第51話:ハイハイは光速で、離乳食は超新星
12人の赤ちゃんが誕生して一週間。スローライフ王国の聖王宮は、かつてない活気(と物理的崩壊の危機)に包まれていた。
「あ、コラ! リアム・ジュニア! そこは次元の壁だから、爪を立てちゃダメだよ!」
リアムが慌てて追いかける先では、セレスとの間に生まれた長男が、生後数日にして「ハイハイ」で空間を歪め、隣の銀河へワープしようとしていた。
「……マスター。あの子、私に似て、飽きっぽい。……次は、ブラックホールの中でかくれんぼしたいって、魔力通信で言ってる」
セレスが平然と、赤ん坊のオムツを(宇宙の超合金製に)替えながら告げる。
「よしよし、パパがブラックホールよりも安全な『特製プレイルーム』を作ってあげるからね!」
普通のミルクでは、12人の赤ん坊たちの底なしの魔力を補うことはできなかった。
リアムは厨房(という名の聖域)に立ち、かつてないほど真剣な眼差しでフライパンを握る。
「ええっと……『太陽のエッセンス』を3滴に、アストライアが持ってきた『神界の蜂蜜』。隠し味に、僕の魔力を少し練り込んで……」
出来上がったのは、一口食べるだけで死者が蘇り、惑星が再誕すると言われる、究極の「黄金の離乳食」だった。
「さあ、みんな、ご飯だよ!」
リアムが12人の分身を使って同時にスプーンを差し出すと、赤ん坊たちは大喜びで食べ始めた。
その瞬間、彼らから溢れ出した幸福の魔力が、聖王宮を突き抜けて宇宙中に波及。
「あのおいしそうな匂いはなんだ!?」と、遠くの銀河の神々がよだれを垂らしながら王宮の周りに集まり始める始末だった。
一方、リアムの子供たちの噂を聞きつけた旧帝国の生き残りたちは、もはや「攻撃」などという愚かな考えを捨て、「媚びを売る」ことの究極形を目指していた。
「リアム陛下! どうか、お子様たちの『あやし役』に、我が帝国の元聖騎士団を雇ってはいただけませんか! 盾として、お子様の『くしゃみ』くらいなら防いでみせます!」
かつての最強騎士たちが、赤ん坊の「くしゃみ(空間破壊)」の盾になることを名誉だと叫ぶ。
それに対し、エルナが冷たく言い放つ。
「……くしゃみ? 冗談ではありませんわ。うちの子のくしゃみは、銀河の果てまで届く『神の息吹』です。貴方たちのような軟弱な盾では、分子レベルで消し飛んでしまいますわよ?」
「ひ、ひえぇぇ……!」
かつての宿敵たちは、赤ん坊の「子守り」すら務まらないという己の無力さを痛感し、すごすごと宮殿の「庭の草むしり(ただし、毒草が進化して魔獣化している)」へと戻っていった。




