第7話:聖女の献身と、招かれざる女騎士
リアムの屋敷にエルナが加わり、スローライフはさらに華やかになった。
「リアム様、お洋服の洗濯が終わりました。……あの、この『自動洗浄機』、やはり凄まじい性能ですね。汚れだけでなく、心の穢れまで払われるようです」
「あはは、ただの洗濯機だよ。エルナが手伝ってくれるおかげで、僕も助かってるよ」
リアムに微笑みかけられ、エルナは顔を真っ赤にする。彼女にとって、この地はもはや砂漠ではなく、最愛の人がいる「聖域」そのものだった。
そんな平和な空気を切り裂くように、屋敷の境界線から激しい剣鳴が響いた。
「そこをどけ、野良犬! 私は帝国騎士団、リヴィア・フォン・ロズウェルだ! この地に潜むという大魔導師を捕縛しに来た!」
「オンッ!!(誰が野良犬だ、この小娘!)」
庭で門番をしていたフェンリルが、牙を剥いて吠えている。その目の前には、ボロボロになりながらも紅蓮の剣を構える一人の女騎士がいた。
「フェンリル、待って。……君、帝国の人だよね?」
リアムがエルナを連れて姿を現すと、リヴィアは目を見開いた。
「第、五王子……リアム様? なぜ貴方がここに……いや、それよりも! 背後の女は隣国の聖女ではないか! 貴様、帝国を裏切り、聖教国と手を組んだのか!?」
「裏切ったのは帝国の方だよ。僕はただ、ここで静かに暮らしたいだけなんだ」
リヴィアは帝国の名門騎士家の娘だが、魔力枯渇に喘ぐ帝国から「砂漠の異変を調査し、原因を排除せよ」という無茶な命令を下されていた。
「問答無用! その聖女を渡し、貴方も大人しく帝国へ戻ってもらう!」
リヴィアが炎の魔剣を振りかざし、リアムへ突撃する。
だが、その剣がリアムの数メートル手前で、見えない壁に弾かれた。
『古代魔法:【理の拒絶(物理無効)】を展開中』
「なっ……!? 私の全力の魔剣が……届かない!? バカな、貴方は魔力ゼロの無能だったはずだ!」
「ゼロなのは帝国の物差しでしょ? ……あ、危ないから剣は置こうね」
リアムが軽く指を鳴らすと、リヴィアの魔剣から炎が消え、ただの鉄屑のように力が抜けてしまった。さらに、極度の疲労と魔力切れで、リヴィアはその場に崩れ落ちる。
「……う、く……殺せ。任務に失敗した騎士に、生きる価値など……」
「殺さないよ。お腹、鳴ってるじゃないか」
リアムは彼女を抱きかかえると、コテージへと運び込んだ。
夕食に出されたのは、古代魔法で育てた最高級の肉と、エルナが愛情込めて作った特製スープ。
「……む、ぐ……こんなもの、毒かもしれない……っ!? な、何だこの美味さは! それに、失った魔力が、いや、それ以上の力が内側から……!」
涙を流しながら肉を頬張るリヴィアを、エルナが少しだけ嫉妬の混じった目で見守る。
「リアム様。この騎士、どうされるおつもりですか?」
「うーん。元気になったら帰ってもいいけど、あんなボロボロになるまで働かされるなら、ここにいてもいいんだけどね」
リヴィアは顔を真っ赤にし、震える声で呟いた。
「……帝国は、私を見捨てた。だが、貴方は私に食を与え、癒やしてくれた……。この借りを返すまで、私は……貴方の剣としてここに残る。……勘違いするな、あくまで借りを返すためだ!」




