第73話:時空を置き去りにする二人三脚! パパ、未来の娘に会う
国立・神童幼稚園『リトル・コスモス』の大運動会。
種目はクライマックスの「親子二人三脚」。しかし、12対の光翼を背負ったリアムと、その光を受け継いだ最強の子供たちが並ぶ姿は、もはや運動会というより「神々の遷都」に近かった。
「……マスター。加減して。……一歩で、宇宙の果てまで行かないで」
セレスが心配そうに見守る中、リアムは愛娘(アイリスの娘)と足を結び、スタートラインに立った。
「大丈夫だよ。ゆっくり、一歩ずつ進もうね」
だが、リアムが「一歩」踏み出した瞬間、背中の12対の光翼が子供の「もっと早く!」という無邪気な願いに反応。推進力が因果律を突破し、リアムたちは物理的なゴールではなく「時間の壁」を突き抜けた。
景色が激しく歪み、一瞬にしてたどり着いたのは、数十年後の未来にある「銀河大聖堂」の前だった。
そこには、美しく成長した娘と、感極まって号泣している未来の自分の姿が。
「あ、あれ……? パパ? なんでそんなに若くて羽がいっぱい生えてるの?」
未来の娘が驚いてこちらを見る。
「ご、ごめん! 運動会の練習をしてたら、ちょっと未来まで来ちゃったみたいだ。……ええっと、結婚おめでとう!」
リアムは慌てて翼を逆噴射させ、強引に「現在の時間軸」へとバック。コンマ数秒で元の校庭に帰還した。
……が、その「コンマ数秒」の間に、リアムの翼から放たれた余波で、運動会のゴールテープが「黄金の銀河鉄道」へと変化し、全校生徒が未来の幸福を予視(予知)して多幸感に包まれるという珍事が発生した。
この「光速を超えた親子」の姿を、旧帝国の跡地で細々と生きていた元貴族たちは、もはや肉眼で捉えることすらできなかった。
「……おい、今、何か『黄金の線』が走らなかったか?」
「いや、何も見えなかったぞ……。だが、なぜか涙が止まらない……。過去の悪行がすべてどうでもよくなっていく……」
かつてリアムを「足の遅いノロマ」と馬鹿にした元近衛騎士たちは、自分たちが知覚すらできない速度でリアムが人生を(そして宇宙を)謳歌している事実に、自分たちの存在が「止まった時間の中のゴミ」であると悟り、静かに自らの地位も名誉もすべて捨てて、歴史の闇へと消えていった。
結局、リアムたちは「スタートした瞬間にゴール(と未来への挨拶)を済ませた」として、文句なしの優勝。
「……マスター。未来の娘、誰と結婚してた? ……もし変な男だったら、今すぐその銀河を消してくる」
セレスの目がガチの暗殺者モードになるが、リアムは苦笑いしながら彼女を抱き寄せた。
「大丈夫。未来の僕も、すごく幸せそうだったから」
翼を持つパパの運動会は、宇宙の歴史を少しだけハッピーな形に書き換えて幕を閉じた。




