第37話:銀河の王、実家(ボロ屋)に帰る
上空の巨大島をアストライアの魔法で「光学迷彩(見えない化)」し、リアムは数年ぶりに地上の土を踏んだ。
供に連れるのは、変装魔法で「ただの美少女」に化けたセレスとエルナの二人だけだ。
「……マスター。この家、ボロボロ。……壊して、ダイヤモンドの城、建てる?」
「ダメだよ、セレス。ここは僕が最初に魔法を練習した思い出の場所なんだ」
リアムがかつて住んでいた、王宮の隅にある物置同然のボロ小屋。そこには今、帝国の「落ちこぼれ騎士」たちが不法占拠して酒盛りをしていた。
「おい、なんだ貴様らは? ……ん? その顔、追放された無能王子のリアムか!」
酔っ払った騎士が、リアムの胸ぐらを掴もうとする。その瞬間、背後のセレスの瞳が「虚無」に染まりかけたが、リアムが手で制した。
「ごめんね、そこ僕の家なんだ。……あ、お詫びにこれあげるよ。さっき宇宙で拾った『ただの石』なんだけど」
リアムが手渡したのは、土星の環で精製した「超高純度・魔力結晶」。帝国が国を挙げて数百年かけても作れない、エネルギーの塊だ。
「はっ! こんな石ころ……。……えっ? おい、魔力測定器が……爆発したぞ!?」
騎士が持っていた魔力センサーが、あまりの出力に耐えきれず木っ端微塵になった。
そこへ、帝国で今最も勢いのある「天才魔導師」の令嬢が通りかかる。
「ちょっと貴方たち、何を騒いで……。……!? そ、その石、まさか伝説の『星の心臓』!? 一国を百年養えるほどの魔力があると言われる……。それを、そんな若者が、無造作に……!?」
ざわつく周囲を無視して、リアムは小屋の掃除を始めた。
「よし、まずは床を直そう。……『古代魔法:【原子再構成・完全修復】』」
パキパキパキッ!
一瞬にして、ボロ小屋が「見た目は木造、強度は神話級」の聖域へと変貌していく。
遠く王宮で「リアムを捕らえて島を奪え」と作戦を練っている皇帝たち。彼らはまだ知らない。
自分たちが「ゴミ」として捨てた息子が、今、帝国の経済と物理法則を、ただの「掃除」で破壊し始めていることを。




