第53話:銀河一周ハイハイレースと、神々の置いてけぼり
「……マスター。子供たち、体力が有り余ってる。……宮殿の壁、もう300回くらい突き破られた。……いっそ、銀河をコースにして走らせるべき」
セレスが、物理的に穴だらけになった聖王宮の壁(自己修復中)を見ながら提案した。
「そうだね。よし、今日はみんなで『第一回・銀河一周ハイハイレース』を開催しよう!」
リアムが指を鳴らすと、スローライフ王国を中心とした近隣の12銀河が、光輝くコースへと作り替えられた。
審判として招集されたのは、全宇宙から集まった「光速を司る神々」や「次元の守護者」たちだ。
「……ふん、赤子のレースの審判など、この『瞬神』たる私には造作もないこと……」
神々が余裕の笑みを浮かべていた、その時。
「位置について、よーい……どん!」
ドォォォォォォン!!!
スタートの合図と共に、12人の赤ん坊たちが「ハイハイ」を開始した。
……が、それはハイハイなどという生易しいものではなかった。
彼らが床を蹴った瞬間、反作用で数個の小惑星が粉砕。赤ん坊たちは光の筋となり、文字通り「光速を超えて」銀河の彼方へ消えていった。
「な、何だ今の速さは!? 審判の私たちが追いつけないだと!?」
神々が必死に神速で追いかけるが、赤ん坊たちの「パパに一番に抱っこされたい」という執念の加速には、神の力すら及ばなかった。
このレースの様子は、リアムが空に浮かべた巨大な「魔導スクリーン」によって、旧帝国の跡地に住む人々にも中継されていた。
「……信じられん。あの赤子の一人が通った後の『衝撃波』だけで、隣の魔王領が更地になったぞ……」
「我々は、あんな『銀河を破壊するハイハイ』をする怪物たちを、自分たちの国に閉じ込めようとしていたのか?」
かつての帝国市民たちは、赤ん坊たちがコース上に落ちている「恒星」を片手で掴み、バリバリと食べながら加速する様子を見て、もはや恐怖を通り越して「拝む」しかなかった。
わずか数分後。
銀河を一周し、数々の次元の壁を突き破ってきた12人の赤ん坊たちが、一斉にリアムの元へ飛び込んできた。
「「「「パパー!!」」」」
12人の同時タックル。それは銀河系が消滅するほどの威力だったが、リアムはそれを柔らかな笑顔で受け止めた。
「よしよし、みんな早かったね! 同着1位だ!」
遅れてボロボロになって帰ってきた審判の神々は、リアムの足元に膝をつき、力なく呟いた。
「……リアム様。もう、我々を審判と呼ばないでください。彼らは……彼らは我々が数万年かけて到達した『理』を、オムツを履いたまま超えていきました……」
「あはは。次はもっとゆっくりな競技にしようか」
リアムが子供たちを撫でると、彼らの溢れるエネルギーが宇宙を活性化させ、滅びかけていたいくつかの文明に「恵みの雨」として降り注いだ。
無自覚な救済。それが「銀河のパパ」の日常となっていた。




