第55話:銀河の海と、パパ特製「超次元キャンピングカー」
「……マスター。最近、宮殿の中、ちょっと狭い。……12人の子供たちの魔力、壁に反射して、私の肌がピリピリする」
セレスが贅沢な悩みを口にする。確かに、聖王宮はもはや「最強の生命体25人」が住むには、物理法則が悲鳴を上げるほどの魔力濃度になっていた。
「そうだね。よし、気分転換に家族旅行へ行こう! 目的地は、隣の次元にある『母なる海の銀河』だ!」
リアムがガレージ(という名の異次元倉庫)から引き出してきたのは、彼が密かに建造していた「超次元連結型・装甲キャンピングカー」だった。
見た目はレトロで可愛いバスだが、内部は無限に広がる空間拡張が施され、各ヒロイン専用の個室、12人の子供が暴れ回れるジャングルジム、さらには「銀河を眺めるための全天候型テラス」まで完備されている。
「さあ、出発だ!」
キャンピングカーが次元の壁を突き破り、たどり着いたのは、すべてが透明度の高い海水で満たされた「水の宇宙」だった。
そこには、一頭で惑星を飲み込むほど巨大な「古の海竜」たちが、宇宙の主として君臨していた。
……はずだった。
「「「「お馬しゃん!!!」」」」
車から飛び出した12人の赤ん坊たちが、光速の平泳ぎで海竜たちに突撃。
一頭数万年の歴史を持つ伝説の海竜が、赤ん坊たちの「遊び相手」として捕まり、首にリボンを巻かれて大人しく引かれていく。
「ひ、ひえぇぇ……。私はこの宇宙の神だったはずなのに……。あの赤子たちの握力、銀河を粉砕するレベルだぞ……!」
海竜たちが涙目になりながら、赤ん坊たちの「ソリ」を引く光景。
一方、リアムは浜辺(浮遊する砂の惑星)にパラソルを立て、12人のヒロインたちのために「宇宙トロピカルジュース」を振る舞っていた。
このバカンスの様子は、例によって帝国の魔導スクリーンに映し出されていた。
かつてリアムを「海に突き落として殺そうとした」近衛兵たちは、その画面を見て腰を抜かした。
「おい……見ろよ。俺たちが恐れていたあの伝説の海竜を、リアム王子の娘さんが『抱き枕』にして寝てるぞ……」
「俺たちの常識が、ゴミのように捨てられていく……」
もはや帝国の人々にとって、リアムの日常は「娯楽」ですらなく、ただ自分たちの矮小さを思い知らされるだけの「宗教画」のようになっていた。
「リアム様、見てください。あんなに楽しそうな子供たちの顔……。私、本当に、貴方についてきて良かったですわ」
エルナがリアムの肩に頭を預ける。
12人のママたちと、12人の子供たち。そして、彼らすべてを守り抜く一人のパパ。
「……これからも、もっと広い世界を見に行こうね」
リアムが指を鳴らすと、海の銀河の星々が花火のように弾け、家族の休日を祝福した。




