第70話:お遊戯会の主役はパパ? 12人のヒロイン・オーディション
虹銀河の遠足から帰ったリアム一家を待っていたのは、幼稚園『リトル・コスモス』からの次なるイベント告知だった。
「……マスター。お遊戯会、決まった。……演目は『銀河を救った黄金のパパ』。……つまり、実話」
セレスが台本(という名の歴史書)を差し出す。12人の子供たちは「パパ、かっこいい役!」「ぼくたち、星の役!」と大はしゃぎだ。
問題は、劇中に登場する「パパを支える最愛の妻」の役だった。
「「「「「「当然、私ですわよね(よね)!?」」」」」」
12人のママたちが一斉にリアムに詰め寄る。幼稚園側は「平等に」と、ヒロイン役を巡る『聖王宮・ガチンコ配役オーディション』の開催を決定した。
オーディション会場(聖王宮の特設舞台)には、審査員としてリアムと12人の子供たちが並ぶ。
「質問ですわ! パパが戦いから帰ってきた時、どのような慈愛で迎えるべきか……。私は『全宇宙の浄化光』を纏って抱きしめますわ!」
エルナが全力の聖魔力を解放。会場が眩い光に包まれ、近くを通った衛星が「浄化」されて消滅した。
「甘いわ! 私は『次元龍の踊り』を披露して、リアムを野性的に癒やすわ!」
カリーナが舞えば、空間に亀裂が走り、異次元からお祝いの精霊たちが雪崩れ込んでくる。
審査が進むにつれ、ママたちの演技(という名の魔力自慢)はエスカレート。
「……マスター。私は、影になって寄り添う。……ほら、もう後ろにいる」
セレスがいつの間にかリアムの膝の上に座っている。
「みんな、落ち着いて! 劇なんだから、そんなに魔力を使わなくていいよ!」
リアムが慌ててなだめるが、その様子さえも「劇の一シーンのように美しい」と、隠れて見学していた他銀河の神々が涙を流して拍手喝采を送った。
このオーディションの練習風景は、銀河連邦の公式チャンネルで24時間生配信されていた。
旧帝国の残党たちは、画面越しに展開される「神域の演劇」に魂を抜かれていた。
「……見ろ。あのエルナ聖女が、一言のセリフのために銀河の配置を変えて『照明』にしているぞ……」
「我々がかつて楽しんでいた演劇は、紙芝居ですらなく、ただの泥遊びだったのだな……」
かつてリアムを「演技力すらない無能な王子」と嘲笑った元宮廷劇作家は、12人のヒロインが見せる「真実の愛」の演技に、自分の書いた脚本がどれほど薄っぺらだったかを悟り、筆を折って銀河の果てで「石を並べるだけの前衛芸術」に没頭し始めた。
結局、誰か一人を選ぶことができなかったリアムは、大統領権限と創造魔法を発動。
「よし! 脚本を書き換えよう! 主役のパパには『12人の最愛の妻』がいて、全員で宇宙を幸せにする物語だ!」
「「「「「さすがはリアム様!!」」」」」
こうして、脚本は「超大作・一夫多妻ファンタジー」へと変貌。
お遊戯会当日、宇宙の理が書き換わるほどの「愛の舞台」が幕を開けようとしていた。




