第30話:銀河を統べる一皿と、美食の聖域
空中島が「全銀河指名手配」の報を受けてから数日。島の周囲には、賞金目当ての軍隊や傭兵、さらには得体の知れない異星人の艦隊が雲霞のごとく集結していた。
「リアム様、包囲網は完璧ですわ。……これだけの数、流石に私の聖なる結界でも数日は持たないかもしれません」
エルナが冷や汗を流しながら報告する。
「うーん、困ったな。みんなとゆっくりお茶を飲みたいだけなのに。……よし、それならみんなにお裾分けをしてあげよう」
リアムが空中島の中央、アルカ・ノアから回収した「広域物質転送機」の前に立った。
『古代魔法:【万象調理・銀河規模】。……材料は、土星の氷、月のリンゴ、そして邪神の残りの干物。これらを一つに混ぜて……』
リアムが指をパチンと鳴らす。
次の瞬間、包囲していた数万隻の戦艦のコックピットに、「黄金に輝くスープ」が突如として出現した。
「な、なんだこれは……!? 攻撃の瞬間、目の前にスープが……。……っ!? う、美味すぎるぅぅぅ!!」
「戦うのが馬鹿らしくなってきた……。故郷の母さんに会いたい……。なんだこの優しい味は……!」
銀河中の猛者たちが、スープ一杯で戦意を喪失し、涙を流して武器を置いた。
その光景は、ルミナの光通信によって全銀河のモニターへと配信される。
「……マスター。宇宙、みんな泣いてる。……マスターの味、宇宙を平和にした」
セレスがリアムの裾を掴んで微笑む。
ついに姿を現した黒幕「収集家」も、自身の旗艦でそのスープを口にし、震えながら通信を入れてきた。
『……負けだ。私のコレクションなど、この一杯のスープの前ではゴミも同然だった。リアム殿、貴殿を「銀河美食王」として認め、賞金は全て取り下げる。……その代わり、また、それを食べさせてはくれまいか?』
こうして、銀河を揺るがした紛争は、リアムの「無自覚な料理」によって幕を閉じた。




