第9話:地底の姫と、浮遊する楽園
「……マスター。ここ、あったかい……」
地底の遺跡から拠点に戻るなり、古代エルフの少女セレスはリアムの腰にぴったりとしがみついて離れなかった。
「ちょっと、貴女! さっきから馴れ馴れしいですよ! リアム様が困っているではありませんか!」
エルナが頬を膨らませて抗議するが、セレスは無表情のまま、さらにリアムの服をぎゅっと掴む。
「……マスターは、私を起こしてくれた。私の魔力、全部マスターのもの。だから、これでいい……」
「くっ……! 言葉の重みが違う!? だが、リアム様の護衛役はこの私、リヴィアだ! 貴様のような細い腕で何ができる!」
リヴィアも加勢するが、セレスは静かに指先を向けた。
「……古代エルフの術法。私、マスターの敵、全部消す。……リヴィア、私より、弱い」
「な、なんだとぉ!?」
「まあまあ、みんな仲良くしようよ。セレスも、これから一緒に暮らすんだから」
リアムがセレスの銀髪を優しく撫でると、彼女は猫のように目を細めて「ふふ……」と満足げな吐息を漏らした。それを見たエルナとリヴィアは、今にも爆発しそうなほど顔を真っ赤にする。
「そうだ。セレスがいた地底の森、あそこも綺麗だったけど、やっぱりお日様の光を浴びさせてあげたいな」
リアムが屋敷の庭のど真ん中に立ち、両手を広げた。
『古代魔法:【領土拡張・次元結合】を開始します』
轟音が響き、大地が震える。
なんと、リアムの足元の地面が広範囲にわたって浮き上がり、そのまま空へと昇り始めたのだ。さらに、地下に眠っていたセレスの「青い森」の空間が、地上に引きずり出されるようにして結合していく。
「なっ……地面が浮いている!? リアム様、これは一体……!」
「空の上なら、魔物も来ないし景色もいいでしょ? 地底の森も一緒に持ってきたから、これからはいつでも遊びに行けるよ」
完成したのは、高度数百メートルに浮かぶ巨大な「空中浮遊島」。
地上からは、砂漠のど真ん中に突如として現れた「空飛ぶ緑の聖域」に見えるはずだ。
「……マスター。私、こんな綺麗な空、初めて見た……。……ますます、離さない」
セレスがリアムの腕を抱きしめる。
一方で、この光景を遠く離れた帝国の都からも視認できた。
「報告! 南の空に……空に島が浮いております!」
「馬鹿を言え! そんな魔法、神話の時代にしか……。待て、あの場所は……リアムを追放した地点ではないか!?」
皇帝はついに悟り始めた。
自分たちが「ゴミ」として捨てたものは、実は世界を支配できるほどの「太陽」だったのだということを。




