第22話:空飛ぶ聖域への招待状と、押し寄せる王女たち
「……リアム様、大変なことになっておりますわ!」
翌朝、エルナが震える手で持ってきたのは、古代魔法の通信機にひっきりなしに届くメッセージの束だった。
「どうしたの、エルナ? そんなに慌てて」
「昨日、邪神を美味しそうに調理された映像が世界中に流れた結果……『世界最強の夫』を求める各国の王女や女王から、婚姻の申し込みが殺到しているのです!」
ミーシャがその横から、算盤を弾きながら叫ぶ。
「リアム様、これはビジネスチャンス……ではなく、大ピンチですぅ! どの国の王室も『全財産を差し出すから、その島に住まわせてほしい』って言ってるですよ!」
見上げれば、空中島の周囲には各国の高速魔導舟がハチの巣のように集まってきていた。
「リアム様! 砂漠の小国の第三王女です! 掃除洗濯、何でもしますから入れてください!」
「北の氷結帝国の女帝だ! 貴公を私の夫に迎えたい、拒否権はない!」
拡声魔法によるアプローチの嵐。これに激怒したのは、もちろん「元祖」ハーレムメンバーたちだ。
「……マスター。あの女たち、目障り。……空から、叩き落とす」
セレスが虚無の魔力を手に集め、ルナも「私のリアムに色目を使うなぁ!」とドラゴンの咆哮を上げる。
「待って待って、みんな! 争うのは良くないよ。……よし、それなら島をもう一段階、誰も来られない場所に移動させよう」
リアムが空中島の中央にある制御盤を操作する。
『古代魔法:【成層圏突破・次元障壁展開】。目標、高度三万メートル。……ついでに、星がよく見えるようにドーム状の透明シールドを張っておくね』
ゴォォォォォ!
空中島は猛烈な勢いで上昇し、各国の魔導舟が追いつけない「天の果て」へと到達した。
そこは、青い世界(地球)が丸く見え、宇宙の星々が間近に輝く、静寂の聖域。
「わぁ……。空の上が、こんなに静かで綺麗だったなんて」
マリンが目を輝かせ、リヴィアも剣を収めてその絶景に見惚れる。
「ここなら誰にも邪魔されないね。……あ、でも、せっかくここまで来たんだし、もっと面白いものを見に行かない?」
リアムが指差したのは、夜空に浮かぶ巨大な「月」だった。
「あそこ、古代の地図だと『銀の楽園』って書いてあるんだ。新しい食材や、もっと凄い魔法があるかもしれないよ」
世界中の王女たちから逃げ出した結果、リアムたちのスローライフはついに「宇宙進出」という異次元の領域へ突入しようとしていた。




