第6話:砂漠の聖女と運命の魔力
リアムが死の砂漠を「開拓」し始めてから数日が経った。
今やリアムの家の周りは、数百メートルにわたって鬱蒼とした森と、澄んだ水が流れる小川に囲まれている。
「リアム様、境界線付近に強力な魔力反応があります。……どうやら帝国の者ではないようですが」
農作業(という名の神具のテスト)を終えたゼロが、鋭い視線で南の空を指差した。
「お客さんかな? ちょうどお茶を淹れたところだし、歓迎しよう」
リアムがそう言って森の入り口へ向かうと、そこには傷ついた巨大な鳥(霊鳥)の傍らで、力なく座り込む少女がいた。
プラチナブロンドの長い髪に、泥に汚れながらも気品を感じさせる神官服。
「ああ……神よ……。この死の地に、なぜこのような……清浄な魔力が……」
彼女は、隣国ルミナス聖教国の第一聖女、エルナだった。
彼女は帝国に奪われた聖遺物を取り戻す道中、帝国の追手に襲われ、この死の砂漠へと逃げ込んできたのだ。
「大丈夫? 顔色が悪いよ」
リアムがそっと手を差し伸べると、エルナは顔を上げた。
その瞬間、彼女の瞳に映ったのは、リアムの体から漏れ出す黄金色の濃密な魔力のオーラだった。
(な、何……この方……!? 聖教国の教皇様ですら比較にならない……まるで太陽そのものが人の形をしているような……!)
「あ、あの……貴方は、一体……?」
「僕はリアム。訳あって、ここでスローライフを送ってるんだ。とりあえず、中に入って。冷たいお茶があるから」
リアムに手を引かれ、エルナは白亜のコテージへと案内される。
そこで彼女が目にしたのは、伝説のフェンリルが庭で昼寝をし、絶滅したはずの聖果実が雑草のように実り、家の中には神代の魔道具が溢れる「異常な楽園」だった。
「さあ、飲んで。自家製のソル・ベリーを絞ったジュースだよ」
「あ、ありがとうございます……っ!?」
一口飲んだ瞬間、エルナの体内に停滞していた魔力が爆発的に活性化し、負っていた傷が一瞬で完治する。それどころか、彼女が一生かかっても到達できないはずだった「聖女としての位階」が、そのジュース一杯で強制的に引き上げられてしまった。
「美味しい……。こんな……こんな幸せなことがあっていいのでしょうか……」
エルナの瞳に涙が浮かぶ。
過酷な修行と、国を背負う重圧に押し潰されそうになっていた彼女にとって、リアムの穏やかな笑顔と、この温かな場所は、あまりにも救いだった。
(決めたわ。この方こそ、私が生涯をかけてお仕えすべき真の『聖王』様です……!)




