第69話:虹銀河のハイキングと、平伏する魔獣のレッドカーペット
遠足当日。リアム一家と『リトル・コスモス』の園児たちを乗せた「通園バス(元・星喰い龍ヴォルガデス)」は、次元の帳を抜けて目的地『虹銀河』へと到着した。
そこは星々が虹色のヴェールを纏い、浮かぶ島々が綿菓子のような雲に浮かぶ、まさにピクニックのために作られたような幻想空間。しかし、そこにはこの銀河を数千万年支配してきた「原生魔獣」たちが生息していた。
「……何奴だ、我が聖域に足を踏み入れる不届き者は……」
銀河の主である「万色の獅子」が姿を現そうとした、その瞬間。
リアム一家から放たれる、お弁当の「美味しそうな魔力」と、25人の「圧倒的幸福オーラ」が銀河全体を呑み込んだ。
「……ひ、ひえぇぇ!? なんだこの、抗えない『パパ』の慈愛に満ちた光は!?」
魔獣たちは一瞬で戦意を喪失。それどころか、「このお方たちの歩く道を汚してはならない!」と、数万頭の魔獣たちが自ら地面に伏し、リアムたちが歩くための『生きた毛皮のレッドカーペット』へと姿を変えた。
「見て、リアム様! あの滝、流れているのが全部『最高級の桃ジュース』ですわ!」
エルナが指差す先では、リアムの魔力に当てられた自然界が、勝手に「家族向けの仕様」へと進化を始めていた。
「よし、みんな。ここで昨日のみんなのお弁当を食べようか!」
リアムがレジャーシート(空間固定された不可視の結界)を広げると、12人のママたちが作った「神器級のお弁当」が並べられた。
一口食べるごとに、リアムの体から黄金の波動が周囲に広がり、虹銀河の植物たちが一斉に開花。
12人の子供たちは、魔獣の背中をジャングルジム代わりにして遊び回り、「お馬さん、もっと早くー!」と、伝説級の獅子を子犬のように乗り回していた。
この光景を、帝国の跡地から「望遠魔法」で見ていた者たちは、もはや嫉妬する機能すら失っていた。
「……見ろ。我々が伝説の魔境と恐れた虹銀河が、あの方の家族にとっては『近所の公園』程度の扱いだ……」
「あの獅子……一国を滅ぼす災厄のはずが、今、赤ん坊に尻尾を振って『お手』をしているぞ……」
かつてリアムを「荒野に追放して魔物の餌にしろ」と進言した元軍師は、魔獣たちがリアムに愛を乞う姿を見て、「この世の真の強さは、武力ではなく『愛』だったのか……」と呟き、持っていた兵法書をすべて焚き火に投げ入れた。
幸せの余波
遠足が終わる頃、虹銀河はリアムの滞在によって完全に「浄化」され、触れるものすべてに幸運をもたらす『全宇宙一のパワースポット』へと変貌していた。
「……マスター。お腹いっぱい。……次は、みんなで『お遊戯会』。……楽しみ」
セレスがリアムの腕の中で、満足げに目を細める。
12人の子供たちの笑い声が銀河に響き渡り、新しい星座「ピクニックをする家族」が夜空に刻まれた。




