第32話:十人十色の包囲網と、椅子取りゲームの惨劇
「ヒロイン10人到達記念……? よくわかりませんが、お祝いなら盛大にやるですよ!」
商人の血が騒ぐミーシャの号令により、ダイヤモンドの別館は色とりどりの装飾で彩られた。
会場の中央には、リアムを囲むように配置された豪華なソファ。だが、誰がリアムの真横に座るか――その一点において、空気は絶対零度よりも冷たく張り詰めていた。
「……マスター。私、1番目の契約者。……隣は、譲らない」
無表情ながらも、セレスの背後からはどす黒い虚無の魔力が溢れ出している。
「何を仰いますか! 正妻(自称)たる聖女の私が、リアム様の右腕を支えるのが道理ですわ!」
エルナが聖なる杖を握りしめ、静かに火花を散らす。
「ふん、宇宙の冒険にはスリルが必要だ! リアム様の膝の上こそ、私の指定席だ!」
カリーナが野性味あふれる笑みで割り込もうとし、ルナが「ドラゴンの尻尾でリアムをぐるぐる巻きにして独占してやるわ!」と叫ぶ。
新入りのメロディは、その光景を眺めながら静かに口を開いた。
「……無駄な争いね。私の歌(周波数)で、リアム様以外の人を全員『一時的に眠らせれば』解決するわ」
「「「それは反則でしょぉぉ!!」」」
収拾がつかなくなった現場を見て、リアムは困ったように笑い、指を鳴らした。
『古代魔法:【空間拡張・円卓の主】』
瞬間、リアムを囲んでいたソファが魔法で円形に繋がり、全員が「リアムの隣」になれる不思議な四次元構造へと変化した。右を見ても左を見ても、全員がリアムの隣にいるという、物理法則を完全に無視した「神の座席」である。
「これならみんな隣だね。さあ、メロディ、お祝いに一曲歌ってくれるかな?」
「……ええ。貴方と、この騒がしい家族のために」
メロディの澄んだ歌声が響き渡り、土星の温泉水で作ったサイダーで乾杯する一行。
だが、その幸せな宴を遮るように、空中島のレーダーが赤い警告を発した。
「リアム様! 前方に巨大な『重力の歪み』を感知! ……これは、自然現象ではありません! 別の銀河から無理やり空間をこじ開けてやってくる存在があります!」
現れたのは、真っ白な装甲に身を包んだ、十字架の形をした巨大な宇宙艦隊。
『我らは「アンドロメダ純潔騎士団」。全銀河を美食でたぶらかす不届きな王子よ、その不潔なハーレムごと浄化してくれよう!』
どうやら、あまりにリアムがモテすぎるため、遠くの銀河の「独身騎士団」たちが嫉妬に狂って襲来したようだった。




