第52話:最初の一言と、全宇宙への「ざまぁ」宣告
スローライフ王国の聖王宮。今日は12人の赤ん坊たちが揃って「言葉」の練習をする記念すべき日だ。
リアムは期待に胸を膨らませ、12人の分身で一人一人の顔を覗き込んでいた。
「さあ、みんな。パパだよー。パパって言えるかな?」
その背後では、12人の母親たちが、我が子が最初に自分の名を呼ぶのではないかと、戦場以上の緊張感で固唾を呑んで見守っていた。
「……マスター、期待しすぎ。……でも、私の息子なら、きっと『真理』と呟くはず」
「いいえ! 聖女の血を引く我が子なら、『アーメン』か『リアム様最高』と言うに決まってますわ!」
その時。
セレスの抱く長男が、クリッとした目でリアムを見つめ、小さな口を開いた。
「……パ、パ……」
「おおっ! 言った! パパって言ったよ!」
リアムが歓喜に震えた、次の瞬間。
「……パパ以外の……ヤツら……『ざまぁ』……」
「「「「「ええええええぇぇぇ!!?」」」」」
聖王宮に響き渡る絶叫。
しかも、その言葉は赤ん坊の規格外の魔力に乗って、全銀河、全次元、そして旧帝国の隅々にまで「絶対不可避の神託」として響き渡ったのだ。
その頃、旧帝国の廃墟で、泥水を啜って生き延びていた元貴族たちは、空から降り注ぐ赤ん坊の可愛らしくも残酷な声を聞き、その場に平伏した。
「い、今のは……リアム王子の赤子の声か……?」
「『ざまぁ』……。我々は、生まれたばかりの赤子にすら、存在そのものを否定されたというのか……っ!」
赤ん坊が発した「ざまぁ」の一言により、帝国に残っていた最後の「傲慢なプライド」が物理的に砕け散った。彼らの頭上には、消えない刻印として【ざまぁ対象】という文字が浮かび上がり、二度と悪事を働けない体質へと作り替えられてしまったのだ。
「コラコラ! そんな言葉、どこで覚えたんだい!?」
リアムが慌てて抱き上げると、赤ん坊はキャッキャと笑いながら、リアムの指をしゃぶった。
「……マスター。あの子、毎日、庭で草むしりしてる元貴族たちの『絶望』を見てた。……教育に悪い。……今すぐ、あの人たちを異次元にポイする?」
「いやいや、ポイしちゃダメだよ。……あ、そうだ。みんなに『もっと綺麗な言葉』を覚えてもらうために、宇宙一綺麗な歌声を持つクジラを呼び寄せよう!」
リアムが指をパチンと鳴らすと、銀河を泳ぐ「次元クジラ」の群れが、赤ん坊たちに子守唄を聞かせるために王宮の周りに集結した。
12人の赤ん坊たちは、宇宙最大の生き物を「大きなぬいぐるみ」程度に認識し、その背中に乗って空中散歩を始めた。
「……はは、前途多難だけど、やっぱり可愛いなぁ」
リアムは、自分を「パパ」と呼んでくれた(直後に余計なことを言ったが)我が子たちのために、今日も宇宙の法則を「家族向け」に書き換える作業を続けるのだった。




