第44話:神々の晩餐と、分身ラブコメの乱
新国家「スローライフ王国」の夜空には、数え切れないほどの宇宙船と、次元の裂け目から現れた神々の騎獣がひしめき合っていた。
会場となる聖王宮のホールは、もはや「空間拡張」を通り越し、一つの小銀河を丸ごと飲み込んだような幻想的な空間となっていた。
「……マスター。お客様、いっぱい。……でも、私の隣、空いてない。……どうするの?」
セレスがリアムの袖を離さない。一方で、エルナ、リヴィア、アイリスら12人のヒロインたちも一歩も引く気配はなかった。
「うーん、みんなと同時に踊りたいからね……。これならどうかな」
『古代魔法:【万象分身・意志共有】』
ポンッ、という軽い音と共に、リアムの姿が12人に増えた。
単なる残像ではない。それぞれが実体を持ち、リアム自身の意志で同時に動き、12人のヒロインそれぞれをエスコートし始めたのだ。
「「「「まあ……!!」」」」
12人のヒロインが一斉にリアム(分身)の手を取り、夢のようなダンスが始まった。
その様子を、招待された神々や「銀河の蒐集家」たちは、息を呑んで見守っていた。
「……バカな。高度な分身魔法を、これほど精密に、しかもそれぞれに完璧な紳士的振る舞いをさせるとは。あの王子、神の領域をとうに超えている……」
そこへ、一人の「最高神」を自称する老人が、最高級の贈り物――『銀河を一つ創造できる卵』を差し出した。
「リアム殿、これをお祝いに。貴殿の国のコレクションに加えていただければ……」
「あ、ありがとうございます! ちょうど、オムレツの材料が足りないと思ってたんです。美味しそうな卵ですね!」
リアム(本体)が受け取った瞬間、その場でフライパンを取り出し、神の卵を割り入れた。
「「「「ええええええぇぇぇ!!?」」」」
会場に響き渡る絶叫。しかし、焼き上がった「神のオムレツ」から漂う、魂を震わせる香りに、神々は腰を抜かした。
「……な、なんだこの香りは。……創造のエネルギーが、究極の出汁に昇華されている……。これを食べるだけで、我々の神格が一段階上がるではないか!」
神様たちがオムレツを求めて列を作る中、12人のリアムと踊る12人のヒロインたちは、あまりの幸福感に魔力を暴走させ始めていた。
「リアム様、分身していても、貴方の手の温もりは本物……。ああ、もう、離したくありませんわ!」
エルナの聖なる魔力がホールを虹色に染め、メロディの歌声が多次元へ響き渡る。
こうして、地上の旧帝国の人々が「雑巾」で細々と生きている横で、リアムは神々を顎で使いながら、史上最高に騒がしい夜を謳歌するのだった。




