第36話:凱旋のプロローグと、先代の置き土産
「……坊や。あんたの魔法、もうこの宇宙に敵はいないわね。でも、やり残したことはないかしら?」
アストライアがスコーンを頬張りながら、いたずらっぽく微笑んだ。
「やり残したこと……?」
「そう。例えば、あんたを『無能』と呼んで追い出した、あのちっぽけな帝国とかね。今のあんたの戦力なら、クシャミ一つで更地にできるけど……どう、一度拝みに行ってあげない?」
その言葉に、ヒロインたちの目が一斉に鋭くなった。
「……マスターを捨てた、愚かな国。……滅ぼす。今すぐ、粉々にする」
セレスの指先からブラックホール並みの魔力が漏れ出す。
「いいですね! 私たちのリアム様がどれほど偉大になられたか、あの無礼な皇帝の顔に叩きつけてやるですわ!」(エルナ)
「一万人の騎士団、全艦隊抜錨の準備はできております!」(アイリス)
みんなの熱気に押され、リアムは苦笑しながら頷いた。
「そうだね。復讐なんて興味ないけど……みんなで美味しいものを食べるための『平和な土地』を確保しに行くのも悪くないかな」
リアムが空中島の舵を大きく切った。
『古代魔法:【時空跳躍・故郷への帰還】』
一方、地上の帝国。
そこは悲惨な状況だった。魔力枯渇は極限に達し、かつてリアムを追放した皇太子たちは、枯れ果てた大地で泥水を啜りながら、細々と生き延びていた。
「くそっ、なぜだ! なぜこの世界から魔力が消えた! あの『出来損ない』のリアムさえいれば、今頃は……っ!」
皇帝が絶望の中で天を仰いだ、その時。
雲が割れ、太陽を覆い隠すほどの巨大な「ダイヤモンドの島」が姿を現した。
さらに、その周囲を埋め尽くすのは、見たこともない白亜の宇宙戦艦一万隻。そして島の中央からは、天をも貫くような黄金の魔力の柱が立ち昇っている。
「な、なんだ……!? 神か……神が、我らを見捨てに来たのか……!?」
空中島のデッキに立つリアム。その隣には、聖女、女騎士、魔族、ドラゴン、人魚、月の巫女、海賊、光の王女、歌姫、騎士団長、そして先代聖王。
全銀河の美と力が結集した光景を前に、帝国の人々は腰を抜かすことすら忘れて立ち尽くした。
「ただいま。……ちょっと、庭を借りに来たよ」
リアムの穏やかな声が、地上の隅々まで響き渡った。




