第4話:砂漠の来訪者と自動化生活
太陽の雫を堪能したリアムは、さらなる生活環境の改善に乗り出していた。
「水と果物はあるけど、やっぱり温かい料理が食べたいし、体も洗いたいよな」
リアムはコテージの裏手に回り、昨日出現させた池から水を引くための溝を掘る。
「……いや、自分で掘らなくてもいいのか」
『古代魔法:【地形加工・最適化】を実行しますか?』
リアムが頷くと、地面がまるで意思を持っているかのように蠢き、池から家へと続く美しい石造りの水路が完成した。さらに、家の一角に石造りの浴槽を作り出し、そこに魔力を流し込む。
『属性付与:【恒久発熱】。温度を42度に固定します』
「よし、これでいつでも露天風呂に入れるぞ」
帝国では王族ですら、大量の魔石を消費してようやく入れる「魔導風呂」。リアムはそれを、古代魔法の端切れで「24時間自動給湯」にしてしまった。
そんなリアムの「やりすぎ開拓」を、離れた場所から震えながら見つめる影があった。
「な、なんだあれは……。報告と話が違いすぎるぞ……!」
それは、帝国の第一王子が放った隠密、影の男だった。
彼の任務は、追放されたリアムが野垂れ死ぬのを確認すること。しかし、眼前に広がるのは、死の砂漠にはありえない深緑の森と、優雅に朝食を食べる王子、そして――。
「フェ、フェンリル……!? 伝説の神獣をペットにしているのか!?」
隠密が恐怖に息を呑んだ、その瞬間。
フェンリルが鋭い視線を隠密の潜む岩陰に向け、低く唸り声を上げた。
「……あ、誰か来てるのか?」
リアムが顔を上げると、隠密は悟った。逃げられない。
彼は半狂乱で武器を捨て、岩陰から飛び出してリアムの足元に五体投地した。
「お、お命だけは! お命だけはお助けを、リアム様!」
「えっ? ああ、帝国の隠密さんか。こんな暑いところまで大変だね。喉、渇いてるだろ?」
リアムは敵意どころか、同情の眼差しで「太陽の雫」を一粒差し出した。
隠密は困惑しながらも、死を覚悟してそれを口にする。
「……っ!? なん……だ、この魔力は!? 傷が、昔負った古傷が消えていく……!」
ただの偵察員だった隠密は、リアムの無自覚な施しによって、一瞬で全盛期を超える力を取り戻してしまった。
圧倒的な力の差、そしてそれ以上に圧倒的な「豊かさ」。
「リアム様……! 愚かな帝国を捨て、私は今日から貴方様の影として、この地の開拓に従事させていただきます!」
「ええっ、別にいいけど……じゃあ、あそこの畑の草むしり、手伝ってくれる?」
こうして、リアムの領地に(本人の意図しないところで)最初の忠誠を誓う家臣が誕生した。




