柔らかで、穏やかで、温かく、優しい感情。ぼんやりしていたもう一つも、確かに私と共に在る。私はもう、ふらふらと所在なく、朧気に存在するものではなくなった。
私の名前は
——愛——
というお話でした。




