第23話:銀の輝きと、月夜の眠り姫
成層圏を越え、静寂の宇宙を渡った空中島は、ついに月の引力圏へと滑り込んだ。
地上からは小さく見えていた「銀の円盤」が目の前に迫り、リアムが古代魔法の出力を調整する。
「……着いたよ。ここが、月の表面だね」
そこは、リアムが事前に張った透明な大気シールドのおかげで、地上と同じように呼吸ができる快適な空間になっていた。
島が月面に降り立つと、一面に広がるのは銀色に輝くクリスタルの砂漠。そして、その中央には、時が止まったかのような「白亜の神殿」がそびえ立っていた。
「……マスター。あそこ、誰かいる。……とても、懐かしい匂い」
セレスが一点を見つめる。彼女の指差す先、神殿の入り口に、一人の女性が立っていた。
透き通るような肌に、真珠色に輝く髪。そして背中には、光り輝く羽のような衣を纏った美女――月の巫女、ルナティア。
「お待ちしておりました……地上に捨てられた、大魔導師の末裔よ。そして、我が同胞たるエルフの娘よ」
彼女は優雅に一礼し、リアムたちを神殿の中へと招き入れた。
「え? 僕の先祖のこと、知ってるの?」
「はい。貴方様が今使っている『古代魔法』。それは元々、この月で育まれ、かつて地上の人々に授けられたもの……。しかし、欲望に駆られた人間たちが魔法を兵器に変えたため、私たちは交流を断ちました」
ルナティアは、神殿の奥にある「星の果樹園」を案内してくれた。そこには、地上では絶滅したはずの、食べると魔力が無限に湧き出るという「銀のリンゴ」がたわわに実っている。
「すごい! これなら、地上の魔力枯渇も一気に解決しちゃいそうだね」
リアムが感心していると、ルナティアが頬を赤らめ、リアムの手をそっと取った。
「リアム様。貴方様のような清らかな魂を持つお方が、再び月を訪れてくださるのを、私は千年もの間……孤独に待ち続けておりました。どうか、この『銀の園』の主として、私と共に歩んではいただけませんか?」
「「「ちょぉぉぉっと待ったぁぁぁ!!」」」
静かな月の神殿に、地上組ヒロインたちの怒声が響き渡る。
「ルナティアさんでしたか? 月のしきたりは知りませんが、地上の『先着順』というルールを教えて差し上げますわ!」
エルナが聖なる杖を構え、ルナが「宇宙だろうとリアムは私のものよ!」と尻尾を振り回す。
宇宙の果てまで来ても、リアムを巡るヒロインたちの争いは止まるどころか、銀河規模へと拡大していくのだった。




